西之島/2022年10月12日 海上保安庁撮影/出典:海上保安庁ホームページ

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JAMSTEC探訪

小笠原・西之島と“大噴火”のトンガ沖火山に共通点? 研究者が語る「火山を比べる研究」が大切なワケ ~火山の比較で何がわかる?

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取材・文:小熊みどり

2022年115日に起こった、トンガ沖の海底火山「フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山(以下、フンガ火山)」の大噴火から1年あまりが経った。この噴火で火口付近にあった島の陸地の大部分が海中に沈み、大気が振動することで生じた気象津波は約8000kmも離れた日本まで到達したことは記憶に新しい。

そんな爆発的な噴火を起こしたフンガ火山と、小笠原で噴火活動を続け、注目を集めている西之島との共通点を探る研究が進んでいることをご存知だろうか。どちらも太平洋にあるとはいえ、なぜ遠く離れた2つの火山は似ていると言えるのだろうか? そして、2つの火山を比較すると、何が見えてくるのだろうか? 『「地球の大陸は海から生まれた?」 西之島の噴火から迫る、40億年前の「大陸の起源」』の記事に引き続き、海洋研究開発機構(JAMSTEC)海域地震火山部門 火山・地球内部研究センターの田村芳彦 上席研究員にお話を伺った。

(前回の記事『「地球の大陸は海から生まれた?」 西之島の噴火から迫る、40億年前の「大陸の起源」』はコチラ)

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田村 芳彦

国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC)
海域地震火山部門 火山・地球内部研究センター 上席研究員
石川県 白山市出身。⾦沢⼤学教育学部附属⾼等学校卒。東京⼤学⼤学院理学系研究科博⼠課程終了(理学博⼠)。日本学術振興会特別研究員、金沢大学理学部助手などを経て2000年からJAMSTECに勤務して海底火山を調査・研究している。最近は、地球における大陸のでき方や海洋地殻とモホ面の成因についての論文もある。JAMSTECサッカー部に所属。

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気象衛星ひまわりの観測でも噴煙の広がりを確認できる/「フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の大規模噴火(2022年1月15日)」の動画より(JMA、NOAA/NESDIS、CSU/CIRA)/出典:気象庁ホームページ(https://www.jma-net.go.jp/sat_info/himawari/obsimg/image_volc.html#obs_j20220115

「フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山」とは

まずフンガ火山の概要をみていこう。

フンガ火山は、トンガの北の沖合(さらに広域で見ると、トンガはニュージーランドの北東に位置する)にある海底火山だ。太平洋プレートがインド・オーストラリアプレートの下に沈み込む境界にできる海洋島弧(火山弧)、「トンガ・ケルマディック弧」の火山の一つで、以前から噴火を繰り返し、近年では1988年と2009年、2014年末から2015年初めにかけて大きな噴火があった。

もともとフンガ火山には、直径約4kmのカルデラ(噴火で地下のマグマが抜けて、地面が陥没してできた大きなくぼみ)が海底にあった。そして、そのカルデラ外輪の北縁の一部がフンガトンガ島とフンガハアパイ島だ(2つの島は東西に分かれて独立した島だったが、2014〜2015年の噴火の火山灰や火山礫で形成された砂州で間がつながった)。

2022年1月の噴火では、カルデラの直径はほとんど変わらなかったが、それまで150mほどだったカルデラの底までの深さが、一気に700m超になった。この噴火を、1883年に発生したインドネシアのクラカタウ火山の噴火(地球規模で影響を及ぼした大きな噴火で、津波などによる犠牲者も多数出た)と同規模の噴火という研究者もいる。

西之島とフンガ火山に「共通点」が…!

実は、西之島とフンガ火山には共通点が多い。

まず地理的・地形的には、どちらも太平洋プレートが他のプレートの下に沈み込む境界に位置する海洋島弧の火山だ。火山本体の大きさも同じくらいで(フンガ火山は底径30km、1700mの海底からの立ち上がりで、西之島もほぼ同様の規模)、形も似ている。さらに周囲にある海丘の配置まで似ている。

また、両者ともに地殻が薄い地点(厚さ約20km)にあり、安山岩質マグマを噴出する。火山島と海底火山はあわせて「海域火山」とよばれるが、伊豆弧の伊豆大島や三宅島のように、海域火山は玄武岩質マグマを噴出するものが多く、安山岩質マグマを噴出するものは少ない。

西之島/2022年10月12日 海上保安庁撮影/出典:海上保安庁ホームページ https://www1.kaiho.mlit.go.jp/GIJUTSUKOKUSAI/kaiikiDB/kaiyo18-2.htm

「2022年の年明けに、別の研究者のフンガ火山の岩石の分析報告を耳にして、フンガ火山は地理・地形に加えて、安山岩の化学組成なども西之島とそっくりだなぁと思っていた矢先に、あの大噴火が起こったので驚きました」(田村さん)

ならば、噴火のしかたにも両者には共通点があるのではないか――今、田村さんたちは2つの火山の「噴火のメカニズム」の共通点を探っているところだ。

「西之島は2019年から2020年にかけて爆発的な噴火をおこしました。従来の溶岩流出とは異なる、予期されなかった噴火です。今後、西之島がどのように活動して、どのような噴火を起こすかを予測し、対応を検討することは、火山防災・減災の面からも重要なことです」

一方で、海域の火山については陸地の火山に比べてわかっていることが少ない。田村さんは、海域の火山同士を比較する意義を次のように話す。

「我々は海域火山についてほとんど知識を持っていないと言っていいでしょう。一つの火山は数十万年の歴史を持ちます。西之島のような安山岩を噴出する海底火山が、数十万年かけて、伊豆大島のような玄武岩を噴出する巨大火山になっていくと考えています。

フンガ火山や西之島のように、たまたま噴火を目の当たりにすることもありますが、『この火山はこういう火山だ』というのは、たかだか数十年、数百年のスパンでは決してわかりませんし、火山自身も変化していきます。だからこそ、他の火山の情報も必要なのです。そこで、類似した海域火山の挙動を調べ、知見を蓄積していくことは火山防災・減災の面からも重要な取り組みなのです。西之島とフンガ火山には共通点がいくつもあるため、フンガ火山のように気象津波を伴うような爆発的な噴火とカルデラ形成が西之島でもおこる可能性がある、と考えられます」

“活動履歴”の痕跡残す「岩石」を調べる!

では、2つの火山の「噴火メカニズム」を調べるには何をすればよいのか。そのカギを握るのが噴火に伴って噴出した溶岩などの、様々な「岩石サンプル」だ。

田村さんたちJAMSTECの研究チームは、フンガ火山周辺海域の岩石を現地で採取したニュージーランドの研究機関NIWA(National Institute for Water and Atmospheric Research ニュージーランド国立水・大気圏研究所)と2022年から共同研究を開始した。岩石試料の提供を受け、その分析を行う。

JAMSTECには様々な分析機器があり、西之島や福徳岡ノ場の分析・解析に用いられてきた。同じスペックの分析機器でフンガ火山の溶岩の分析・解析をおこない、伊豆小笠原弧とトンガ弧の比較研究ができるというわけだ。1つの研究所で両サンプルの分析・解析をおこなえると、異なる研究機関の間の分析精度を考慮する必要がない点で効率的で、より厳密な比較研究と議論が可能となる。

2022年11月、NIWAからフンガ火山周辺の海底9ヵ所で採取した岩石試料が届いた。試料は全部で72個、総重量は76.2kgだ。この中には、フンガ火山本体の溶岩(岩石)、噴出した軽石、周辺海域の溶岩などが含まれている。

これらの貴重な試料は、田村さんには「全部“新しい”ように見える」という。“新しい”というのは、2022年の噴火でできたという意味だけではなく、ここ数万年以内という意味で、そのため、変質などの効果を考える必要がなく、マグマそのものの状態を表すよい分析結果が期待されるという。

また、岩石の種類をみると、安山岩だけでなく、玄武岩やはんれい岩など複数の種類があった。岩石のバリエーションは、マグマだまりの状態や、初生マグマ(地下のマントルでできたばかりのマグマ)の組成やその生成条件を考える上で非常に重要となる。

「昨年の噴火でカルデラが深くなったとき、6.5km³もの量の岩石が周辺に飛び散りました。その時の噴火に由来するマグマが固まった岩石と、もともと山体を形成していた岩石が噴火で飛び散ったものが混ざっているのだと思います。また、昨年の噴火の原因として、安山岩質マグマに玄武岩質マグマが混ざり、爆発的な噴火が起こった、ということが考えられています。詳しいことは分析してみないとわかりませんが、多様な試料があり、数万年前から現在までのフンガ火山の活動記録が多く手に入ったということで、興味深く思っています」(田村さん)

現在、田村さんたちはこれらの試料の分析の真っ最中だ。

岩石を切断したのち光が透けるくらい薄く削って薄片を作り、どんな鉱物が含まれているかを観察する。また、岩石を粉末状に砕いて分析装置にかけ、どの元素が含まれているかを調べたりする。様々な角度から岩石サンプルの“表情”を調べて噴火のメカニズムに迫り、「西之島で起こりうる未来」を検討していくわけだ。

「火山から噴出するマグマは、人間の血液のように、火山に関する多くの情報を持っています。マグマが固まった溶岩の化学組成を分析したり、溶岩の薄片をつくって顕微鏡で観察したりすることによって、火山の地下数十kmにあるマントルでどのようにマグマができたのか、地下数kmにあると考えられるマグマだまりではマグマがどのような状態でいるのか、などについて情報を得ることができます」(田村さん)

田村さんは進行中の分析の一端を教えてくれた。

「フンガ火山の隣にある海底火山」で採取された安山岩のサンプルの中に、5mmほどの大きなかんらん石の結晶が入っていることが確認されている。安山岩にかんらん石が含まれることは西之島と同じであるが、こんなに大きなかんらん石がそのままの形(自形)を保っているのは珍しい。

かんらん石はマントルの主成分だ。また、初生マグマから最初に晶出する鉱物もかんらん石だ。つまり、この安山岩をつくったマグマは、マグマだまりに長くとどまらず、かんらん石以外の鉱物が晶出する前に、マントルから短時間で噴出した可能性がある。

マントルから直接できた安山岩質マグマであるということが証明できれば、田村さんが提唱する大陸生成仮説、つまり、地球の大陸は安山岩などでできているが、「まだ大陸が無かったころ、西之島やフンガ火山のように、地殻の薄いところにあって、安山岩質マグマを噴出する海域火山が、地球の初期の大陸の材料物質を供給したという説」をサポートする。

ここまでの結果から言えることとして、フンガ火山との比較から、西之島は今後どうなっていくと考えられるのだろうか?

「それを知りたいのですが、現時点では本当にまだなんとも言えません。我々の知っている西之島は1973年以降の安山岩を噴出する火山ですが、2019〜2020年の噴火では、それまでの安山岩質マグマではなく、玄武岩質マグマを爆発的に噴出しました。途中で噴出するマグマの種類が変わり、噴火の様式が変化することは珍しくはありません。新しい研究結果を見ると、2019〜2020年に噴出した玄武岩質マグマは、数十万年前に西之島が最初にでき始めたころ周辺海域に噴出していたものと類似していることもわかってきました。西之島はこの数十万年の成長過程においては、今回のような爆発的噴火を繰り返していたのかもしれません。

西之島とフンガ火山が似ていることから、両者とも過去に爆発的な噴火を起こしていたこと、今後も起こす可能性があることが類推できます。昨年のフンガ火山の噴火にも玄武岩質マグマの関与が考えられるので、そのあたりを探ってみたいと思います」

海域火山を広く、長く知ることの意義

これまでにも海域火山の研究者を取材してきたが、一同に「そもそも海底火山は海の中にあって見えない。火山島も火山の山頂部で、海底から続く巨大な火山のほんの一部でしかない。陸上の火山に比べて、海域火山は得られる情報が非常に少ない」と話す。

田村さんも「海底から火山島の上まで総合的に海域火山を調べたい。そうした総合的な研究は、これまで誰も行っていない」と考えている。海域火山を知るためには、見えている部分や、火口の近辺を調べるだけでは不十分なのだ。同様に、一つの火山だけ、現在だけを調べていても得られる情報が限られる。田村さんは比較研究の重要性を改めて次のように強調する。

「火山研究の大きな目的は、マグマの成因や噴火のメカニズムのような普遍的な現象を理解することです。一つの火山を突き詰めていけば、他の火山のこともわかってくるでしょう。そして、それぞれの火山についての知見を蓄積させ、互いに情報を交換していけば海域火山そのものの理解について、より高みに行ける可能性があります。また、フンガ火山や西之島に限らず、海洋島弧の火山は世界中にあります。先にも述べましたが、火山の防災・減災の観点からも火山の比較研究は今後ますます必要になってくる方法と思われます」(田村さん)

田村 芳彦 火山・地球内部研究センター 上席研究員/写真提供 JAMSTEC

田村さんは25年にわたり海域火山を研究しているが、それでもまだ「予想と違うことや思った通りにいかないことが多く、毎回調べてみないとわからない。まさに自然から学んでいる」と話す。

「たとえば、海底火山の山頂は火山島となっているのだから、火山島から噴出するマグマを研究すれば良いだろう、と思っていました。ところが、海底火山の麓の水深2000mくらいから噴出するマグマを採取して分析してみると、山頂の火山島から噴出するマグマとは異なり、未分化(マントルから短時間で噴出した)でより多くの情報をもっていたのです。これは予想に反して良い成果が得られた例ですが、なぜ麓の方が未分化であるのか、その理由はうまく説明ができていません。マグマだまりをすり抜けるバイパスがあるのかもしれませんが、まだ研究中です」

田村さんはさらにこう話す。

「一つの火山は数十万年の歴史を持ち、火口や麓からいろいろな種類のマグマが噴出するため、一つの海底火山を調べるだけで、調査航海や溶岩の分析・解析に何年もかかります。たとえば久野久博士(1910〜1969)は一生をかけて箱根火山を研究し、その大家になりました。一つの火山だけでも一生をかける研究対象になります」

このように大変さを語りつつ、調査航海中や岩石を見ている時の田村さんの表情はいきいきとしている。自分の一生よりもはるかに長い時間スケールのものを相手にする研究には、困難とともに、尽きないおもしろさがあるのだろう。

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