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海底火山から見つかった「アンカラマイト」から大陸形成の謎に迫る!

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取材・構成:小熊みどり

海の底にある岩石は、地球のひみつをたくさん教えてくれます。なぜなら、海底にある岩石は、陸上のものよりもマントルに近く、地球内部の情報をたくさんもっているからです。そのような、深い海から採取した、地球のひみつを教えてくれる岩石たちを紹介します。

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潜航調査で採取したアンカラマイトを解説する田村芳彦さん(撮影:市谷明美/講談社写真部)

今回、取り上げるのは「アンカラマイト」とよばれる岩石です。あまり聞いたことのない石ですが、実は海底火山の謎に迫る重要な岩石なんです!(取材・構成:小熊みどり)

めずらしい石が大量にある場所とは

2018年6月、JAMSTECの田村さんたちの研究チームは有人潜水調査船「しんかい6500」で潜水調査を行いました。場所は「土曜海山」という、小笠原諸島・西之島の近くにある海底火山。そこで「アンカラマイト」という岩石を海底から採取しました。

土曜海山から採取したアンカラマイト(撮影:市谷明美/講談社写真部)

これまで、アンカラマイトはニュージーランド北東のキブルホワイト海底火山やハワイ、マダガスカルなど、世界の限られた場所でしか見つかっていませんでした。しかし、この調査でアンカラマイトが日本近海に、しかも大量にあることがわかったのです。

アンカラマイトとは、どんな石なのか

「アンカラマイト」は玄武岩という海洋地殻をつくる岩石の一種です。

玄武岩は鉱物の種類でさらに分類され、単斜輝石(たんしゃきせき)とかんらん石の大きな結晶をたくさん含むものがアンカラマイトとよばれます(ここでは組成的な定義ではなく、かんらん石・単斜輝石の大きさや量比からアンカラマイトとよんでいます)。

それでは、海底から採取した岩石の切断面を見てみましょう。

左・アンカラマイトの切断面の様子。右・アンカラマイトに含まれるかんらん石(写真中央部)(撮影:市谷明美/講談社写真部)

一般的な玄武岩には、肉眼で見えるサイズの結晶が少ないのですが、アンカラマイトには大きな結晶がたくさん含まれているのが特徴です。

暗緑色の結晶が単斜輝石、黄緑色の結晶がかんらん石です。一見すると、以前に紹介したピクライトと似ていますが、かんらん石とともに単斜輝石が多い玄武岩のことをアンカラマイトといいます。

参考:宝石を閉じ込めた石「ピクライト」が教えてくれる“地球の内部”とは

発見場所の「土曜海山」ってどこ?

土曜海山は水深約3200メートルの海底から立ち上がる、高さ約2800メートル、直径約30キロメートルの円錐形をした巨大な海底火山です。海山とは海底火山のことをいいます。

場所としては、東京湾から南に1000キロメートルほど、小笠原諸島の火山島「西之島」の北に約50キロメートルの場所あります。西之島の近くですね。

土曜海山は、東京湾から南に1000キロメートルほど、西之島の北約50キロメートルにある(図版提供:JAMSTEC)

アンカラマイトを採取したのは、土曜海山の水深2000〜3000メートルの山腹です。
土曜海山や西之島は、フィリピン海プレートの下に太平洋プレートが沈み込む場所にできた火山弧とよばれる「伊豆・小笠原弧」の火山です。

土曜海山という名前は、日本(孀婦岩・そうふがん)に近い方から順番に、日曜海山、月曜海山……、土曜海山まで7つの海山が並んでいます。そのため、これらをまとめて「七曜海山」ともいいます。

岩石の違いからマグマの性質がわかる

西之島では、2013年から現在も噴火が続いています。

海底火山では、流れ出した溶岩が固まると「安山岩(あんざんがん)」という岩石ができます。安山岩は、玄武岩よりも二酸化ケイ素を多く含む岩石です。

玄武岩も安山岩も、地下のマグマが噴出して固まってできたもので「火成岩(かせいがん)」とよばれます。

火成岩の種類は、マグマの成分で決まります。マグマの成分や温度で鉱物と鉱物の割合が決まります。マントルは深くて地球の中心に近いほど熱いため、マグマの温度は「マグマをつくるマントル(マグマ源マントル)」という火山の地下にある部分の深さを反映します。安山岩より玄武岩のほうが熱い・深いところでできることがわかっています。

西之島にないのに土曜海山にはある理由

土曜海山は、西之島から地続きで、50キロメートルしか離れていないのだから、当然、安山岩があるだろうと考えていました。しかし、潜航調査を行ってみると、土曜海山には「アンカラマイト」がたくさんありました。

西之島と土曜海山の違いは何か? それを知る鍵は海底地下にあります。

現在の西之島では、比較的浅いところ(深さ約20キロメートル)まで、マグマをつくるマントルが上がってきています。そこでは安山岩マグマが生成して地上に安山岩溶岩として噴出します。

それに対して、土曜海山では、マグマをつくるマントルが深さ約50キロメートルまでしか上がってきていません。

マグマ源マントルが西之島よりも深くにあるため、そこからマグマが上がってくる間に輝石の多いアンカラマイトができるのだと考えられます。

土曜海山のマグマ源マントルは西之島よりも深い。(図版作成:酒井春)

結晶を偏光顕微鏡見ると!

この結晶を偏光顕微鏡で見るとおもしろいことがわかります。

アンカラマイトのなかのかんらん石結晶。偏光顕微鏡による画像。黒い部分が「孔(あな)」。偏光顕微鏡の画像のため実際の色とは異なる(写真提供:JAMSTEC)

かんらん石結晶の表面や内部に大きな孔(あな)が空いているのが見えます。これは、骸骨のように見えるので「骸晶(がいしょう)」といいます。

これが、マグマが急上昇して、急に冷された証拠なんです。

つまり、アンカラマイトは、数ある火成岩の中でもマントルから直接できた岩石で、マントルの成分や、マグマがマントルから地上に上がってくるまでの様子がわかる岩石なんです。

マントル内でのマグマ発生メカニズムを解明する鍵となるともといわれ、世界中の研究者が成因の解明に挑んでいます。

アンカラマイトから大陸形成の謎に迫る

土曜海山は西之島の昔の姿なのではないかと考えています。

いま、土曜海山のマグマは地下深くのマントルから上がってきています(マグマを生み出すマントルをマグマ源マントルといいます)。マグマ源マントルがだんだんと地殻の直下まで移動してくるようになると、西之島のように安山岩マグマを噴出する火山へと進化していくのではないかと考えています。

海底火山は陸上の火山と違って、直接見ることができないので、得られる情報が少ないんですね。この「アンカラマイト」は海底火山の貴重な情報源になるんです。

日本でアンカラマイトが手に入るということがわかったのは、海底火山の研究を進める上でとてもうれしいことです。

また、西之島本体にはないのですが、西之島のまわりにはアンカラマイトに近い岩石があります。伊豆・小笠原から続く海底火山は、まだまだ新しい発見があり、この研究から地球の大陸形成の謎にもつながっているんです。

(撮影:市谷明美/講談社写真部)

取材協力:
海域地震火山部門 火山・地球内部研究センター 田村芳彦
付加価値情報創生部門 地球情報科学技術センター 研究データ公開技術グループ
イラストレーション:酒井春
撮影:市谷明美・講談社写真部

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