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JAMSTEC探訪

深海にもプラスチックの溜まり場が! 海のプラスチック汚染を可視化する
——深海底や中層に溜まる永遠に消えないごみ

記事

取材・構成/福田伊佐央

安価で丈夫なプラスチック製品は、私たちの生活を便利にしました。その一方で、海に流出した大量のプラスチックごみが、さまざまな問題を引きおこしています。海がプラスチックに汚染されるのを防ごうと、世界的に「脱プラスチック」の動きが加速しています。

JAMSTEC海洋生物環境影響研究センター海洋プラスチック動態研究グループでは、深海のごみ溜まりを調査するなどして、海のプラスチックごみの状況を明らかにしようとしています。同グループのグループリーダーである中嶋亮太主任研究員に、汚染の現状や海に流出したプラスチックが生物におよぼす影響などについて聞きました。(取材・文:福田伊佐央)

写真
中嶋亮太主任研究員(撮影:神谷美寛/講談社写真部)

深海を漂う大量のレジ袋

まずはこの映像を見てください。
これは駿河湾の水深 2000 メートルの映像です。次々と横切っていく白いものは、いわゆるレジ袋です。次から次へと流れてきますよね。レジ袋だけでなく、お菓子の袋も流れています。海へ流れ込んだプラスチックごみはやがて深海の海底へと到達するんです。ちなみに黒っぽいものも横切りますが、それはクラゲです。

動画:駿河湾の水深2000メートルで『しんかい6500』がとらえたプラスチックごみ(提供:JAMSTEC)

――深海にこんなにレジ袋が落ちてるんですか!?

プラスチックごみは海面に浮かんでいて、最終的に海岸などに打ち寄せられるイメージがあるかもしれませんが、実際に行き着く先は深海なんです。レジ袋が沈むって、想像できないですよね? 最初は浮いていたプラスチックごみも、藻類やフジツボなどの生物が付着したりして、やがて重くなって沈みます。深海にいけば、場所にもよるのですが、たくさんの白いレジ袋を見ることができます。

海の表層をネットですくってみたら!

はっきりと目に見える大きなプラスチックごみだけではありません。大きさが5ミリメートル以下の「マイクロプラスチック」も、至るところで海を汚染していることが明らかになっています。

下の映像は、日本の南の海上で、目の細かいネットを使ってマイクロプラスチックを集めたときの様子です。一見、青く澄んだ透明できれいな水に見えますが、20分ほどネットを曳いただけで、手のひらいっぱいのマイクロプラスチックが集まりまることはよくあることです。

動画:ニューストンネットによるマイクロプラスチックの採取(提供:JAMSTEC)

――見た目では全然わからないですね。

そうなんです。見た目にはよくわらかないけど、こうして網を曳くと、海表面には小さなプラスチック粒子がたくさん浮いている。私たちの調査では、北極海でも南極海でもマイクロプラスチックの存在を確認しています。ありとあらゆる場所に散らばっていますね。

海の表面だけではありません。これらはやがて沈んでいくため、深い海の中にもたくさんあることが最近わかってきました。中深層の海水の中にも、深海底の堆積物の中からも、マイクロプラスチックがたくさん見つかっています。石油でできたプラスチックは微生物に分解されてないため、永遠に消えないごみとして、海の中に留まり続けています。それが海のプラスチック汚染の現状です。

海の「循環域」にごみが集まる

――プラスチックごみが溜まりやすい場所はありますか?

海流や風などの作用よって循環する流れの内側に、ごみが集まってくると考えられています。海表面を漂うごみは、主に海流、風、そして波の作用も加わり、世界の海洋に存在する5つの大きな亜熱帯循環系の内側に集まってきます(図1)。

とくに北太平洋にある亜熱帯循環の東側(アメリカの西側)にはたくさんのごみが集まる場所があって、Great Pacific Garbage Patchという名前がつき、世界一のごみ溜まりとして有名になりました。直訳すると、「巨大太平洋ごみパッチ」なんですが、日本語では「巨大太平洋ごみベルト」としばし訳されています。でも、あの訳は間違っています。「ごみベルト」は、正確には日本からアメリカにかけて存在する帯状の(ベルト状の)ごみ集積域を指します。

図1:海中のマイクロプラスチックの分布。黄色〜オレンジ色が濃いほど、マイクロプラスチックの量が多い(出典:Rech et al., 2014

水深2000メートルにプラスチックの層が!

北太平洋のマイクロプラスチックに関する調査では、海表面だけでなく、水深2000メートル付近の中深層にもたくさん溜まっていることが最近になってわかってきました。マイクロプラスチックの中でも、直径が数十マイクロメートルほどの超微小なマイクロプラスチックが中深層に溜まっていたのです(図2)。

海表面にあったマイクロプラスチックは、生物の付着等でやがて沈降し、深い海へと運ばれていきます。ところが、沈降していく過程で、プラスチックの表面にある有機物が微生物に消費され、プラスチックを沈降させる要素がなくなっていきます。そうするとすぐに浮いてきそうですが、超微小な粒子は簡単には浮上できない。

さらに難分解な有機物はそのままプラスチック表面に残るなどの理由で、浮きもしないし沈みもしない状態になります。その結果、海の中層に、マイクロプラスチックが層のように溜まっていくのだと考えられています。

図2:(左)北太平洋ゴミベルトと採取点。(右)マイクロプラスチックの垂直分布。縦軸は水深、横軸は海水1立方メートルあたりに含まれるマイクロプラスチックの数。水深2000メートルのところで、マイクロプラスチックの検出量が増えていることがわかる(Shiye Zhao, et al., 2023, PNAS nexus を元に作成)

黒潮に乗ってごみが日本にも来ている!

日本周辺には、日本海を北上する「対馬暖流」と太平洋を北上する「黒潮」という大きな海流があります。この対馬暖流と黒潮に乗って東アジア・東南アジアなどから大量のプラスチックごみが流れてくるため、日本周辺の海域ではマイクロプラスチックの量も多くなっています。

実際に、黒潮の真ん中と、黒潮から少し離れた場所でマイクロプラスチックの量を比べると、圧倒的に黒潮のほうが量が多い。もちろん、日本からもたくさんのごみが海に流出しています。

九州大学や東京海洋大学の研究チームによる研究によれば、日本周辺の海域に浮かぶマイクロプラスチックの量は世界平均の27倍もあることがわかっており、つまり、日本の海はプラスチックごみのホットスポットであると言えます。

同じことが、日本の深海でも起きていると考えています。先ほどの駿河湾の映像のように、海底にもたくさんのプラスチックごみが沈んでホットスポットを作り出していると考えられます。

世界の6割以上のプラごみがアジアから流出

──海のプラスチックごみは、そもそもどこからやって来るんですか?

海に流れこむプラスチックのほとんどは、陸からやって来ます。漁業の道具など、最初から海で使われたプラスチックもありますが、それは全体の2割と言われています。残り8割は陸から発生しており、ほとんどは私たちが生活の中で使用した使い捨てプラスチックが、排水溝や川を経由して、あるいは風に飛ばされて、海に流れ着いたものなんです。

ごみとして排出されても、ちゃんと回収・処理されれば海に流出することはありません。問題は、きちんと回収されず、野ざらしにされている「管理できていないプラスチックごみ」です。ポイ捨てごみや、ごみ箱からあふれて散乱したごみ、違法な埋め立て地、朝、カラスがごみ袋をやぶって散乱したごみなどがそうです。

こういった「管理できていないプラスチックごみ」の量はとくにアジアで多くて、世界全体の管理できていないごみ(年間6000万〜9900万トン)の6割以上がアジアから出ているといわれています。管理できていないごみの一部が、河川を経由して、あるいは風に飛ばされて、海に流れ着きます。

――日本も大量のプラスチックごみを流出させているんでしょうか?

日本のプラスチックごみの収集や処理の技術は優秀で、9割以上をきちんと処理できています(図3)。ただ、全体のプラスチックごみの量が約800万トンと、とにかく多いので、管理できていないプラスチックごみの割合が数%であっても、環境中へと流出する量は数万トンになります。その一部が、海へ流出します。

図3:アジア各国のプラスチックごみの排出量と、適切に管理できていない割合(UNEP and GRID-Arendal, 2016. Marine Litter Vital Graphics, United Nations Environment Programme and GRID-Arendal. Nairobi and Arendal.を改変)

とくに大雨の後などは、日本でもごみの流出がひどいですね。台風が通過した翌日の相模湾の状況を確認しに行ったことがあるのですが、湾内には大量のプラスチックごみが浮かんでいました。見渡す限り、一面がプラスチックごみと木くずで覆われている。マイクロプラスチックの量は、台風通過前にくらべて1300倍に増加していました。

大雨で陸にあった大量のごみが河川に流れ込み、それが海へと運ばれていたのです。でも、その大量のごみを目撃した日からさらに2日後に同じ場所に見に行くと、すっかりごみが無くなっています。湾内に運ばれた大量のごみは、あっという間に広い外洋に流れ出してしまうことがコンピュータシミュレーションでわかりました。

プラスチックの毒性とは

――プラスチックは海に流出してしまっても、生物に悪影響を与えないのではないでしょうか? プラスチックは食品容器にも広く使われていますし、生物にとって安全な気がします。

そう思うかも知れませんが、海に流出したプラスチックは、生物にさまざまな悪影響をおよぼすことが明らかになっています。

人間がわざわざプラスチックを好んで食べることはないですし、仮に人間が小さなプラスチックの破片をまちがえて食べてしまっても、やがて便といっしょに排出されるだけなので、とくに悪影響はないでしょう。でも、多くの海洋生物がプラスチックを「餌と間違えて」食べているんです。

研究でわかってきたことは、プラスチックに餌の匂いがつくからではないかと。一部の海鳥はプラスチックを餌と間違えて食べ、巣に運んでは口渡しでプラスチックを雛に与えます。プラスチックが雛の胃袋に溜まっていく、プラスチックが消化管に詰まって腸閉塞を引き起こす、そして巣立つ前に栄養失調で死んでいく。

ある程度大きなプラスチックの破片を食べてしまうと、とがった部分が物理的に消化管を傷付けることもあります。海を漂うレジ袋は、ウミガメから見ると餌のクラゲに見えてしまうというのはよく聞く話ですが、消化できないレジ袋は、ウミガメに腸閉塞を引き起こします。

(撮影:神谷美寛/講談社写真部)

魚類もプラスチックを食べています。これまでに調査されたおよそ500種類の魚類のうちなんと6割以上が体内にマイクロプラスチックを保持していたことが明らかになっています。多くの魚類の餌となる動物プランクトンもマイクロプラスチックを食べています。

餌の匂いで包まれたマイクロプラスチックを食べる場合もあれば、自分が捕食した魚の体内にすでにマイクロプラスチックが入っていることもあるでしょう。すでに700種類を超える海洋生物がプラスチックを間違えて食べています。

イワシがわかりやすいと思いますが、多くの海洋生物は海中にいるプランクトンをまるごと飲み込んでいます。その中にマイクロプラスチックが入っており、意図せず飲み込んでしまっている場合もあります。

海水の中がマイクロプラスチックだらけだったらどうでしょう。まさにプラスチックスープの中を泳いでいれば、イヤでも体内にプラスチックが入り込んできます。そうなれば身体がおかしくなるのは当たり前です。そんな危険な状態にまで海中のマイクロプラスチック濃度があがるのは、そう遠い未来の話ではないと予測されています。

プラスチックの粒子サイズが極めて小さいナノスケールになると、消化系を通過して、血液などの循環系に入り込むこともわかっています。そうすると、プラスチックが脳に運ばれることが懸念されています。ナノスケールのプラスチック粒子をナノプラスチックと呼びます。海洋に存在することは確実ですが、まだどのくらいの量のナノプラスチックが海洋を漂っているのか、わかっていません。

とはいえ、いわゆるマイクロプラスチックなら、食べてしまっても便として排泄されます。少なくとも今の濃度であれば。では、何が問題だと思いますか?

――なるほど。消化はできないけど、量として少なければ便として排泄されてしまいますね。そうすれば問題は生じなさそうですが。プラスチックそのものに毒性があるのでしょうか?

プラスチックの添加剤に毒性が

基本的に、プラスチックそれ自体に毒性はありません。問題は、プラスチックそのものではなく、プラスチックに混ぜ込まれた有害な添加剤(化学物質)です。

たとえば、プラスチックを燃えにくくしたり紫外線に分解されにくくしたりするために加えられる添加剤の中には、生物に毒性(たとえば生殖毒性)があることがわかって、使用が中止されたものがあります。

代表的なものは、難燃剤として使われていたPBDEs(ポリ臭化ジフェニルエーテル)やBZT-UVs(ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤)です。これらは、毒性、難分解性、高蓄積性、長距離移動性と4拍子揃ったため、ストックホルム条約という国連の条約によってポップス(残留性有機汚染物質またはPOPs)に指定され、製造や使用が禁止されました(※1)。

  • ※1 BZT-UVsには様々な種類があるが、そのうちUV-328が2023年にポップスに指定された。

ほとんどの添加剤は、プラスチックと「結合」はしていないため、使用中にプラスチックから抜け出していきます。あるいは生物にプラスチックが食べられたときに、消化液で抽出されて体内へと有害化学物質が移動し、生物の脂肪に蓄積されます。

さらにプラスチックには、特定の有毒物質をスポンジのようにくっつけるという性質があります。たとえば、かつて電気機器の絶縁油などとして使われていたPCBs(ポリ塩化ビフェニル)などです。

PCBsは生物への毒性が強いことがわかって、1970年代に使用禁止になりました。古い電気機器などから漏れ出したPCBsなどが川や海に流れましたが、PCBsは極めて長い時間ずっと分解されないため、環境中に存在し続けています。

プラスチックはそれらの有害物質をくっつける性質があります。そして生物へと食べられ、脂肪にPCBsが蓄積します。

有毒物質は海洋生物の体内に蓄積している

そういった有害物質を含んだプラスチックを生物がまちがえて食べてしまうことで、生物の体内に有害物質が蓄積していきます。実際に深海に棲息するサメや甲殻類を調査したところ、プラスチックの添加剤が検出されました(図4)。

図4:深海サメの体内のPBDEsを調査した結果。8種類のサメのすべての個体から検出された(提供:JAMSTEC)

駿河湾で採集した8種類の深海サメを解剖して、肝臓を取り出し、含まれる化学物質を調べました。深海サメの肝臓からは高濃度のPBDEsが検出されました。このような有害物質は生物濃縮されるため、食物網の頂点にいるサメに特に高濃度で存在するのです。

水深9200mの海底から採集したカイコウオオソコエビ(図5)という甲殻類からは、ポップス指定されたUV-328が検出されました。プラスチック由来の化学物質汚染は、深海にまで広がっているんです。

図5:マリアナ海溝チャレンジャー海淵に生息するカイコウオオソコエビ(提供:JAMSTEC)

日常生活の中でプラスチックを“食べて”いる

――プラスチック由来の有害物質が蓄積された海産物を食べることで、私たちの体にもそれらの物質が入ってきているのでしょうか?

海産物経由で入ってくる可能性はありますが、そもそも私たちはさまざまな添加剤を含むプラスチック製品に囲まれて生活しています。プラスチックの添加剤については、海産物の摂取よりも日常生活の中で体内に入ってくる量のほうが断然多いと思います。

たとえば難燃剤のPBDEsのうちペンタ製剤とオクタ製剤は、2009年にポッポスに指定され、世界各国で使用が規制されるようになりましたが、それ以前は広く使われていました。

PBDEsのひとつであるデカ製剤の使用が条約で禁止されたのは2017年です。洋服や家具、カーペット、家の壁紙などの建材、自動車部品など、古いプラスチック製品は身のまわりにあふれています。

ほこりに付着した添加剤がほこりと一緒に空気中を漂い、あるいは添加剤を含むプラスチックが削れたり劣化したりして細かくなって、ほこりとなって添加剤もろとも体内に入ってきているはずです。家のほこり、吸ってますよね? 間違いなくプラスチックも吸い込んでいます。新しいプラスチックだからと言って、含まれている添加剤が安全とは限りません。代替として使われはじめた新しいタイプの添加剤が将来的に禁止される可能性はあります。

――人間への毒性はどこまでわかっているんでしょうか?

PBDEsは動物実験で特定のホルモンの異常などが見られたので、最初にヨーロッパで使用が禁止されました。ただ、人体への影響についてははっきりとわかっていません。それでも健康被害をもたらす可能性がある以上、使うのはやめておこうということです。

さらに先ほど説明したとおり、毒性、難分解性、高蓄積性、長距離移動性と4拍子揃ったため、国連で廃絶が明記されました。現代の私たちは、小さいころからさまざまな添加剤が含まれたプラスチックに囲まれて生活しています。そういった状況の中で、特定の添加剤だけを選んで人体への影響を評価するのは非常に難しいといえます。この状況は今後も大きくは変わらないでしょう。

海中のプラスチック濃度が“限界”を超える?

――海に流出したプラスチックを何とか回収できないものでしょうか?

いったん海に流れ出てしまったら、回収することは現実的には不可能でしょう。台風後に湾内にあふれていたごみが翌日には消えていたことからもわかるように、プラスチックごみは水の流れに乗ってあっという間に拡散してしまいます。

図6:「しんかい6500」のマニピュレーターが、深さ5700メートルの海底に沈んでいたプラスチックの袋をつかんだ。2019年9月房総半島の東沖(画像提供:JAMSTEC)

そして、海を漂ううちに、藻類やフジツボなどの生物がくっついて重くなって沈みます。日々、大量のプラスチックごみが陸地から海に流出しては、海中や海底に“消えて”いるんです。そうなったら手の出しようがありません。ごみの回収には莫大なコストがかかるし、時間的に言っても無理です。せいぜい、浜辺に打ち上がった漂着ごみや河川のごみを回収することしかできません。それでも回収できる量は海に流入する量に比べれば微々たるものです。

プラスチックは微生物によって自然と分解されることもありません(※2)。プラスチックの大量生産と大量消費を続けて行く限り、プラスチックごみは海に溜まりつづける一方だと思います。

  • ※2 厳密には、特定の樹脂を分解する能力をもつ微生物は存在するが、自然界においてその分解速度は極めて遅く、ごみ問題の解決にはならない。

――プラスチックが蓄積していくことで、いつか生態系に決定的なダメージが生じたりしないのか心配です。

海中のプラスチックの濃度は年々上昇していますから、生物に取り込まれる量も当然増えていきます。九州大学らの研究チームによれば、海中のマイクロプラスチックの濃度が1立方メートルあたり1グラムを超えると、これまでとくに問題のなかった海洋生物でも、悪影響が出てくる可能性が指摘されています。

北太平洋の表層では、2060年代にその濃度を超えるのではないかと予測されています。これは海表面での話しですが、プラスチックはどんどん沈降していくため、海底ではもっと早い次期に悪影響がではじめるでしょう。それがいつなのかまだわかりませんが、2060年よりもずっと早いのは間違いなさそうです。もしかしたら10年後や20年後かもしれません。

さらに、2060年代に影響があるかもしれないという予測には、添加剤による有害化学物質が考慮されていません。プラスチック生産量は爆発的に増え続けていますので、プラスチックごみの排出量に比例して、環境中に流出する添加剤の量も増えていくはずです。まったく楽観視はできませんね。

これ以上の汚染を減らすには?

――これ以上の汚染を防ぐにはどうすればよいでしょうか?

すでに海に入ってしまったプラスチックごみはもう諦めるしかないと思っています。これ以上、プラスチックごみを海に流出させないようにきちんと管理するしかない。余さず回収・処理し、環境中に漏れ出させない。リサイクルは最後の選択肢です。

現状、世界のプラスチックリサイクル率は10%程度と言われています。ところが、リサイクルされたものが再びリサイクルされるのはさらにその10%くらい。リサイクルの度に劣化するからです。リサイクルが抜本的な解決策ではないことは明らかです。

プラスチックの使用量を減らして、生産量を減らすことが第一です。とにかく上流の蛇口を閉めるというわけです。日本のように、ごみの回収技術がきちんとされている国では、回収うんぬんではなく、ごみの絶対量を下げて、環境中に流出する量を減らさないといけない。

ではどんなプラスチックを減らすか、それが「使い捨てプラスチック」です。

図7:海底に堆積しているさまざまなプラスチックごみ(提供:JAMSTEC)

プラスチックを使い捨てする便利な生活から転換しなければ持続可能な未来はないでしょう。そのためには、使い捨てない社会を作ると同時に、プラスチックでなくてよい材質はとことん代替材質へ変えていくことが必要です。

代替材料、そして世界的な規制へ

微生物の力で水と二酸化炭素に分解される「生分解性プラスチック」も注目されていますが、これだけでは解決策にはまったくなりません。現状でいうと、世の中に出回っている生分解性プラスチックのほとんどは海では分解しません。ほとんどはポリ乳酸という材質ですが、これが生分解するには約60度の熱が必要なんです。海ではまず無理ですね。

海洋で分解される「海洋生分解性プラスチック」の研究も進んでいますが、現在のプラスチック使用量をすべて生分解素材に変えることはコスト的にも不可能ですし、海洋生分解性プラスチックといっても、海でまたたく間に分解される訳ではありません。長期的にはマイクロプラスチックを発生し、その影響は石油系プラスチックから発生するマイクロプラスチックと同等かそれよりも悪いという研究さえあります。

ですから海洋生分解性プラスチックは、漁具など、どうしても海に流れざるを得ないリスクがある特定の分野のプラスチックに用途が限られるべきだと考えています。

図8:海に流れ出た漁網は海洋生物にとっても脅威となる(提供:JAMSTEC)

大量のプラスチックを使う現代の便利な生活を変えるのはたいへんですが、世界的にもプラスチック汚染をどうにかしないといけないという意識は高まっています。

2022年3月に開かれた国連の会議で、プラスチックの使用を規制する国際的な条約を2025年までにつくることをゴールに、日本を含む175か国が同意しました。具体的な規制の内容はこれから決まりますが、プラスチックの生産や使用について大きな変化が起きるのはまちがいないでしょう。

――私たちの生活スタイルも変わる必要がありますね。

参考:海洋生分解性素材の開発について読みたい方はこちらも!
「『木』や『カニの殻』由来の代替素材で、海洋プラスチック問題に挑む!」
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プラスチックごみの状況を可視化したい!

プラスチックの生産量を減らすことは、地球温暖化対策にもつながります。

現在、世界の石油消費量の約1割がプラスチックの生産に使われています。プラスチックの生産量を減らせば、温室効果ガスである二酸化炭素の発生量もおのずと減るというわけです。プラスチックの生産量は年率5%で増加しています。

このままのペースでプラスチックの生産を続けていくと、気温上昇を産業革命に比べて1.5度以内に抑えるというパリ条約で決めた目標に対して許容できるGHG(温室効果ガス)排出量のうち、2040年にプラスチック生産が占める割合はなんと20%にも相当すると言われています。ですから、プラスチックを減らすことは、地球温暖化を阻止する上でも、絶対やらなくてはならない課題です。

――プラスチックごみの問題は温暖化にもつながっているんですね。今後はどのような研究を進めていく予定ですか?

プラスチックごみが、どこにどれだけ溜まっているのかをしっかりと可視化することが目標です。「去る者日々に疎し」ということわざがあるんですが、「仲良かった人でもしばらく連絡をとらなくなるとその人のことを忘れちゃう」という意味です。

海のプラスチックごみも同じです。浜辺や海の表面に浮かんでいて、目に見えるときは気になる。でも見えなくなると気にならない。海に流出したプラスチックごみは小さくなったり沈んだりして、時間が経つと目には見えなくなってしまいます。でも実際は、海底に溜まっていたり、小さくなって中層に溜まっていたりと「海の中」で増え続けている。そして目に見えない悪影響をひろげている。

だから、海の中にこれだけプラスチックがあるんだと、はっきりさせたいですね。やっぱり人間は見えるものでないと何とかしようと思いませんし、状況がわからないと対策のしようもないですから。

具体的には海底に広がるプラスチックごみのマップを作ろうと思っています。ごみが溜まっていそうな深海底に直接もぐって、ごみの状況を調査する活動を2019年から行っていますので、今後も継続していきます。2024年は日本海の深海底を調査する予定です。

さらに、プラスチックごみ分析の「自動化」がこれからのテーマです。プラスチックごみが海に流出することを減らすための政策ができて、それが施行されても、実際に効果があったかどうかは海のプラスチックを継続的にモニタリングして、ごみが減ったかどうか調べなければなりません。

しかし、海のプラスチックごみ、とくにマイクロプラスチックの分析は手間が多く膨大な時間と多くの人手が必要です。それでは効果的な政策を実施をするための妨げになるでしょう。だからJAMSTECではプラスチックごみ分析の「自動化」の研究を進めています。

ひとつは、AI(人工知能)を使って海底で撮影された映像からごみを自動で認識する技術で、海底ごみのマッピングを大いに手助けするツールになるでしょう。さらに、小さなマイクロプラスチックを完全無人で自動計測する装置の開発も進めています。近い将来、世界の海を往来する船舶にマイクロプラスチック自動分析装置を搭載し、マイクロプラスチックの分布を広範囲にモニタリングできる技術を確立したいと考えています。

中嶋亮太主任研究員(撮影:神谷美寛/講談社写真部)

取材協力:地球環境部門 海洋生物環境影響研究センター 中嶋 亮太 主任研究員
撮影:神谷美寛・講談社写真部

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