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LIFE×研究者

[釣り×地質学者]地質学者ハマダは、地質図で釣り場を決める。

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海と地球の研究者は、ふだんいったい何を考えて、どんな日常を送っているのでしょうか。たとえば釣り好きの研究者は、釣りの時に一般の釣り人と同じようなことを考えているのか、それともまったく違うのか。

地質から地震を研究している研究者のLIFEを探るべく、編集部が、高知コア研究所の濱田研究員を訪ねました。

プロフィール写真

濱田 洋平

高知コア研究所 物質科学研究グループ 副主任研究員
構造地質学の専門家。プレート沈み込み帯や南海地震の研究を野外調査・掘削・実験をもちいておこなっている。

釣りに出かける前には、道路地図よりも、地質図と地形図。

釣りの話を振ると濱田さんは「釣りたい人には、地質図と地形図を読むことをオススメします」と即答。濱田さん自身、まずそれらを読んでから出かけるというのです。地質図とは簡単に言うと、その土地の地層や岩石の分布、それらがいつできたのかを読み取れる地図。地形図は等高線を使い、地形がどうデコボコしているかを表現した地図です。
「魚がいそうな場所がわかりますからね。私の場合、現地までの道路地図を見るのは、そのあとですね」

濱田さんが暮らす高知県は、土佐湾に面した長い海岸線を持ちます。その浜に立って大海原を望む時、地質学者 濱田さんの頭には海中の様子が浮かんでいるようなのです。「砂浜の続いている場所でも沖には根(海中の岩場)があって、そこには魚がいる。地質図と地形図を見てから現地へ行けば、“このあたりにきっと根があるはずだ”とわかるんです」

シームレス地質図の画面キャプチャ
濱田さんが出かける前に見ていく「シームレス地質図」。これ、読み解くのは難しいでは? 「いえ、中学校で習った知識で読めます。私にとってはスターバックスで注文する方がよほど難しいです」と濱田さん。
出典:産総研地質調査総合センターウェブサイト「地質図Navi

であれば釣果はバッチリ? 濱田さんは「そこだけは私、ちょっと自慢できるかもしれません」と、また即答。ほぼ毎週末、釣りに出かけるという濱田さんは、どうやら毎週、土佐湾の海の幸に舌鼓をうっているようです。うらやましい。

写真:磯釣りをしている濵田さん
濱田さんが好きなのは磯釣り。岩や地層が見える場所が好みだという。「岩を踏みしめて釣りをしていると、なんだか落ち着くんですね。地球の上に生きてるな、って気がして」行当岬での釣果。ヒラスズキ。足元にはタービダイト層が。

地質学者は、道ばたの石を見て何を思うか。

濱田さんの興味の対象は釣りだけではありません。濱田さんの所属する高知コア研究所は自然豊かな場所にあり、近所の用水路にも鮎やナマズが泳いでいたり、スッポンが歩いていたりするといいます。「麦わら帽かぶって、長靴履いて、ジャブジャブ入りますよ。彼らを“救助”して家の水槽で飼ってるんです」 まるで小学生? 「ホントに小学生とあまり変わらないですね。ふだんも、何か落ちていないかなと下を向いて歩いていることが多いですね」

道ばたの石ひとつを見ても、もしそれが花崗岩なら、本来高知には存在しない石であるため、“いつどこから持ってきたのかなあ”、“そもそもどこでできたものだろうか”などと、濱田さんの頭の中では、日本の地理・歴史、ひいては数億年の地球の歴史が展開されるのだそう。

「何にでも興味がありますね。そして、何をしても研究につながると思っているところがあります」。 どこかで見たものが、いつか別のどこかで研究につながる。そんな経験をしたことがあるからだと濱田さんはいいます。「だから好奇心に正直に生きていきたいなと思っていますね」

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これは濱田さんが、道ばたの石を拾っているところではなく、地上に表れた地震の痕跡「地震の化石」とよばれるシュードタキライトを調査しているところ。高知県南部に露出する四万十帯中のout-of-sequence断層。

地震が起こる場所、を見たい。

さて、濱田さんの研究テーマは、地質や岩石から地震を解き明かすこと。地質学では陸上のみを専門にする人が多数派で、濱田さんのように、陸も歩くし海にも出る、という研究者は少数派だといいます。

日本列島の大部分は、かつて地震の起こった地層が隆起したもの。陸のあちこちに大昔の地震の痕跡、いわば地震の化石があって、それを調べることは有意義だと濱田さんはいいます。それでも濱田さんが海を研究したかったのは「地震の化石だけではなく、地震が起こる場所を見たいと思ったからなんです」。

大学院生の時に南海トラフへの研究航海に参加し船上で多くの第一線の外国人研究者とともにこの地震の発生の仕組みについて議論を交わすことができたことが、JAMSTECに入るきっかけになった、という濱田さん。研究への思いは、その時からブレていないようです。「地震の発生する場所とその発生プロセスを理解したい。そのために、陸も歩いて、海底も掘って、岩石や地質を研究し続けます」

 

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高知龍馬空港のすぐ隣にある「高知コア研究所」。地球深部探査船「ちきゅう」をはじめとする掘削船によって海底から採取されたコア試料から先端的研究を行う、世界でもユニークな研究所だ。ちなみに、坂本龍馬の銅像で知られる観光名所 桂浜も近くにある。

濱田洋平×研究テーマ

地震の発生する場所とその発生プロセスを理解する、という大きなテーマのもと、濱田さんはさまざまな研究に取り組んでいる。近年の研究の一つは、南海トラフの周辺でたびたび起こっているスロー地震(通常の地震と比べてゆっくりした滑りによる、ゆっくり地震)。震源近くの海底を調べて、スロー地震の発生メカニズムの解明を進めることは、ひいてはスロー地震と巨大地震の関係性の解明や、地震の発生予測にもつながると期待されている。

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「ちきゅう」で南海トラフのスロー地震震源域を研究航海中の海底から回収されたサンプルをみつつ、他の研究者と議論しているところ

濱田さんコメント

地震の仕組み解明の別のアプローチとして、高知コア研究所では摩擦試験機という実験機を用いた研究も行っています。この地震の際の断層での摩擦現象を再現する機械によって、ミクロの視点から地震という現象の解明を目指しています。
JAMSTEC50周年記念行事の一環としてこの摩擦試験機を用いた「すべらない砂甲子園」を実施しています。これは全国から集った砂から「一番すべらない砂」を決定するトーナメントです。ぜひとも当研究所の摩擦試験機を、そして砂たちの熱い戦いをご覧になってください。

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