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JAMSTEC探訪

巨大地震の痕跡も!海底地下の地質試料「コア」研究の最前線 ~地球科学史を保管する研究所!<前編>

「ちきゅう」には、どんな研究者が乗っている?

――久保さんご自身も「ちきゅう」に乗船するんですか?

いまは乗りませんが、2007年から2019年までは「ちきゅう」で研究者を支援する仕事をしていました。30人ぐらいの研究者が乗船するのですが、彼らが船の上の限られた時間で最大限の成果をあげられるように支援する役割です。

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写真・地球深部掘削船「ちきゅう」。中央部に建てられたやぐらから海底下に向けてパイプを下ろしていく。全長210 m、船底からやぐらの上端までは130 mもある。/写真提供:JAMSTEC

研究分野は各人それぞれ違うので、彼らがやりたいことを理解して、それがうまくできるように実験装置などを手配したりしていました。いまは地上で世界中の研究者から「こういうコア試料が欲しい」というリクエストに応じてサンプルを提供していますが、船上での経験も生きていると思います。

――どんな分野の研究者がコア試料を使うんですか?

乗船する研究者の肩書きだけでも、堆積学、構造地質学、古生物学、有機化学、無機化学、古地磁気学、微生物学など10種類ぐらいありますね。海底下から採取したコア試料は上から下まで年代がきれいにつながっているので、どの分野であれ、過去の状態や履歴を知りたい研究者にとっては価値があるんです。陸で採取したコア試料は、長い年月をかけて海から陸に上がるまでに複雑な過程を経ているため、断片的になってしまうことが多いんですね。

「地震研究」から「海底下の微生物」まで

――同じ場所で掘削したコア試料でも、いろいろな研究分野で使われるわけですね。

たとえば南海トラフの掘削と聞くと地震の研究だと思われやすいですし、実際それもありますが、そのほかにも微生物研究のための航海もしています。海底下は深いほど温度が高くなりますが、南海トラフはふつうよりも温度勾配が高いので、比較的浅いところでも100度を超える場所があるんですよ。どこまで高温の環境で生物が生きていられるかというのは微生物研究者にとって大きなテーマのひとつなので、南海トラフはその分野でも重要な海域なんです。

――研究対象が微生物だと、コア試料の保管にも気を遣いそうですが。

コア保管庫は室温4度、湿度80%を維持していますが、微生物や生体分子の研究に使う一部の試料はマイナス80度の極低温で管理しています。ただ、微生物の研究者はあまり古い試料を使いたがりませんね。地上の微生物が混入しないよう、採取したばかりのコアを船上で開ける際に、空気に触れないように保管して使用する人もいます。

――保管庫のコア試料は、リクエストすれば誰でも使えるんですか?

学術的利用については世界中の研究者に公開されています。教育目的や博物館での展示のために利用することもできますね。リクエストした研究者自身が来て持ち帰ることもありますが、基本的にはこちらのスタッフが必要な部分をコア試料から採取して、世界中に発送しています。

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写真・高知コア研究所では採取したコア試料の切り出しや分析も行う。/撮影協力:マリン・ワーク·ジャパン、撮影:市谷明美・講談社写真部

冷蔵保管していても、どうしてもカビが生えてしまうことはあるのですが、有機物の研究者にはその表面を薄く削ってきれいにしてから送ることもありますね。研究内容によっては、金属やプラスチックに触れないようにしてほしいという要求もあるので、それに合わせて使う道具も変えながらサンプルを取っています。

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このように保管されているさまざまな海底地下からのコア試料。/撮影:市谷明美・講談社写真部

いよいよ、後編「大量絶滅から日本海の謎まで――コアで見る地球科学史」では、実際のコア試料をもとに、そこからわかった驚きの発見の数々を、久保さんにうかがいながら紹介していきます!

取材・文:岡田仁志
イラストレーション:鈴木知哉
撮影:市谷明美・講談社写真部

 

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