親潮はそれほど強くない (親潮ウォッチ2017/09)

暖水にさまたげられ、岸沿いの親潮の南下は弱まっています。先月の予測より弱く、週2回更新される予測では岸沿いの親潮の南下が弱いという状況を次第に反映しています。

全体的な状況

まず、日本周辺の水温状況を見てみましょう。図1は、2017年8月17日(親潮ウォッチ2017/08で解説)と、2017年9月17日の、海面水温の平年との差を見たものです[1]。平年は1993から2012年の20年間の平均で、それより高い場所が赤っぽい色、低い場所では青っぽい色になっています。

親潮ウォッチ2017/08で書いたように、8月の海面水温の特徴は、西日本周辺では水温が平年より高くなっている一方、東日本周辺では水温が平年より低い、西高東低でした(図1上段)。9月になると、東日本周辺ではさらに平面より冷たい海域が目立つ一方、西日本周辺では平年より高い海域が縮小しています(図1下段)。

8月17日には平年よりかなり温度の高かった東シナ海(図1上段A)は、9月17日には平年より低い海域もあらわれています(図1下段A)。水温の低下には台風18号の通過も影響しています。

日本南岸では、平年より温度の低い海域が、図1上段のBから図1下段Cに移動しています。黒潮予測記事で書いてきた蛇行1から蛇行2への変化によるものです。

親潮周辺海域では、8月17日より(図1上段D)より9月17日(図1下段D)の方が平年より冷たい海域が目立ちますが、詳細に見ると平年より冷たい海域ばかりではありません。以下で見ていきます。

Fig1

図1: 海面温度の平年(1993年から2012年の平均)との差(℃)。[上段]2017年8月17日。[下段] 2017年9月17日。

 

親潮の様子(海面)

親潮周辺の様子を詳しく見てみましょう。図2左は、図1下段を親潮域で拡大した図です。上で述べたように親潮域周辺で全体的に平年より冷たくなっていますが、赤矢印でしめしている海域では平年より高くなっています。全体的に冷たい中で、一部だけ水温が高いのは海流の影響だと考えられます。

図2右は、対応する海面温度そのもの(色)と、流れ(矢印)です。流れを見ると、親潮が岸沿いに南下せず、北海道に達する前に岸から離れています。親潮が入ってこないことが北海道沖や東北沖のやや高温と関連しているようです。

Fig2

図2: [左図] 2017年9月17日の親潮周辺の海面温度の平年(1993年から2012年の平均)との差(℃)。[右図] 同じく2017年9月17日の海面水温(色、℃)と流速(矢印)。

親潮の様子(海面下)

海流の様子をより良くみるために、天気の影響を受けにくい海面下の水深100メートルの様子を見てみましょう(図3左図)。昨年の状況とも比べます(図3右)。昨年は北海道南東に暖水渦(図3右B)が居座っており、親潮(水色矢印)が沿岸沿いに南下するのを完全にさまたげていました(図3右)。今年はそれほどではありませんが、図3左の渦Aから流れにのって伸びる暖水(ピンクの矢印)などにさまたげられ、やはり親潮が岸沿いに南下しにくいようです。

Fig3

図3: 水深100メートルでの水温(色、℃)と流速(矢印)。親潮勢力の指標として水温5度に赤細線で等値線。青枠は図8の計算に使用。[左図]今年の9月17日。暖水の動きを説明するために、ピンクの太い矢印を記入。[右図] 昨年の9月17日。

予測を検証

先月の親潮ウォッチ2017/08では、サンマ長期漁海況予報に触れつつ解説したとおり、親潮はもっと沿岸寄りに南下すると予測していました。図4右は、8月17日から予測した9月17日の親潮域の水深100mの水温です。親潮の冷たい水温は北海道南岸沿いに南下すると予測していました(赤細線が親潮勢力の指標として水温5度の等値線)。実際には(図4左)、それほど親潮が岸沿いには南下していません。

親潮ウォッチでは月に一度しか親潮周辺の予測を解説していませんが、JCOPEのサイトでは毎週2回予測を更新しています[2]。図5には8月21日以降全ての、9月17日を対象にした予測結果をのせています。下にいくほど新しい予測で、観測結果を反映しながら、親潮はそれほど岸沿いには南下しないという予測へと次第に修正されているのがわかります。

Fig4

図4: 水深100メートルでの水温(色、℃)。親潮勢力の指標として水温5度に赤細線で等値線。[左図]観測値を取り入れた今年の9月17日の推定値。[右図] 8月17日から予測した9月17日の値。

 

Fig5

図5: 9月17日の水深100メートルでの水温(色、℃)を対象とした、8月21,25,27,31日,9月4,8,10,14日からの予測。親潮勢力の指標として水温5度に赤細線で等値線。

9月18日からの予測

図6は、JCOPE2Mで9月18日から予測した9月30日の親潮域の水深100mの水温(左図)と、平年の水温([3]、右図)を比較しています。水温5度の等値線が親潮の勢力の指標になっています。

図6左のA付近にある暖水の勢力が強い間は、平年にくらべて岸沿いの親潮の南下は弱いと予測されています。その後、暖水が移動すると、平年並みにもどりそうです。図7は、図6に対応する9月18日から11月23日までの予測をアニメーションにしたものです。ただし渦の動きの予測は難しいので、予測が変わる可能性があります。最新の予測は週2回更新されるJCOPE のサイトでチェックしてください。

FiFig6

図6: JCOPE2Mで2017年9月18日から予測した9月30日の親潮域の水深100mでの水温(左図)と、平年の水温(右図)の比較。親潮勢力の指標として水温5度に赤細線で等値線。青枠は図8の計算に使用。

 

 


図7: 親潮域の水深100mでの2017年9月18日から11月23日までの水温のJCOPE2Mによる予測(左図)と、平年の水温(右図)の比較のアニメーション。親潮勢力の指標として水温5度に赤細線で等値線。青枠は図8の計算に使用。クリックして操作してください。途中で停止もできます。

親潮面積

JCOPE2Mによる推定によれば(図8青太線)、親潮の勢力の指標である親潮面積(図3の青枠での水深100メートルの水温5度以下の水の広がり)[4]は、岸沿いの親潮の南下が弱かったことを反映して、9月以降、平年よりかなり小さな値になってます。予測(青天線)では、次第に平年並みに戻りそうです。

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図8: 親潮面積の時系列(単位104 km2)。赤線が2015年1月から現在までのJCOPE2再解析から計算した時系列。黒細線は平年(1993-2012年)の季節変化。灰色の範囲は平均からプラスマイナス標準偏差の範囲。2016年10月からは、JCOPE2再解析の代わりに、新モデルであるJCOPE2Mによる値(青実線)を使用。青点線は2017年9月18日からのJCOPE2Mによる予測。

 

  1. [1]この記事では、今年の値はJCOPE2Mを、昨年や平年の値はJCOPE2再解析を使用しています。
  2. [2]親潮関係の図の見方は2017年1月18日号2017年2月1日号で解説しています。
  3. [3]1993から2012年の平均。
  4. [4]親潮面積については、「親潮が記録的なあたたかさ(親潮ウォッチ2015/9)」で解説しています。

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黒潮親潮ウォッチでは、親潮の現状について月に一回程度お知らせします。親潮に関する解説一覧はこちらです。 JCOPE-T-DAによる短期予測はJAXAのサイトで見ることができます。 4日毎に更新されるJCOPE2Mによる親潮の長期解析・予測図はJCOPE のweb pageで見られます。親潮関係の図の見方は2017年1月18日号2017年2月1日号で解説しています。