サクッと楽しむ
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宝石を閉じ込めた石「ピクライト」が教えてくれる“地球の内部”とは
ハワイの海にあって、富士山にはない理由は?
これは、ハワイのオアフ島の沖の深海(水深約3000m)でピクライトを採取している様子を撮った画像です。

ハワイの島々の周辺の深海には、マグマが流れ出る「ホットスポット」があり、その粘り気の少ないマグマから出来上がったピクライトがたくさん転がっています。
参考
さて、ここで一つ質問です。
ピクライトはマグマから出来るので、どの火山でも作られると考えることができます。例えば、日本の富士山でもピクライトを見ることができるのではないかと思えます。しかし、実際にピクライトの出てくる火山や場所は限られ、富士山ではピクライトは見られません。
なぜ、ハワイの海にはピクライトがあり、富士山にはないのでしょうか?
ハワイの海底は特別な場所だった!
地球は、プレートという硬い岩盤に覆われています。そのプレートはいくつもあり、常に少しずつ動いています。そのプレートとプレートの境界においては、火山活動が生じます。例えば、海底では「中央海嶺」と呼ばれるところや、日本のそばの海で見られるような「沈み込み帯」と呼ばれるところです。
ただ、このようなプレートの動きに左右されない火山活動が見られる場所があります。ハワイのそばの海底にあるような「ホットスポット」がそうです。

この場所の下にはマグマがあります。これは、地球内部にあるマントルの深いところから上昇してきた熱いマントル「プルーム」によって形成されたものです。
このマグマがプレートを突き破って海底に一気に噴出し、海水で急冷されるのです。
このように、ハワイの周りの深海には、ピクライトが出来上がる条件が見事にそろっています。そのため、宝石がたくさん眠っている海でもあります。
ただ、噴出したマグマが積み重なって巨大な火山島になると、その内部でマグマが滞留するようになるので、ピクライトが作られなくなってしまいます。
また、富士山にはマグマ溜まりがあるため、かんらん石が沈積し、分離してしまいます。さらにマグマ溜まりで温度が低下して、別の結晶が晶出してしまいます。晶出とは液体から結晶が析出することをいいます。そのため、富士山ではピクライトが作られないのです。
ピクライトが出来上がるのは海底であることが多く、例えば火山島のできる初期段階の海底や、火山島の周辺海域でバイパスのような流路から噴出した場所で多く見られます。
地球の体積の83%は“マントル”です!
地球の体積の83%、質量で67%を占めているものが、このマントルなのです。マントルを知ることは、地球を知る上でとても重要なことです。
地球の内部にあるマントルは、そのほとんどが、かんらん石です。ピクライトには、そのマントル由来のかんらん石を多く含みます。ピクライトは、マントルのひみつ、地球のひみつを教えてくれる岩石にほかなりません。
しかも、ハワイの海にあるピクライトは、ホットスポットからすぐに海底に流れ出たマグマから作られたものです。いわば“新鮮な”状態で急冷されたものなので、出来たての状態で固まっています。そのため、結晶の種類の変化があまり進んでいないので、マントルのかんらん石の成分にとても近いと考えられています。
例えば、かんらん石には二つの元素、鉄とマグネシウムの両方が入っています。かんらん石を多く含むピクライトを調べることで、まだ見ることのできていない地球内部のマントル(かんらん石)におけるマグネシウムと鉄の量比を推定できます。
実は、この美しい緑色の石は、地球の内部を垣間見させてくれるものなのです。
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日本でも、このピクライトを見ることができる場所があります。下記に紹介するので、興味のある方は訪れてみるのもおもしろいかもしれません。
日本で見られるピクライト「佐渡小木海岸(さどおぎかいがん)」
新潟県の佐渡島にある佐渡小木海岸には「神子岩(みこいわ)」と呼ばれるピクライト玄武岩質でできた岩があります。
・佐渡ジオパークのウェブサイト
https://sado-geopark.com/course/1922/
・佐渡市のウェブサイト
https://www.city.sado.niigata.jp/site/bunkazai/5267.html
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海底の石でわかる「地球のヒミツ」シリーズ、次回の第3回は「マントル」が教えてくれるヒミツです。お楽しみに。
・取材協力:
海域地震火山部門 火山・地球内部研究センター 田村 芳彦 上席研究員
付加価値情報創生部門 地球情報科学技術センター 研究データ公開技術グループ