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JAMSTEC探訪

東北沖地震震源域・プレート境界域のサンプルリターンに成功。海溝型巨大地震のメカニズム解明に向けて【JTRACK最新報告】

記事

取材・文:岡田仁志

9月6日から始まった、地球深部探査船「ちきゅう」によるIODP(国際深海科学掘削計画)第405次航海「JTRACK(ジェイトラック)」(日本海溝巨大地震・津波発生過程の時空間変化の追跡:Tracking Tsunamigenic Slip Across the Japan Trench)。

12月20日まで続けられるプロジェクトの最新成果として、東北地方太平洋沖地震の震源域におけるプレート境界域の掘削に成功しました。先の記事で紹介したように、約7000mの海底から、海底下約1000メートルの地質コア試料を採取したこの掘削は、海洋科学掘削としては世界一にもなります。これまでの掘削やコアの分析の様子やこれからの展望を「JTRACK」の共同首席研究者の小平秀一さん、プロジェクト統括の江口暢久さん、乗船研究者の濱田洋平さんに伺ってみました。(取材・文:岡田仁志)

写真
コアリングを開始(写真提供:JAMSTEC/IODP)

フェーズ3「海底下の地質コア試料」を採取

フェーズ1の温度計設置、フェーズ2の掘削同時検層(LWD)をほぼ予定どおりに完了したJTRACKは、10月3日から、行程の中でもっとも日数のかかるフェーズ3「コア試料採取」に入りました。

コア試料とは、海底下から掘り出した円柱状の地質試料のこと。東北地方太平洋沖地震を引き起こしたプレート境界断層のある陸側と、陸側プレートに沈み込む前の太平洋プレートがある海側のそれぞれで、11月末までそれを採取する作業が続きます。

「船上での準備作業を終えて、10月5日から陸側での掘削を始めました。翌6日には最初のコアが船上に到着。首を長くしてコア試料を待っていた研究者たちは、それを記念して写真撮影もしました。 」(JTRACKプロジェクト統括・江口暢久さん)

10月6日「ちきゅう」の船上に最初のコアが引き上げられた(写真提供:JAMSTEC/IODP)

「ふつう、コア試料の採取は浅部の地層がやわらかいところから始めます。しかし今回は、プレート境界域からのコア採取がメインターゲットなので、深部から始めました」(江口さん)

海底下のコア試料を採取する驚きの技術!

通常は先に実施される浅部からのコア試料採取に使用するのは、「ハイドロピストンコアラー」と呼ばれるもの。それを海底のすぐ上までドリルパイプで下ろし、その内側に、コア試料が入る「コアバレル」を船上からワイヤーで下ろします。

ナイフのように尖ったコアバレルの先端を地中に突き刺し、船上からドリルパイプに海水を送り込んで高い圧力をかけると、一気に突き刺さり、掘削が進んでコア試料が採取される仕組みです。

何度もそれをくり返しながら掘り進んでいきますが、やがて固い地層に到達すると、もうコアバレルが刺さりません。そこから先は、ハイドロピストンコアラーを引き上げて、回転しながら掘り進むタイプの「ロータリーコアラー」を使用します。

左・柔らかい地層を採取するための「ハイドロピストンコアラ―」。右・硬い地層を採取するための「ロータリーコアラー」(画像は動画「3分でわかる!コア採取のしくみ」より。図版・動画提供:JAMSTEC)

動画「3分でわかる!コア採取のしくみ」

ここからはワイヤーなしでコアバレルを自由落下させ、最下部まで到達したところで掘削を開始。ロータリーコアラーで地層を削り取ると、コアバレルに試料が入っていきます。船上からワイヤーを下ろして試料の入ったコアバレルと結合させて引き上げ、また次のコアバレルを投入する。それをくり返すことで、多くのコア試料を採取するのです。

「コアバレルの上げ下げには、1本あたり6時間ぐらいを見込んで計画を立てていました。しかしクルーが慣れてくるにしたがって細かい取り回しの効率が上がったこともあって、1本4時間程度までペースが上がっています。24時間フル回転しているので、1日に6本ぐらいになりますね。

この水深でそれだけのコア試料が上がってくるのは、われわれから見るとなかなかすごいことです。船上でコア試料が届くのを待ち構えている研究者たちは、想定よりも早いペースで次々とコア試料が上がってくるので、てんてこまいしていますね(笑)」(江口さん)

採取されたコア試料は「ちきゅう」船内のラボで分析

上がってきたコアは、船上で長さ1.4メートルにカットされてラボに運び込まれ、すぐにさまざまな分野の研究者によるサンプリングや分析などが始まります。

構造地質学の専門家としてJTRACKに参加している乗船研究者の濱田洋平さん(JAMSTEC高知コア研究所 物質科学研究グループ 主任研究員)によると、「早いときは3時間ちょっとで次のコアが上がってくることもあるので、ラボのテーブルに並んだコアをみんなで大騒ぎしながら処理しています」とのこと。

コアのサンプリング作業の様子。上・船上に上がったばかりのコア試料。下・その部分を調べたい研究者がそれぞれの目印をつけていく(写真提供:JAMSTEC/IODP)

「ちょうど私が乗船してからすぐに、プレート境界域の掘削に成功しました。その後、太平洋プレート上に移動して、そちらでもコア試料採取ができています。ラボには国籍も年齢層もさまざまな研究者たちが集まっていますが、みなさん、興奮冷めやらぬという感じですね」(濱田さん)

プレート境界域のコア試料採取に成功

陸側のプレート境界域からのコア試料採取に成功したのは、10月28日のこと。それも含めて、陸側では海底下830メートルまで連続的に88本のコア試料を採取しました。

10月28日にプレ-ト境界域のコア試料採取に成功した(写真提供:JAMSTEC/IODP)

「陸側では、もう少し詳細なサンプルを採取したいということで、もうひとつ別の孔を開けて、プレート境界断層よりも下部にあるところまで掘削を行いました。

ちなみにチャート層とは、ガラス質の生物遺骸が変性を受けてできた非常に固い岩石です。そのため、そこからコア試料を採取しようとしても、ドリルビットで割れてしまうんですね。その破片が入ると、コア試料のクオリティが落ちてしまう。そこが難しいので、チャート層のコア試料採取は深海掘削でサイエンスをやっている人たちの悲願なんです。

そのための機器開発も試行錯誤をしていますが、いまはまだありません。たまたま下の粘土層が蓋をしてくれて、その上にチャート層の破片が乗っかってくれれば回収できますが、きれいな筒状にチャートを回収するのはなかなか難しいと思います」(江口さん)

沈み込む前のプレートでの掘削が始まった!

11月3日からは、2地点目のコアリングとなる 海側でのコア試料採取が始まり、やはりチャート層まで掘削が行われました。そこでも引き続き、研究者にとって貴重な試料となるクオリティの高いコア試料が採取できているそうです。

「コア試料採取は、回収率100%というわけにはいきません。ロータリーコアラーでは周囲を削って真ん中を残していくのですが、削ったクズが挟まって、コアバレルの中に入ってこなくなることもあります。中に入っていても、グシャグシャに壊れていて、試料として使いものにならないことも少なくありません。

そのため、うまくいけば99%の回収率になることもありますが、20%ぐらいしか回収できないこともあるんですね。平均すると、回収率はだいたい50%程度です。JFASTのときは、35%くらいでした。しかし今回は新しいコアビット(先端につける刃の部分)を使うことで、回収率が向上しています」(江口さん)

JFASTで使用したRCBコアビットは、コア径2.34インチ、ビット径10.625インチというサイズでした。それに対して、今回のSD-RCBコアビットは、コア径は同じく2.34インチですが、ビット径は8.5インチと全体が細くなっています。

左・RCBコアビット。右・今回特別に作られたSD-RCBコアビット(写真提供:JAMSTEC)

「ビット径が小さくなったことで、掘削時の抵抗が少なくなり、真ん中の部分が壊れにくくなりました。これによって、採取したコア試料のクオリティが高まったと考えています。

さらに今回は、プレート境界域をはじめとして、科学的にとくに重要な区間については、通常よりも間隔を短く刻んでコアを採取することにしました。通常は1コア試料あたり9.5メートルですが、それを3〜5メートルにすることで、回収率が上がります。どの区間をどの長さにするかは、フェーズ2のLWDで取ったデータに基づいて検討しました」(江口さん)

これらの工夫によって、プレート境界域でのコア試料の回収率は約64〜67%と、JFASTの2倍近くまで向上しています。一部のコアでは回収率ほぼ100%も達成しました。

2カ所のデータで見る地震発生後の断層とその周辺の構造変化

JTRACK共同首席研究者の小平秀一さんによると、今回のコア試料採取では「表層からプレート境界域まで、できるだけ連続性のよい試料を取る」ことが重要視されていましたが、これにも成功。

「さらに、プレート境界域の2ヵ所を貫通しているので、空間的な広がりを持つ試料の採取にも成功しました。これによって、地震発生後の断層とその周辺の構造変化を明らかにできるでしょう。それらの試料を用いたさまざまな実験などから、プレート境界断層の固着の状態を規定する摩擦特性の変化や強度回復の様子などの検討を可能にする試料を得ることができました」(小平さん)

「ちきゅう」に設置されているさまざまな分析装置によって採取したコア試料を分析する(写真提供:JAMSTEC/IODP)

フェーズ1の温度計設置、フェーズ2の掘削同時検層、そしてフェーズ3のコア試料採取まで、大きなトラブルに見舞われることなく順調に進んできたJTRACK。陸側と海側の新しい掘削孔に温度計を設置するフェーズ4まで完了して帰港するのは、12月20日の予定です。無事の航海を祈りつつ、さらなる成果を期待しましょう。

前編はこちら【JTRACK最新報告】海洋科学掘削の世界記録樹立!プレート境界域の掘削にも成功!いま行われている地震調査研究を現場から!

<JTRACKプロジェクトページはこちら>
○航海中の情報を更新中
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•取材・文:岡田仁志
•取材・図版協力:
 小平秀一 理事
 研究プラットフォーム運用部門 江口暢久 部門長
 超先鋭研究開発部門 高知コア研究所 濱田洋平 主任研究員

【ライブ配信】ちきゅうLIVE!-Project JTRACK-

<LIVE配信日時(予定)>
2024年12月20日(金)帰港中継 08:00~、船内大潜入 13:00~
<視聴方法>
JAMSTECの公式YouTubeチャンネルニコニコ生放送にて配信します。 ぜひチャンネル登録をお願いいたします。
<プログラム概要>
地球深部探査船「ちきゅう」船上から、深海掘削の様子やラボでの研究活動の様子をライブで紹介します。皆様からのご質問に乗船研究者がお答えしたり、最新の映像をお見せしながら解説を行ったり。 船の上のどんなシーンが見られるかは配信当日までお楽しみに!

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