2024年元日に発生した「令和6年能登半島地震」。いまだ深く爪痕を残すこの地震は、陸域の断層だけでなく、海底下に存在する断層も震源とする地震でした。能登半島地震はどんなメカニズムで発生したのか? 地震の直後の緊急調査にも奔走した海洋研究開発機構(JAMSTEC)の海域地震火山部門 地震発生帯研究センター センター長の藤江剛さんにお話をうかがいました。この取材の中から、特徴的な動きをした「ある断層」の存在が見えてきました。(取材・文:岡田仁志)
能登半島地震、震源の一部が海底にあった
2024年の元日にマグニチュード7.6、最大震度7という大地震が発生した能登半島は、数年前から、地震が起こりやすくなっていると見られていました。JAMSTEC 海域地震火山部門 地震発生帯研究センターの藤江剛さんも、「専門家のあいだでは、2020年以降、活動期に入ったという見方をされていました」といいます。
「1年に2回ほど、マグニチュード6.5クラスの地震が起きて、発生後は沈静化するということを繰り返していました。ただし2023年までは、震源が能登半島の下にあったんですね。つまり、陸域で起きていた地震でした。そのため、2023年までは海で観測する必要性は小さかったんです。
ところが2024年1月1日の能登地震は、震源域の半分は能登半島のほぼ真下でしたが、残りの半分は北東側の海域でした。そのため陸上の観測点だけでは、余震活動などを正確に把握できません」(藤江さん)
地震直後に行われた緊急調査
「そこで、われわれJAMSTECを含めて、日本で海底地震観測を行っているすべての研究機関や大学が参加して、地震の直後に緊急調査を行いました。
日本全国から30台ほどの海底地震計をかき集めて、1月16日に設置したのが、一次航海での最初の作業です」(藤江さん)
海底地震計で取ったデータは、リモートで見ることができません。これらのデータは、地震計に内蔵されたハードディスクやSDカードに保存されるので、海底に設置した機器を回収する必要があります。調査チームは、観測開始から1ヵ月後に地震計を回収しました。
「ただ今回の地震は例外的といえるほど余震活動が活発だったので、2月の二次航海では再び海底地震計を設置しました。こちらは6月から翌年の1月にかけて、段階を追って回収していくことにしました」(藤江さん)
さらに3月には、三次航海も実施されました。東京大学大気海洋研究所が中心となって国内から提案を募ったこの緊急調査では、震源域の地下の構造を調べることがメインテーマだったそうです。
海底下の構造を知るための「反射法」とは
そこで使われたのは、「反射法」と呼ばれる探査手法。船上からエアガンを撃って弾性波(音)を人工的に発生させ、それが海底下の地層にぶつかって戻ってくる反射波を測定することで、地下構造を調べるやり方です。反射波を受信するのは、ハイドロフォンという水中マイク。それをいくつもケーブルでつなぎ、船で曳航しながら調査を進めます。
「三次航海の調査では、曳航するケーブルの長さが1.2キロメートルになりました。地上でトラックがそんなに長いものを引きずって走ったら大変なことになりますが、海洋調査ではこれでも短いほうです」(藤江さん)
反射法は、海底下の浅い部分の構造を細かく見ることに適した手法です。ケーブルは、長いときは5キロメートル以上にもなるとか。ただし地下10〜20キロメートルの深さの構造を見ようとすると、5キロメートルのケーブルでも足りません。
震源域の断層が非常に複雑な構造になっている
そのため深部の大規模構造を見るためには、「屈折法」(後述)という別の調査手法を使います。こちらは、反射法では見えない深部まで見ることができる反面、解像度が反射法よりも低くなります。海底下の構造調査は、それぞれ一長一短ある手法を使い分けながら行われるのです。
「この調査では、震源域の断層が非常に複雑な構造になっていることがわかりました。断層の両側には堆積物が溜まっていて、地震でそれが動くとずれた部分が見えるので、そこに断層があるとわかります。
しかし今回の調査では、地層によるズレがいたるところにたくさんあって、浅部でどの断層がどう動いたのかがわかりません。大きな津波が引き起こされたので、深部で起きた地震が海底面に到達したと考えられるのですが、その出口がよくわからないんですね」(藤江さん)
海底下深部から水は移動してきたのか?
「そこで三次航海では、浅部に深部から来た水があるかどうかを調べるために、海底下の堆積物からの採水を実施しました。
水の分析で注目するのはヘリウムです。ヘリウムの同位体比は、マントルと空気中や海水中とでは大きく異なるので、マントル由来のヘリウムが多ければ、深部から来た水であることが推定できるんですね」(藤江さん)
令和6年能登半島地震直後の報道では、「沈み込んだ海洋プレートから出た流体が上がってきて地震を起こしたのではないか」との説がよく聞かれました。この採水調査は、その説を検証することも目的のひとつだったようです。
「太平洋プレートは中国大陸の下まで入り込んでいますし、フィリピン海プレートも日本海まで到達しているといわれているので、仮に流体が出ているとしても、どの海洋プレートからかはわかりません。いずれにしろ、海洋プレートの岩石の中に化学反応で取り込まれた流体は、かなり長くそこに留まっているんですが、ある温度に達すると出てくるんです。
それ以外にも、能登半島の下には、別の鉱物が持ち込んだ水が出てくる場所があるのではないかといわれています。GPSによる地殻変動観測では、能登地方は全体的に少しずつ膨らんでいるんですよ。これは、海底下の深いところで何かが膨張しているせいかもしれません。
そのため以前から、能登半島の下には流体が入り込んでいるのではないかといわれていました。地震後は、その膨張が止まったと見られています。そういう意味も含めて、この地震調査では水が注目されているんですね」(藤江さん)
研究者が注目した「ある断層」とは
さらに2024年9月には、ある断層の状態を詳しく調べるために、反射法と屈折法の両方を使った大規模な構造探査が行われました。一次航海と二次航海の調査結果から、その断層について興味深い知見が得られたためです。
「以前から、さまざまな構造探査の結果、能登半島周辺の断層は図のようにモデル化されていました。
いずれも逆断層なのですが、NT2とNT3は北西側、NT4〜6は南東側に傾いているという、やや特殊な特徴を持っています。
これは、共役断層と呼ばれるもの。同時期に同じ条件で形成されたにもかかわらず、お互いの断層の向きが逆になっているんですね」(藤江さん)
断層の動きと津波の関係を調べると
一次航海と二次航海の地震計のデータに基づいて、東京大学地震研究所の研究者が、これらの断層の動きと実際に起きた津波の関係を計算したそうです。
その結果、NT4〜6の断層が動けば、津波のデータは説明できることがわかりました。だとすると、反対側に傾いているNT2とNT3は大きくは動かなかったことになります。
「津波との関係を見るかぎり、NT2とNT3は本震では動いていないように思えます。しかし地震計のデータを見ると、NT2とNT3でも余震はたくさん起きていました。ですから本震でも動いている可能性があるのですが、津波には関わっていないわけです。
ただ、NT2とNT3のあたりで起きる余震は深部がメインのように見えます。津波は海水を動かす振動によって起きるので、深部の動きはあまり関係ありません。NT2とNT3が本震で動いていたとしても、その影響は津波には表れないわけです。
また、海底地震計のデータを見ると、とくにNT2の下では、深いところでクラスター状に地震が起きていることがわかります。
さらに、震源域は日本列島が海洋プレートの沈み込みに伴い圧縮場になっている場所なので逆断層が多く、本震も逆断層のずれによるものでしたが、NT2の下の深部には横ずれ断層に見えるものがあることもわかりました。
もしそうだとすると、ちょっと変わった地震の起こり方だった可能性があります。1枚の板が大きくすべったときの地震の起こり方をダブル・カップルといいますが、それよりも複雑なメカニズムかもしれません」(藤江さん)
NT2の下には何かがあるのか?
「断層面が複雑な形になったり、断層の動く方向が途中で変わるなど複雑な動きをすると、単純に平板の断層が活動する地震とは違う特殊なメカニズムに見えることがあります。そういう特殊なメカニズムで起きる地震の典型例は、火山域や流体が関わる場所で起きる地震です。
一方、能登地震の起きる前、2020年12月から2023年12月までの同地域の地震活動を示すデータからは、地下15キロメートルくらいの深さでクラスター状に地震が起きていたこともわかりました。ですから、深部でクラスター状に地震が起きているNT2の下に何があるのかをもっと詳しく調べなければいけません」(藤江さん)
そこで、NT2の深部をよく調べるために行われたのが、2024年9月の反射法と屈折法による構造探査です。NT2を通る図の測線上を航行しながら、海底に向けてエアガンを撃ちました。
「反射法で使用したハイドロフォンのケーブル長は、5キロメートル。およそ400個のハイドロフォンを12.5メートル間隔でつないで曳航しました。
一方の屈折法は、40台の地震計を2キロメートル間隔で海底に設置。反射法のハイドロフォンが12.5メートル間隔、こちらは2000メートル間隔ですから、解像度はまったく違います。
しかし、反射法では5キロメートル先までのデータしか取れないのに対して、屈折法では100キロメートル程度まで遠くのデータが取れるんですね。そういう桁の異なる調査をやって、両方のデータを合わせることで、浅部から深部までの構造を調べるわけです。
エアガンは、反射法では50メートル間隔、屈折法では200メートル間隔で撃ちました。測線は端から端まで100キロメートル。したがって、反射法では2000回、屈折法では500回の発振をすることになります。
通常は反射法、屈折法ともそれぞれ1回(片道)しかエアガンを撃ちませんが、今回はより詳しく構造を調べるために、反射法で2回(1往復)、屈折法で5回(2.5往復)エアガンを撃ちました。
同じ測線で繰り返しデータを取り、それを合わせて活用すると、さまざまな観測ノイズを効果的に抑制することができます。今回は1本の測線だけに絞ってエアガンを集中的に撃ったおかげで、非常に質の高いデータを取ることができました」(藤江さん)
これが「NT2」の地下構造だ
そのデータはまだ解析中ですが、予備的な解析の段階でも、NT2の深部で活発に余震が起きている場所に、周辺とは異なる特徴的な構造があることがわかってきました。図で色が濃く見えるところが、何らかの構造を示す信号がとらえられた部分です。
「浅い部分にはさまざまな信号が見えますが、深いところではこの余震域だけ信号が見えています。具体的なことはわかりませんが、何かしら周囲とは異なる構造があるのではないでしょうか。
もしかしたらここに流体が入っているのかもしれませんが、もっと解析を進めないと、何も言えません。しかし、まわりと違う何かはあるはずなので、研究者にとってきわめて興味深い場所であることはたしかです」(藤江さん)
大規模構造探査で見えた「シャドーゾーン」
今回の大規模構造探査ではほかにもさまざまなデータが取れていますが、その中でも藤江さん自身がとくに注目しているのが「シャドーゾーン」と呼ばれるものだそうです。
あるポイントに設置した海底地震計のデータを拡大した図を見てみましょう。横軸は、測線上の距離を示しています。
「左の像を見ると、約82キロメートルのところで信号がブチッと切れています(図の赤い矢印)。反対側から見た右の像でも、同じように切れている部分がありますよね(図の赤い矢印)。これをシャドーゾーンと呼びます。ここでブチッと切れるのは、ここに低速度層があることを示しているんです」(藤江さん)
地震波の速度は、それが通る場所によって異なります。基本的には地中の深いところほど速くなりますが、固いものや温度の低いものを伝わるときにも速くなります。ですから、地震波速度の分布を見れば、その構造を推定できるわけです。
「ここに低速度層がある一方で、シャドーゾーンが見られない部分もあるのが興味深いところです。NT2断層の下に、速度逆転があるところと、ないところがあるんですね。速度がすごく遅い層には水が含まれていることが多いので、水がたくさんある層と、それが抜けてしまった層があることで、速度逆転が起きているのかもしれません。
ちなみにこの場所では15年前に反射法探査が行われているのですが、そのときの反射法データは今回の反射法データと特徴が異なって見えます。この15年間で、NT2断層で何らかの構造変化が起きた可能性があるかもしれません」(藤江さん)
現時点ではまだ確定的なことはいえないようですが、能登地震はその発生直後から、多くの研究者たちがさまざまな調査を行ってきました。こうして、地震の調査や研究がどのように進められているのかを知ると、その成果に対する期待感も高まります。それによって地震への理解が深まり、より有効な対策が講じられるようになるよう、研究の進展を見守ることにしましょう。
この記事の前編はこちら
日本海側で起こる地震は、どんなメカニズムで起きるのか?そこには、いまだ解明されていない「日本海誕生のメカニズム」が関係していた
取材・構成:岡田仁志
取材・図版協力:海域地震火山部門 地震発生帯研究センター 藤江 剛 センター長
撮影:神谷美寛/講談社写真映像部
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