Chikyu Report
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ちきゅうTV第17話 後編(テキスト版)2012年07月25日

それでは、今回の研究航海では、具体的にどんな研究をするんですか。

ひとつは、船上で最新の生命検出法を使ってですね、現場で高速かつ超高感度の微生物の検出と、あとは数を数えるという作業をします。

今回は、(海底下)2200メートルまで掘削したいと狙っていますので、生命、海底下における生命の存在域というのを大きく更新するようなことになります。



なるほど。ここが生命が住むのに限界だったんじゃないかと思われていた領域が、もっと深いところでも住んでいるという発見ができるかもしれないという

そうですね。われわれどのくらいまで深くまで、地球の内部に生命体がいるのか、まだわかっていないんですね。それを探るひとつの大きな機会になるだろうと思います。

さらに、天然ガスがたまっていたり、石炭があったりするような場所というのは、これまでの科学海洋掘削では技術的に掘れないような場所だったんですね。

しかし「ちきゅう」という船はですね、石油業界でも使われているような「ライザー掘削」というシステムを持っています。そのシステムを使って掘削すると、ガスがたまっていたり、石炭層が濃集していたりするような場所でもですね、掘削調査をすることができるんですね。




いまの海洋科学掘削の(海底下からの)最高到達深度は2111メートルなんです。それを今回は、最低でも2200メートルまで更新したいと思っていますので、まあ、それは我々の分野というかですね、海洋科学掘削の中でも、大きな一歩になることは間違いないと思います。

稲垣さんが大成功といえるような結果というのは、どういうものを一番想像しているんですか。

ひとつは、科学海洋掘削における世界最高深度のサンプルをゲットする。もうひとつはですね、海底下深くの地殻内流体、というものを現場でチューチュー吸おうという野心的な試みも実は計画しています。

石炭層の周りには、砂岩という砂でできた層があってですね、そこには水がすきまに一杯たまっているわけです。そこには、石炭から染み出たいろんな栄養分=エネルギーが詰まっているわけですよ。

それがゴハンなんじゃないかと。




そう。ただ、コア(柱状の地質試料)を採ってきただけでは、なかなか水の中の成分というのは解析のために十分な量が採れないので、このくらいの(500mlのペットボトル)海底下2000メートルくらいにある水が採れれば、これはもう、ここから得られる科学的な情報というのは莫大なものになると思いますね。

いや~、なかなか大変そうですけれども、いまの稲垣さんの目を見ているとですね、非常に結果が出るのが楽しみです。ぜひまた笑顔で下船後にお話しできることを楽しみにしております。頑張ってください。どうもありがとうございました。

ありがとうございました。


さて、いかがでしたでしょうか。この研究航海では、人類が初めて挑戦することになる部分もあるということで、いったいどんな成果が出るのか、本当に楽しみですよね。

東日本大震災で「ちきゅう」が被災損傷したために延期になった研究航海が今回改めて実施することになったことを受けまして、稲垣さんから研究航海に賭ける気持ちをメッセージでいただいておりますのでご紹介します。

(稲垣からのメッセージ)
この研究航海は、昨年3月15日から開始することを予定していましたが、その4日前に起きた東日本大震災により延期されていました。

東日本大震災後、日本、もしくは世界のエネルギー需要が大きく変わりつつある中で、八戸沖のような海底資源環境の科学調査により、私たちが地球環境と調和し、より良い未来を作っていくための新しいヒントが生まれるかもしれないと感じています。




特に、二酸化炭素や天然ガスであるメタンのような「炭素」が地球規模で循環し、環境を維持するメカニズムは、本来、地球そのものが持っている天然のシステムであり、そこからわたしたち人間が学ぶことはまだまだ多いのです。

実は、私の実家は福島県で、両親や家族が被災しました。東日本大震災を経験し、地球のこと、生命(いのち)のこと、将来のエネルギーのことなど、いろいろと考えさせられ、震災の前と後では、この調査航海に対する思いや意義のようなものが大きく変わったと感じています。

地質学、物理化学、地球化学、微生物学、そして分子生物学によるゲノム研究など、さまざまな分野の研究を通じて、八戸沖の海底下深くの実態をシステマティックに解明していく、その研究の過程で、地球内部の生命の進化の謎や、今後、日本沿岸の海底資源環境をどのように利用していくかといった糸口がみえてくるのではないかと考えています。

森や人の腸内で微生物が重要な役割を果たしているのと同じように、膨大な海底下の微生物が、地球環境や炭素循環にどのような役割をはたしているのか、この航海で明らかにしたいと思っています。


私もみなさんと一緒に研究チームを応援していきたいと思います。探査船「ちきゅう」は7月26日に青森県の八戸港を出航する予定となっております。

さて、次回の「ちきゅうTV」では、東日本大震災の巨大地震と津波を引き起こした断層を特定し、震源断層の摩擦熱を計測するセンサー設置に挑んだ模様をお届けします。再挑戦と、なりますね。

次回の「ちきゅうTV」は2012年8月29日配信予定となります。

JAMSTEC presents Discover the Future ちきゅうTV、ナビゲーターのサッシャでした。See you next time, bye-bye.

[ ちきゅうTV Vol.17動画版はこちら ]





This program is brought you by JAMSTEC.

The expedition Deep Coalbed Biosphere off Shimokita is partly supported by Japan Society for the Promotion of Science,and implemented by JAMSTEC/IODP

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