2018年2月4日放送の以下のラジオ番組でインタビューに答えます。
番組名 | 「日曜ネイチャーランド」のコーナー「海のみらい・ふしぎ探検隊 ~Jamstec海の研究所~」 |
放送日時 | 2018年2月4日(日)午前~ |
放送局 | FMしみず・マリンパル |
番組サイト | http://www.mrn-pal.com/program/nature-land/index.html |
関連 | FMしみず・マリンパルはインターネットでも聴くことができます。 |
放送後追記
以下の文章は事前にいただいた質問に対して事前に準備した文章です。実際の番組の会話とは違いますが、だいたい同内容のことを話しました。
①黒潮の蛇行現象とは?
黒潮は日本南岸を流れる強い海流で、普段は紀伊半島をかすめるように流れた後、静岡県御前崎沖200km付近を東に流れています。それが現在は紀伊半島から離れた後、御前崎沖では400km付近まで大きく南下しています[1]。その後、伊豆諸島の西で急に伊豆半島付近まで北上します。黒潮が大きく南に蛇行カーブを描いて流れるので、こういう状態を黒潮大蛇行と呼びます。いったん黒潮大蛇行が始まると一年以上長期にわたってその状態が続く傾向があるので、「黒潮大蛇行」という特別の名前を使って、その状態を呼んでいます。
伊豆半島付近まで北上した黒潮の一部は静岡県沿岸付近を東から西に流れます。黒潮大蛇行と聞くと黒潮が遠くに離れるというイメージがあるかも知れませんが、静岡県沿岸にとっては逆に静岡県沿岸に暖かい黒潮の水が東から西に押し寄せるというイメージをもったほうが良いかもしれません[2]。
②美山さんは12年ぶりの大蛇行をズバリ予測されたそうですね。
ズバリ予測できていたかは、どの時期の黒潮を、どれくらい前から予測していたかによっても答えが変わってきます。私たちのJAMSTECのグループではコンピュータシミュレーションにより、週2回、2ヶ月先までの海流の予測をやっています[3]。昨年黒潮大蛇行が実際に発生したのは8月末から9月にかけてでした[4]。それに先立つ5月末頃から黒潮大蛇行になるかもしれないという発表を始めました[5]。その予測自体はそのままぴったり当たったわけではありませんが、海の観測にもとづきながら少しずつ予測を修正して、8月上旬にはかなり確信をもって黒潮大蛇行が起こると予測することができました[6]。
③私たちの生活に与える影響は?
さきほど、黒潮大蛇行が静岡の海岸に押し寄せていると言いましたけれども、黒潮の暖かい水が西から押し寄せると静岡沿岸の海面の高さをいつもより高くする効果があります。この状態で台風などが近づくと、海面の水位が上がって沿岸が浸水する高潮と呼ばれる被害が出ることがあります[2]。実際、昨年10月に台風21号が近づいた時に清水港や由比で高潮の被害がありました。原因として強い台風が満潮に近い時期に来た要素は大きいですが、黒潮大蛇行の影響もあり海面が普段より20~30cmほど高かったことも、高潮被害があった一因だと考えられています[7]。黒潮大蛇行が続いているかぎり、高潮には注意したほうがよいでしょう。
また、黒潮が普段とは違うところを流れ海洋環境が変わってしまうために、魚の不漁につながったり、磯焼けと呼ばれる海藻が死んでしまう現象が起こったりすることがあります[8]。昨年、例えばシラスの不漁が伝えられており、黒潮大蛇行が影響した可能性はあります。ただ、生き物は海流だけでは決まらないので、実際の原因は海流の研究者と水産関係者が協力して、原因を探っていく必要があります。
④美山さんの海流の研究は現在、紀伊半島沖 熊野灘で研究航海中のちきゅうにも役立っているんですね?
「ちきゅう」は海の上で作業をおこなっていますが、いったん作業を始めたら、静止していなければなりません。そこに強い海流が来たら事故につながりかねないので、海流の動きには十分な注意を払っています。そこで、私たちの海流予測を提供して、「ちきゅう」の運行に役立ててもらっています[9]。現在「ちきゅう」が観測をおこなっている熊野灘は黒潮が流れているところで、海流が強く、「ちきゅう」はいつも苦労しています。ただ、今は黒潮大蛇行のために黒潮が遠ざかっているので、流れが弱く、「ちきゅう」は順調に作業を進めていると聞いています[10]。
⑤ リクエスト曲と選曲理由をお願いします。
リクエスト曲は、氷川きよしの「黒潮海流」です。黒潮をテーマにした歌はそれほど多くなくて、だいたい演歌です。その中でもローカル色の強い曲が多いですが、この曲は地名が出てこなくて黒潮沿岸ならどこでも自分の持つ黒潮のイメージをもつことができます。それから、渦や蛇行など自分の研究と関係のある言葉が出てきます。演歌だけでなくポップスなどもっと黒潮が出てくる歌が出てきて、黒潮に親しみを持って欲しいです。
これまでの取材協力の一覧はこちら。
黒潮大蛇行の記事のまとめはこちら。
- [1]参照: 気象庁が推定する黒潮までの距離。↩
- [2]ここでは「押し寄せる」とイメージで説明していますが、正確な説明には地球の回転効果(コリオリ力)を考慮に入れる必要があります。2017/9/13号「黒潮大蛇行で浸水被害?」参照。↩
- [3]2016/12/16号「JCOPE2Mによる予測が週2回に!」。↩
- [4]2017/01/10号「2017年の黒潮をアニメーションで振り返る」。↩
- [5]2017/5/31・APLコラム「黒潮大蛇行は発生するか?」。↩
- [6]2017/11/01号「黒潮大蛇行はどれくらい前から予測できていたか?」。↩
- [7]2017/10/24放送・NHK総合「ニュースウォッチ9」台風21号による高潮。↩
- [8]参考資料
・黒潮大蛇行の沿岸漁業への影響 (静岡県水産技術研究所伊豆分場)
・黒潮大蛇行に関連する漁海況の特異現象(静岡県)対象期間:2004 年8月~2005 年4月 (静岡県水産試験場漁業開発部)。↩ - [9]「ちきゅう」のための海流予測3 (1)黒潮大蛇行の中、第380次研究航海始まる。↩
- [10]「ちきゅう」のための海流予測3 (2)黒潮大蛇行で流れが弱く、航海順調。↩