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[散歩×地球惑星科学者]科学者ナガシマは、余白でひらめきを捉える。

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海と地球の研究者は、ふだんいったい何を考えて、どんな日常を送っているのでしょうか。今回お話を伺ったのは、海洋生態系研究グループで副主任研究員を務める長島佳菜さん。「研究者のLIFEにとって大切なことって何ですか?」と尋ねてみると、意外にも「セルフマネジメントですよ」という返答が。なぜなんでしょうか。

プロフィール写真

長島 佳菜

地球環境部門 地球表層システム研究センター
海洋生態系研究グループ 副主任研究員
JAMSTEC歴17年。趣味は散歩とジョギング、家の間取り図を眺めることなど。

いかに仕事をマネジメントするか

「研究者の仕事というのは、基本的に自分で研究テーマを選ぶことが多いんです。ただ、自由に仕事に取り組める一方で、日々のスケジュールやタスクなどは自分で管理していかなくてはいけないという側面もあります。また、研究の仕事以外にも書類作成などの細かな業務も行う必要があるのですが、そういう作業ばかりに気を取られていると、今度は研究の方が疎かになってしまうことも。研究上のアイデアを生み出すには、リラックスして物事を考えられる『余白』の時間がどうしても必要。なので、いかに自分で仕事をマネジメントするかが重要になります」

そんな長島さんが余白づくりに利用しているのが、早朝の時間。業務前の空き時間を利用して散歩に出かけることで、頭の中をリフレッシュさせることができるのだとか。

写真。丘の上から主に一軒家が連なる住宅街を見下ろしている。
横浜~横須賀は起伏が大きく、丘の上から海沿いにかけて異なる景色が見られるところが散歩の醍醐味。研究調査(主に乗船)のための体力作りも兼ねています。

「あとは、電車の移動中だったり、入浴中だったり…。要するに、1日の中にある『ゆるい時間』ですよね。そういう一見無駄に見える時間って、プレッシャーなしに頭を動かせるので、ちょっとした研究のアイデアが出てくることがあるんです。だから、とても貴重なんですよ」

大学入学早々、「風」にハマる。

長島さんが行っている研究のテーマは、「風」。風というと、風の強さだったり、温度だったり、私たちの生活で感じるあの風…を想像しがちですが、長島さんが対象にしているのは少し違います。なんと、風が持っている「記憶」です。海や湖の堆積物に含まれた黄砂を分析し、そこから1万年前の偏西風の経路とその変化を研究しているのだとか。でも、なぜ風に興味を持つようになったんでしょうか。

写真
ピストンコアラーを用いて海底堆積物を採取した様子。採取後は船の上で全長20m近くの堆積物を1-2cm間隔に切り分け、研究者がそれぞれの研究機関に持ち帰って様々な分析に用います。多い時には千個単位の試料を持ち帰るので、下船後の分析が大変!

「大学入学当時、キャンパスで新入生部活勧誘のイベントがあって、そこで『航空部』の看板が目に入ったんです。実は、私の叔母が学生時代に航空部に憧れていたようで、『グライダーって楽しそうだよ』という話を昔から聞いていて。そのことが頭にあったので、興味本位で航空部をのぞいたところ、試乗会に参加できることになったんです。グライダーというのは、エンジンなしで空中を滑空する飛行機みたいなもの。上昇気流を捉えながら高度をあげて先に進んでいくのですが、上空で風を掴んだ時の気分が最高で。ちょうど『新しいことに挑戦したい!』と思っていた時期でしたし、すぐに入部を決めました。以来、大学の4年間はずっと航空部一色でした(笑)」

長島さんはこの部活を通じて、風を読むことの面白さを実感。一方で、「興味のあることを自由に勉強したい!」という想いもあって、気がついたら自然科学の道へ。さらに、博士課程のときに指導教官の先生から「あなたは風のことが好きだし、黄砂が合ってるんじゃないの?」と言われたことが決め手となり、現在のテーマを研究していく一歩を踏み出すことになったと言います。そして2005年に博士課程修了後、いよいよJAMSTECでの生活が始まりました。

写真。長島がモニターを見ながら電子顕微鏡の操作を行う様子。
海水や堆積物に含まれる黄砂の粒子(何千個!)を電子顕微鏡で観察し、物性などを詳しく調べます。試料採取も実験も解析も、体力勝負です。

「そもそも私は疑い深い性格なので、研究のプロセスそのものが好きなんですよ(笑)。だから、最初から一般企業に入社して働くイメージは全然なかったんです。JAMSTECを選んだのは、ある程度の制約はありつつも、その中で自分の研究したいテーマを自由にやらせてくれる環境があったから。そういう環境は、17年経った今でも変わりません。だから、仕事は毎日楽しいですね」

過去200年分、風の変化を知りたい。

現在の研究をさらに進めて、いずれは「産業革命前からの偏西風の変化を、10年単位、いずれは数年単位で分析できるようにしたい」という長島さん。

「それができれば、未来に起こりうる地球の異常気象を推理する手かがりになります。日本の将来の気候にも関係することなので、ぜひ突き詰めていきたいですね」

人間の活動と地球の変化がどう関わっているかを解明するため、長島さんは今日も新しいアイデアを模索しています。

長島佳菜×研究テーマ

毎年春になると、中国やモンゴルの砂漠から偏西風に乗って日本に飛んでくる、黄砂。これらを日本の湖や日本海、北太平洋の堆積物の中から取り出し、過去1万年間の風の経路とその変化を解明している。過去の偏西風を調べ、複雑な動き方の仕組を解明することができれば、日本の気候を正確に予測することが可能になる。その上、温暖化や気候変動など地球上の異常気象に関する原因究明にもつながることから、世界的に注目を集めている。

写真。船の作業甲板から係留気球を飛ばしている様子。
2021年の研究航海では、首席研究員の竹谷さん(JAMSTEC主任研究員)を中心に、係留気球(写真の赤い金魚型のもの)を用いた大気観測を行い、黄砂や人為起源エアロゾルなどの採取が行われました。この航海では、大気観測、海水の化学分析やプランクトンなどの生物に関する観測、そして水深5000mの泥の採取まで、ものすごい鉛直方向の広がりがあったと言います。

長島さんコメント

風の痕跡を捉えるために、また黄砂が海洋生態系に与える影響を調べるという目的もあって、JAMSTECの研究船による海洋観測に参加しています。船上での観測や日々の様子を綴った、乗船研究者による航海日誌(みらい物質循環観測航海日誌)が航海毎に公開されているので、是非ご一読ください。良くも悪くも研究者の生態が浮き彫りになってしまっています。

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