海底下から採取される地質試料「コア」。このコアから、大陸の成り立ちや極限環境における生命の存在など、さまざまな科学研究に有益な情報を得ることができます。このコア分析において貴重な情報のひとつが「地磁気」です。コアには、太古からの地磁気を記憶している鉱物が含まれます。地磁気の向きは時代とともに変わるため、コアの磁気を調べることでその地層の年代を知ることができます。
古文書に記された地震、さらには日本列島にまだ人が住んでいない頃の大地震など、過去に起きた自然現象を推定することができます。どうやって地磁気を測り、そこから何がわかるのか。世界各地でコアを採取・分析し「7つの海をくりぬく男」(実際は「5つ」だそうです)の異名を取る、JAMSTEC海域地震火山部門上席研究員の金松敏也さんにお話を伺いました。(取材・文:瀬戸内千代)
コアに記録された地磁気からその年代がわかる
――まず、地磁気とは、どういうものなのでしょうか?
地磁気は、地球磁場のことです。地球の南の磁極(南極ではない)をつむじとしたら、そこから北の磁極(北極ではない)に向かって地球の外を取り巻くように磁気が流れています。
でも、この向きは一定ではありません。房総半島で見つかったチバニアン期(約77万年から約13万年前までの地質時代)が、ちょうど始まる前は地磁気は今と逆で南向きでした。
海底の堆積物には「マグネタイト」という磁石の鉱物がたくさん入っています。マグネタイトは水の中ではふわふわ浮いていますが、海底に沈むときには、地磁気に沿って、コンパス(方位磁針)のように向きがそろっていくんですね。それがだんだん固まって地層として保存されるので、過去の地磁気の情報は堆積物に反映されているわけです。
海底に沈みつつ向きがそろって固定されたマグネタイトは、何千、何万、何億年と地層として延々とつながっています。
もうひとつ、海底火山や陸の火山から熱い溶岩が冷えて岩石になります。マグマに含まれるマグネタイトは、熱いときにはまだ磁気が安定しません。しかし、600度ぐらいまで冷めると磁気を帯びるので、そのときの地磁気が記録されています。
――約600度、かなり熱いですね。
逆に、常温のマグネタイトを約600度まで熱すると、磁気はなくなってしまいます。高温から約600度まで下がってくると、そのときの地磁気をちゃんと記憶するんですね。
北と南が入れ替わる「地磁気逆転」が起こる
地磁気は、時代ごとにその向きが変化します。北と南が入れ替わることを地磁気逆転といいますが、コアに記録された過去の地磁気を調べてみると、わかっている範囲で「北向きの時代」と「南向きの時代」は、だいたい半々です。いちばん最近の南向きだった時代がチバニアン期の前の松山期で、それ以降は現在まで北向きです。
でも、マグネタイトのそろい具合を見ると、そのあいだにも地磁気の強度は変化しているんですね。かつて地磁気が南を向いた頃を調べると、地球のまわりの地磁気がいったん弱くなって、だんだんとなくなる感じで約数千年かけて逆転したことがわかっています。
磁石の北は地図の北からズレている!
地磁気にもとづく「磁力方位」の存在は、大航海時代から知られていました。この時代、コンパスが指す北(磁北)は、北極点の方角(地図上の北)から、欧州で30度ぐらいずれていたという記録もあります。けっこう大きいですよね。
現在の地磁気の向きも、実は、真北ではありません。日本でコンパスを使うと、真北より西側に少しずれています。関東では7~8度ぐらい、北海道では9~10度ぐらい西を向いている。この磁力方位は、登山用の地図にはちゃんと書いてあります。
いまはGPS(全地球測位システム)で、真北をスマホでも確認できますけど(例えばiPhoneのコンパスアプリで「真北を使用」と設定しておくと、磁北ではなく、一般の地図と同じ北を指す)。
ちなみに、コンパスが乱れて磁力方位が正確に測れないといわれる青木ヶ原樹海は、富士山の噴火による玄武岩質の溶岩で、磁石にくっつくぐらい強い磁力をもっています。さきほどの、マグネタイトも溶岩ができるときにできる鉱物のひとつですが、小さくて微弱だから、堆積岩の磁力は弱いという特徴があります。
二条城と京都の地割りのズレは地磁気変動が原因!?
――マグネタイトはほとんどの堆積岩に入っているものなのでしょうか?
はい。だいたいどこにでもある鉱物です。だから、地層には地磁気の向きが残されていて、その向きを見れば年代がわかるだろうと考えたんですね。
日本の地磁気と年代の対応が比較的明瞭な期間については、もう年表ができています。おもしろい話があって、京都の碁盤の目のような道は平安京がつくられた時代の北極星(真北)にもとづく東西南北に沿っています。しかし、二条城は、舶来品としてコンパスが入ってきた1600年頃にコンパスで北を決めて建てられたから、道から3度ほどずれているという説もあります。
調べると、その頃の磁力方位は4度ぐらい東を向いていたらしいんですよ。それとは別に、伊能忠敬がコンパスを使って日本地図を作った1800年頃は、磁北がもっとも北を向いていた時期だったので、ちょうどいいタイミングでした。
地磁気の研究から日本列島誕生の謎に
ここまで地磁気の水平方向(偏角)の向きだけいってきましたが、実は鉛直方向(伏角)の向きもあるんです。
磁力線が一斉に入っていく北極あたりは角度がすごくきつい。つまり、地磁気の伏角が大きいんです。ところが、赤道のあたりではほぼ平らで、伏角が小さい。だから、地層に残された地磁気の水平と鉛直の方向を組み合わせて見れば、さらにいろいろなことが正確にわかるんじゃないかと考えています。
例えば、日本は複数のプレートがぶつかってできた列島で、どこから来たかわからないような、いろいろな向きの地磁気を帯びた岩石があるので、そのルーツをこの方法で探ろうという研究もあります。
なぜコアの地磁気に注目するのか?
――コアの年代測定には、いろいろな指標が使えると思いますが、地磁気を使うメリットはなんでしょうか?
コアから年代を知る方法の一つに、「有孔虫(ゆうこうちゅう)」というプランクトンの炭酸カルシウムに含まれる14C(炭素の放射性同位体)を調べる方法があります。しかし、海には「炭酸塩補償深度」というものがあり、4000メートル以深では炭酸カルシウムが溶けてしまうんですね。
そのため、深海から採取したコアには有孔虫が残っていない。そこで、地磁気に注目しました。採取したコアから地磁気の向きを調べ、年代を推定します。
たとえば、東北地方太平洋沖地震を起こした「日本海溝」の堆積物は、過去の地震をよく記録しています。しかし、水深が7500メートル以上あるため、有孔虫による放射性炭素年代測定は難しい。そこで、地磁気を分析することによって、堆積物の年代を知ることができるんです。
地磁気は、ほかにも役立つ場面があります。コアは採取するさいに円柱状のパイプを使うため、取ってきたコアの正確な向きがわからなくなることがあるのですが、地磁気を調べることで北が定まります。例えば、震源域の掘削で断層のコアが出てきたときに、それが海底でどちらを向いていたか、地磁気からわかるのです。
海底下に記録されている巨大地震の痕跡
巨大な地震による津波や大きな地滑りなどが起こると、海に濁流が発生します。この濁流が堆積した地層を「タービダイト」といいます。巨大な地震が起これば、タービダイトが形成され海底に地層として記録されているはずです。
――タービダイトは、どんな地層なんですか?
まず、津波や地滑りなどによって、海底の斜面にたまっている泥がモアッと巻き上がります。このとき濁った水は周囲の水より重いため斜面から流れ落ちます。これを混濁流といいます。この混濁流が海底に積もると、粒子が大きいものから先に沈み、泥のような細かい粒子はその上に積もります。このような地層がタービダイトです。
実際に、地震直後の海底を見た人はいませんが、再現実験や地震後の海底ケーブルの損傷などから、陸での雪崩と同じように土砂が流れたと解釈されています。
地震が繰り返し起こると、砂っぽいタービダイトと、プランクトンの死骸などがたまった通常の地層が交互にあらわれて、縞々の地層になります。そのタービダイトがたまった年代がわかると、大地震が周期的に起こっているという発想が可能になってきます。
地磁気で測った地震発生年を古文書と照合すると!
小さい地震はたびたび起きますが、2011年の東北地方太平洋沖地震のようなマグニチュード9クラスは起きる間隔が非常に長いといわれています。数百年とか1000年おきといわれる周期は、こういう地層が手がかりになります。コアの地磁気を測ってタービダイトのある地層の年代を推定していくんです。
――それを古文書などと照合するのですか?
はい。我々が見ていない地震なので、古文書と突き合わせてちゃんと整合性を確かめることは大事です。東北沖のコアは10メートル採っても2000~3000年分ぐらいの地層しか含まないので、869年の貞観地震など、いくつか記録に残っている地震と照合できました。
次の巨大地震を予測するには
――コアの地磁気分析と地震の予測研究からは、どのようなことがいえるのでしょうか。
日本海溝の複数の地点でコアを採って、地磁気の方向を使って年代を測ったところ、同じ年代のコアに、海底が揺さぶられてできるタービダイトが出現して、地震の周期性が見えました。2011年の東北地方太平洋沖地震は、あれだけ揺れたのにタービダイトがあまり厚くないんですね。コアを採った海底まで、土砂がたどり着かなかったかもしれませんが、原因はよくわかりません。
東北地方太平洋沖地震のタービダイトが見つかった場所から、かなり広い範囲で海底が揺さぶられた地震だとわかったため、その後、国際深海科学掘削計画第386次航海という国際的な掘削プロジェクトで範囲を広げて詳しく調べました。これは、コロナ禍で中断したりしましたが無事に終わり、いま結果をまとめているところです。
どの程度の大きさの地震が記録されるのか?
――それほど大きくない地震が、例えば20年周期であったとしても、1000年に1回の巨大地震が起きたら、小さな地震による地層は大きな地震の地層に取り込まれてしまうのでしょうか?
それもあるんですが、じつは、それほど大きくない地震でできたタービダイトはゴカイなどの海底にすむ生物にこねられちゃうんですよ。そのため、ある程度の量がたまっていないと、薄いタービダイトは生物にやられて見えなくなってしまうと思います。
私たちが調べた中では、だいたいマグニチュード8以上の地震ならタービダイトが残っているようです。
――相当深い海底なのに、タービダイトを乱すぐらい、生き物がいるのですね。
いますね。とくに、日本海溝は太平洋側で、その海底には「深層循環」という流れでグリーンランドのほうから豊富な酸素が運ばれてきているため、生物がじゅうぶんに生存できます。深海底で生き物に乱されていない地層が見つかるのは、氷期に海水準が低くなり水が閉じ込められて貧酸素になった日本海など、限られた場所だけなんです。
タービダイトの境界線を見分けるには
――タービダイトとそれ以外の地層の境界は、どのように判断されているのですか?
たしかに、いろいろなものが流れてきて沈む日本海溝の地層の境界は、とくにはっきりしません。そこで境界を見分ける方法が、年代測定なんです。
周囲から古い土砂が大量に流れ込んでできるタービダイトからは、かなり古い年代が急に検出されます。先ほど言ったように、深海からのコアは、炭酸カルシウムの14Cでは年代が測れないんですが、プランクトンの死骸などによる有機物中の炭素を使って年代を測ることは一応、可能なんです。
この方法で測る年代はそもそも不正確で、最近の地層にも2000年前の値が混じったりしますが、とくにタービダイトでは、いきなり年代が古くなるので、ほかの層とデータを比べれば、境い目がわかります。
もう一つは、X線を使ったCT(コンピュータ断層撮影)なんです。使うのは、医療用と同じX線CT装置です。患者さんが寝かされて入るところに、コアを入れるんです。
この写真のように、CT画像を見れば、タービダイトの層はすぐわかりますね。
私は慣れているので、肉眼でも「これ、タービダイトだ」とわかりますが、最初の頃は全部が泥に見えて、X線を使わないとまったくわかりませんでした。
微弱なコアの地磁気を測るには
――コアの地磁気は、どのように測定しているのでしょうか?
磁力計という装置で測っています。
まず、採取したコアは、半分に割られます。これは「半割(はんかつ)コア」と呼ばれます。一方は保存用のコアとなり、もう一方は、試料として研究に使われます。
このコアの、地磁気を調べたい層に小さなカプセルを突き刺して、キューブ状のサンプルを取り出します。ただし、硬いコアの場合は、ドリルを使って円柱状のサンプルを取ることもあります。
磁力計の中には、導線を巻いたリングのようなセンサーがあります。そのリングに地層のサンプルを通した時、地層はマグネタイトが入った小さな磁石だから、導線に逆向きの電流が流れるんですね。そこから磁力がわかる仕組みです。
磁力計の本体も土管のような大きさの、磁場を跳ね返す金属で覆われています。その空洞を液体ヘリウムでマイナス270度ぐらいまで冷やすと超電導状態になって、それもまた磁気シールドとして機能するんです。これによって、コアに記録されている非常に弱い磁力も測ることができます。
このほかにも、卓上タイプの磁力計もあります。これは、磁力計の中でサンプルをくるくる回して、その磁気を測定します。サンプルを何度も置き換えて、くり返し磁力を測って平均を取ってデータを出すんです。
こちらは、費用は少ないのですが、時間がかかるため、調査航海中など、大量のコアを測定するのには向きません。
地磁気から地球の中身を知りたい!
――地磁気の分析は、応用範囲が広いように感じました。例えば、気候変動などを思いつきますが、地震以外のご研究にも活用されているのでしょうか?
いまは、大きな地震が起きたため地震の研究を優先していますね。でも、もともとは、そういう、地磁気を用いた違うテーマの研究に興味があったんですよ。
そもそも地球の磁場は、回転する地球の中で地球のコア(核)のまわりをドロドロしたものが回っているからできたと言われています。ところが、氷期に北極と南極の氷が大きくなると地球の回転速度が変わるという説があって、それと地磁気にどんな関係があるのか調べてみたかったんです。
恐竜が生きていた白亜紀は地磁気があまり逆転せず、ずっと北を向いていました。どうやら地磁気自体が弱かったようなのですが、私が学生の頃は、白亜紀は火山がそこらじゅうにできて、地球の中の熱が奪われたから地球磁場の発生が弱まったんだという説がありました。
そういう仮説を知って、地磁気の研究をとおして、地球の中身を知りたいと思ったんです。
海洋地球研究船「みらい」のラスト航海へ
――地磁気は奥深いですね! これからは、どういうところに調査に行かれるのですか?
もちろん日本海溝には続けて通います。先日は、九州沖の日向灘にも行きました。11月には北海道沖に行く予定です。これは、1997年に就航して今年引退する海洋地球研究船「みらい」のラスト航海になります。
ちょうどそれと重なって私は行けませんが、もうひとつ11月にはおもしろい航海があり、あらたな科学掘削計画(IODP3)の枠組みのもと日本海溝で地球深部探査船「ちきゅう」の航海が予定されていています。
2011年の東北地方太平洋沖地震のとき、宮城沖の日本海溝で巨大な地滑りが起こったのですが、音波探査をすると、同じような巨大な地滑りと思われる古い地層が海底下にたくさんあるところが見つかったんです。それはやはり調べなければいけない。巨大地震=巨大地滑りが繰り返し起こっている証拠を見つけて、年代を調べようと計画しています。
いろいろなプロジェクトを通して、過去にどれだけ地震が起きていたのかを調べ、その知見を将来の防災につなげることができればと願っています。
取材・文:瀬戸内千代
撮影:森清/講談社写真部
取材協力・図版提供:海域地震火山部門 金松敏也
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