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[時間×生物学者]生物学者イクタは、「時間」から「生きるとはどういうことか」を考える。

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海と地球の研究者は、ふだんいったい何を考えて、どんな日常を送っているのでしょうか。現在、深海の熱水噴出域や湧水域という特殊な環境にいる生物(研究の詳細は、後半を参照)について研究している生田哲朗研究員のLIFEを探るべく、編集部がお話を伺いました。

プロフィール写真

生田哲朗

地球環境部門 海洋生物環境影響研究センター
海洋プラスチック動態研究グループ 研究員
JAMSTEC歴10年。趣味は音楽と料理。

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伊豆小笠原海域明神海丘の熱水噴出域に群生する、シンカイヒバリガイの仲間。

なぜか、いつも〈時間〉の問題に行きあたる。

現在、生物学の研究者として活躍する生田さんですが、実は研究をはじめたのは30代になってから。20代の頃に通っていた最初の大学では文系の道に進み、文化人類学を専攻していたのだと言います。

学生時代のステージでギターを演奏している生田さん
学生時代のライブにて。「組んだバンドのジャンルはロック、ジャズ、プログレ、ヘビメタ、アイドル他色々。パートはギター、ベース、ドラム、(こっそり)ボーカルも」

「元々バンドをやっていたので、音楽が大好きだったんです。それに、音楽は時間芸術だと言われていますよね。そこに惹かれて『音楽=時間を経ていく体験を人と共有する装置』というテーマで非言語コミュニケーションの研究を行っていたんです。そうしているうちに、だんだんと『時間を経るということはどういうことなのか』ということをもっと深く知りたいと思うようになっていきました」

写真:三線とギターの前の生田さん
「沖縄に住んでいたときに師事した三線奏者の師匠の『歌三線に歌も三線もいらない』という言葉の意味を考え、音楽感が大きく変わりました」

大学卒業後は音楽を続けながらも、「興味と縁に導かれるままにさまざまな仕事をした」という生田さん。ただ、そういう色々な経験の中でも、いつも行きあたるのは〈時間〉のことだったそうで…。

「例えば、イタリアンレストランの厨房での仕事では、パスタの茹で時間と毎日格闘していました。中でも印象的だったのは、長年やっていた遺跡調査の仕事。石器などの遺物を見つけるために土を何メートルも掘っていくわけですが、地面を掘り下げる度に『いま自分はひたすら掘るということで時間を経ながら、一方ですでに経過した何千年何万年の時間の跡を遡っているんだ』と不思議な感覚に陥るんです。いま考えても、面白い仕事でした」

写真:遺跡調査の仕事をしていた当時の生田さん
遺跡調査の仕事をしていた当時。1万年以上前の旧石器時代の遺物や堆積物を調査した試掘孔にて。

再スタートを決心させたのは「時間を経る=生きる存在としての生物」への興味。

そうやって〈時間〉の問題との関係をいつも感じながら日々過ごしていた生田さんでしたが、当時はバブル崩壊直後。やがてマンション建設の波がだんだんと止み、遺跡調査の仕事が少なくなっていってしまったのだとか。

「そんな時、たまたま入った本屋で、ある生き物関連のエッセイ本が目に止まって読んでみたところ、『生物ってやっぱり面白いな』と思ったんです。というのも、時間を経るということは、ある意味生きる、ということなんですよね。そこで、時間とはどういうことか、から派生して、生きるとはどういうことなのか、生き物が生きる姿、その過程をしっかり見てみたくなったんです」

それ以降、生き物が生きるということと、その時間の掛け違いで起こる大きな形や機能の変化、つまり進化への興味が加速していったという生田さん。ついには「大学に入り直して、しっかり勉強したい」と思うに至ります。すごい展開ですね!

「馬鹿げた発想ですよね。でも、ちょうど30歳の頃でしたし、リスクがありながらも何かに挑戦する最後のチャンスだと思ったんですよ。周囲には大分迷惑や心配をかけました」

共生する〈時間〉に、どんな秘密があるのか?

その後、生田さんは受験勉強をして理学部に進学します。そこで出会った先生の勧めで、2年で退学をして大学院に進むことに。大学院では動物の発生(卵から生まれ成長していく過程)と進化の研究に取り組み、生物学者としてのキャリアをスタート。その後色々な縁に恵まれ2012年にJAMSTECに赴任しました。

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YK19-11調査航海。有人潜水調査船「しんかい6500」の潜航調査準備中の生田さん。2019年8月28日から9月14日にかけ、相模湾から伊豆小笠原海域や房総沖までの広範囲な海域を調査しました。

現在、深海の湧水域や熱水域に生息する「化学合成共生生物」を研究しているという生田さん。これらは「化学合成細菌と二枚貝のような動物が共生して、まるで一つの生き物のように生きている不思議な存在」だと語ります。

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生田さんが研究対象としているシロウリガイ。相模湾の水深約1100mに群生していたもの。「普段は数少ない深海調査の機会に固定した(=時間の止まった)試料を使って、その生物が生きた時間を復元していきます」

「このような生物たちが生きる、つまりそれぞれの時を経ながらどのように自己-非自己、生物-非生物の間の関係を築いているのか、その関係の築き方をどのように進化させてきたのか。謎のすべてを解き明かすことはできないかもしれないけど、その答えに少しでも自分が近づけたらいいと思うんです」

生物たちが過ごす深海での〈時間〉の経過に、生田さんは今日も想いを馳せ続けています。

生田哲朗×研究テーマ

メタンや硫化水素などが湧き出す、深海の湧水域・熱水域。そこに生息するシロウリガイ類やシンカイヒバリガイ類などの二枚貝と、化学物質をエネルギー源に有機物を作る化学合成細菌との共生関係の解明に取り組んでいる。

近年は深海にプラスチックやその他の化学物質の汚染が広がっていることが確認されてきている。深海生物がそのような新しい非生物因子の侵入に対してどのような反応を示すのかに注目して研究を行なっている。

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生田さんコメント

深海に住む動物は生きている姿を見て研究するには最も不向きな生き物かもしれません(笑)。JAMSTEC赴任時は、生物の生きる姿に立ち会う研究は半ば諦めていたのですが、赴任後すぐに、どういうわけかシロウリガイの卵を産ませて発生を見ようという研究が転がり始めました。研究を続けていると、そういう不思議な巡り合わせや発見が色々あります。

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