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地球環境部門

IPCC第6次評価報告書(第1作業部会)の公表
-JAMSTEC研究者たちの貢献とメッセージ-
第5話:大気汚染と地球温暖化の関わりはどこまでわかったか?

2021年12月24日

[執筆者]
金谷 有剛 センター長
(地球環境部門 地球表層システム研究センター
第6章 査読編集者 (Review Editor))

キーポイント

◆エアロゾル減少が昇温に働き、脱温暖化取組の妨げとなる状況は、新型コロナ感染症(COVID-19)蔓延防止のロックダウン時にすでに顕在化した。

◆エアロゾル・メタン・オゾンにHFC類を加えた物質群であるSLCFs(短寿命気候強制因子)は、どのシナリオでも合計すると今後は昇温に寄与するが、シナリオ間で差も大きい。1.5℃目標のために今後残された昇温幅(0.4℃程度)の圧迫要因となるため、残余カーボンバジェットの確保にはSLCFsの管理も重要である。

◆低排出シナリオでは、将来、地表付近のオゾン濃度やPM2.5濃度が減少するため、大気質改善・健康被害軽減にも結び付く。

◆大気組成の衛星観測や長期現場観測は、モデル評価や要因解析に重要な役割を果たす。今後は、森林火災の頻発化・永久凍土の融解などによる大気組成変化の可能性や、メタンの寿命を決めるOHラジカル濃度が維持されるかどうかなどの研究が必要。

第4話では、第6章のあらすじとして、CO2増加に加えて、エアロゾルの減少が今後の昇温要因となること、メタンの排出やオゾンの濃度を下げることができれば、冷却効果が働き、エアロゾル減少による昇温を打消すことができることを示してきました。今回はそれらにまつわる重要な話として、「大気質」は気候変動とともにどうなるのか、観測のエビデンスはいかほどか、などについて触れます。そのうえで、第3話から今回までのストーリーを合わせて、残余カーボンバジェットに大気汚染物質が与える影響について述べます。最後に物質・生態系・人間・気候にまたがるフィードバックの理解と今後について、示します。

大気質はどうなる?新型コロナからの教訓と将来

2020年、予期せぬ形で新型コロナ感染症が世界的に蔓延し、社会経済活動が停滞しました。そのことがもたらした気候への影響を再現しようと、IPCC AR6では急遽、CovidMIPモデル間相互比較が実施されました。その詳細と主な結果はすでに「コロナ禍によるCO2等排出量の減少が地球温暖化に与える影響は限定的」としたプレスリリース(2021年5月7日)でもお伝えしたところです。エッセンスとしては、CO2の「排出」は2020年に約7%低下したが、大気中CO2濃度はむしろ増加し続け、エアロゾル大気汚染は低下し、インド・デリーなどでも「青空」が広がり、「日傘効果」が失われ、これらが相まって、むしろわずかの昇温傾向が予測されたが、自然の変動に埋もれて世界平均気温に有意な差は認められなかった、という話でした。この事例から、今後2050年にカーボンニュートラルで必要となる排出削減や社会変容の度合がいかに大きなものであるかが実感できます。CO2排出の減少が全くない場合を基準とすれば、わずかな昇温の鈍りはあったはずですが、それすらエアロゾルが打ち消すように働いたことも注目すべきポイントです。第4話では平時の話として、すでに始まったエアロゾル削減が今後の「避けられない昇温」をもたらす、と述べましたが、全く同じことがすでにコロナ期間に起きた、と見ることもできます。今後、観測からの評価検証が必要ですが、将来への教訓として生かすことが大事でしょう。

AR6の今回の第一作業部会報告書は、気候変動の評価がもちろん主眼ではあるものの、2100年までの大気質変化、つまり大気汚染物質の人間の健康への影響も重要とし、評価結果をまとめています。ここで大気質としては地表オゾンとPM2.5が主眼です。オゾンは、成層圏にあれば有害な紫外線が地表に降り注ぐのを防いでくれる物質(成層圏オゾン層)ですが、身近にあると有毒です。夏の都市域などで「光化学スモッグ注意報」が出るときがありますが、光化学オキシダントはこのオゾンのことで、呼吸器に影響を与えます。PM2.5は2013年ごろから日本でもニュースなどでよく聞くようになりました。2.5µm以下の大気中微粒子全てを指すもので、呼吸器や循環器に影響があります。全世界では、寿命を全うせずに死亡する方は、オゾンのせいで37万人、PM2.5のせいで410万人(室内大気汚染を除く)にも上ると言われています。

図1. (本編TS, ボックスTS.7、図1より):WG1のコアセットである共有社会経済経路(SSP)における短寿命気候強制因子(SLCF)の世界平均気温および大気汚染への影響。この図の意図は、近・長期のSSPシナリオにおけるSLCFsに対する気候と大気質(地表オゾンとPM2.5)の反応を示すことにある。エアロゾル、対流圏オゾン、ハイドロフルオロカーボン(HFCs)(寿命50年未満)、メタンの影響を、2019年に対する2040年および2100年の総人為的強制力の影響と比較している。地球表面の温度変化は、本報告書の第7章で評価したEffective Radiative Forcing(ERF)の過去および将来の推移に基づいている。ERFに対する温度応答は、7章の指標計算と整合するように、気候応答に共通のインパルス応答関数(RT)を用いて計算されている(Box 7.1)。RTは、大気中のCO2濃度が2倍になった場合の平衡気候感度が3.0℃である(フィードバックパラメータは-1.31W m-2-1)。シナリオ全体(灰色の棒グラフ)には、すべての人為的な強制力(長寿命、短命の気候強制、土地利用の変化)が含まれる。不確実性は5~95%の範囲。大気汚染物質濃度(オゾンとPM2.5)の地球規模での変化は、マルチモデルCMIP6によるシミュレーションに基づいており、2019年に対する2040年と2098年における5年間の平均地表濃度の変化を表している。不確実性バーはモデル間の±1標準偏差を表す。{6.7.2, 6.7.3, 図 6.24}。

図1は、将来シナリオ7種(基本5シナリオに、SSP3-7.0(高排出シナリオ)でメタン以外の短寿命気候強制因子を削減したシナリオSSP3-7.0lowSLCFhighCH4、同SSP3-7.0でメタンを含む短寿命気候強制因子を削減したシナリオSSP3-7.0lowSLCFlowCH4が追加されている)ごとに、2040年(左)または2100年(右)それぞれについて、2019年を基準とした昇温度と物質ごとの寄与(灰色はCO2等全体、色はエアロゾル、メタン、オゾン、HFC類をハイライト)と、全球的な地表PM2.5, 地表オゾンの減少度を合わせて示したものです。温度変化のグラフで黄緑色のオゾンの寄与がマイナス側に出るシナリオでは、オゾン濃度が削減されたためにそうした結果となっているわけですが、我々が呼吸する「地表」付近のオゾン濃度も確かに減少し、例えばSSP1-1.9, SSP1-2.6(非常に低い、低い排出シナリオ)では2040年に最大20%, 2100年には最大31%減少と予測されました。SSP3-7.0系列の3シナリオの比較から、オゾンの原料となるNOxなどの大気汚染物質の削減に加え、メタンの削減がオゾンの削減にも効果的なことが示されており(第4話も参照)、地表オゾンの濃度削減にとっても効果があります。

温度変化のグラフで紫色のエアロゾルが昇温側に大きく出ているシナリオは、基本的には冷却効果をもつエアロゾルが減少しているものであり、地表のPM2.5レベルも大きく低下します。エアロゾルをほとんど作らないメタンはPM2.5に違いは生みませんが、NOxや非メタン炭化水素、SO2などの排出低下が原因で、SSP1-1.9, SSP1-2.6シナリオでは2100年に13%のPM2.5減少が予測されています。

東アジアではSSP1-2.6シナリオでは、2019年から2100年に46ppbだったオゾン濃度が32ppbにまで下がり、PM2.5は17µg m-3が7µg m-3に下がることが予測されています。WHOのガイドラインのレベルまでは下がらない(最近、オゾンは高濃度季節に約30ppb, PM2.5は年間平均で5µg m-3まで推奨レベルが下がった)ですが、相乗効果として大きいものが期待されます。

モデルシミュレーションを支える観測

第6章でも、過去から現在までの観測によるエビデンスとモデル評価は重要です。AR6ではAR5に比べ、人工衛星による大気組成観測データの活用度が格段に増したことも特徴となっています。NOxの主要成分であるNO2の対流圏カラム濃度(地上から対流圏界面まで鉛直積分したもの)の衛星計測は20年超となり、その間に欧米や日本では濃度低下が著しく、中国では2011年ごろ極大となりその後濃度低下、インドや中東では濃度上昇が続いていることもAR6で示されています(図2)。NOx自体は直接的な放射効果は弱く、オゾンや硝酸塩に化学変化してから放射収支に影響し、またメタンの寿命に間接的に影響を与える物質であるため、濃度自体よりは、濃度を排出量変化に結び付けて理解することのほうが重要です。ところが、濃度変化は、排出の変化以外にも気象場や化学反応の変動の影響も受けるため、それらの要因を切り分けて評価することが重要です。JAMSTECでは、各種気体の衛星観測データを大気化学輸送モデルへ「データ同化」するシステムを開発し、上記の要因を分離して、排出量の推移のみを取り出して評価してきました。その結果(Miyazaki et al., 2017、TCR-2データ同化セット)についても、今回のAR6では引用されました。

図2 (本編Fig.6.6より) 1996-2016年のGOME/SCIAMACHY/GOME-2(TM4NO2A version 2.3)データセットを統合した対流圏NO2鉛直カラム密度の長期気候平均値(a)と時間発展(b)(Georgoulias et al.2019)。パネル(b)に示されたNO2カラムの時間発展は、パネル(a)のボックスで示された10地域について、フィットした1996年のレベルで正規化して示したもの。

人工衛星で濃度を観測できない重要物質については、現場の長期観測が重要です。ブラックカーボン(BC)はその代表格で、大きな排出源である中国からの排出量変化を追った、長崎県・福江島での長期濃度変動の結果や、その評価から排出が減少に転じたことを明らかにした結果についても今回のAR6で引用されました(Kanaya et al., 2020; 表1)。

表1. (本編Table 6.6より) バックグラウンド観測点での地域別炭素性エアロゾルの濃度トレンドをまとめたもの。

Species Analysis Period Change/Trends References
BC 1990–2009 Arctic Sites (Alert, Barrow, Ny Alesund)
−2% yr−1
Sharma et al. (2013)
1970–2010 Finland (Kevo remote site)
−1.8% yr−1
Dutkiewicz et al. (2014)
2005–2014 Germany (rural site)
−2% yr−1
Kutzner et al. (2018)
2009–2016 United Kingdom (Harwell rural site)
−8% yr−1
Singh et al. (2018)
2009–2019 Japan (Fukue Island)
−5.8 ± 1.5% yr−1
Kanaya et al. (2020)
2009–2015 India (Darjeeling mountain site)
−5% yr−1
Sarkar et al. (2019)
OA 2001–2015 USA (IMPROVE sites east of 100°W)
−2% yr−1
Malm et al. (2017)
Total Carbon (EC + OC) 1990–2010 USA (IMPROVE sites)
Western USA: −4 to −5% yr−1
Eastern USA: −1 to −2% yr−1
Hand et al. (2013)
2002–2010 Spain (Montseny rural site)
−5% yr−1
Querol et al. (2013)

残余カーボンバジェットとSLCF

第4話図5では、エアロゾル・メタン・オゾン・HFCの合計(SLCF全体)で、2019年基準で2100年までの昇温幅は+0.1~0.8℃の昇温となることを示しましたが、このことが、社会が注目する「残余カーボンバジェット」(第3話参照)にどう関係しているか、考えてみましょう。図3はその模式図で、産業革命前からの世界平均気温の上昇度を1.5℃にとどめることを目標とすると、CO2の累積排出量がその昇温幅に比例する量として決まります。1.5℃のうちすでに現在までに1.1℃近く上昇してしまっていますので、残りの0.4℃程度について取り扱うのが「残余カーボンバジェット」の考え方です。ただしこの部分すべてがCO2を今後排出できる量とはなりません。その部分を、SLCFが圧迫する図式とみることができます。その圧迫具合が、シナリオによって異なるのです。たとえば、SLCF寄与分上限の0.8℃もあると、残り0.4℃だった上昇分はすでに吹き飛んでしまい、CO2の今後の排出分は残りません。逆に、低排出シナリオにみられるように、SLCF寄与分が0.1~0.2℃程度で収まっていれば、CO2の残余カーボンバジェットも確保できる、ということになります。したがって、パリ協定などの目標に際しても、SLCFをCO2と合わせて管理してゆくことが重要、ということになるのです。

図3 (筆者オリジナル図) 世界平均気温上昇(左軸)とそれに比例する関係にあるCO2累積排出量(右軸)のフレームのなかで、残余カーボンバジェットの算出の位置づけを表現したもの。すでに1.1℃近い昇温があり、残された昇温幅は0.4℃分となるが、CO2以外(エアロゾル・メタン・オゾン等のSLCF、黄色)がその一部を圧迫し、残余カーボンバジェット(赤)は小さくなる。

大気汚染・メタンの今後の研究で大事なポイントは?

図3では、黄色と赤の仕切りを示しましたが、その仕切りの位置は、モデルで考慮しているプロセス自体の不確かさや、考慮できていないプロセスの影響で大きく変わります。たとえば、森林火災が想定以上に頻発化して大気汚染物質の排出などが急増する、永久凍土の融解からのメタン放出が想定を超える、といった可能性について、今後の注視が必要です。オゾンは健康を損なうと書きましたが、植生にもダメージを与えます。その結果、光合成を阻害してCO2吸収量を低下させ、間接的に温暖化をもたらすことになります。このメカニズムはAR5より前から指摘されていますが、研究の進展が乏しく、今回のAR6でも評価に至らず、「影響が大きいかもしれないが、信頼度は低い」、と記述されるにとどまりました。こうした自然と人間活動が相互に作用しあうようなプロセスについても、観測を含め、今後の評価が重要となっています。

メタンの消失項となる「OHラジカル」の濃度が今後も維持されるかどうかは、メタン削減策にとっても「生命線」です。OHラジカル濃度はこれまでの自然の変動や人間活動による放出に対し、大きく揺らぐことがなかったと考えられており、その維持メカニズムは「大気化学の奇跡」ともいうべきものです。それでも、最近の著しい人間活動からの排出変化(NOx濃度の上昇とCO濃度の低下)によって、1980-2014年の期間に、OH濃度に+9%の上昇があったともいわれています。ただ、別の評価の仕方(排出量は既知でありOHラジカルとの反応で専ら消失する「メチルクロロホルム」の濃度観測からOH濃度を推計する方法)では、もっと弱い変化しかないはずとされており、意見が割れています(JAMSTECからはPatra et al. (2021)が引用されている)。この違いの理由を明らかにし、将来のOHラジカル量をよりよく評価することが求められています。(図4)。

図4 (本編Fig. 6.9より) 対流圏OHラジカルの全球年平均値の時間変化(1998-2007年の平均値に対する割合)。a) UKESM1-0LL(緑)、GFDL-ESM4(青)、CESM2-WACCM(赤)の3つのCMIP6モデルの結果を示す。斜線を引いた薄緑と薄赤の帯は、UKESM1-0LL(3)とCESM2-WACCM(3)モデルの複数のアンサンブルメンバーの平均値を示し、複数モデルの平均値は太い黒線で示す。b) 1980-2015年の多モデル平均OH平年偏差を、(Montzka et al, 2011; Rigby et al., 2017; Turner et al., 2017; Nicely et al., 2018; Naus et al., 2019; Patra et al., 2021)の観測に基づくインバージョンから得られた値と比較したものを拡大して示している。データソースと処理に関する詳細は、章のデータ表(表6.SM.1)を参照のこと。

京都議定書以降、CO2などの長寿命温室効果気体について、国別排出量報告が義務付けられていますが、AR7のサイクルでは、第4~5話で述べてきた、「大気汚染物質類」についても排出の報告を進めるため、方法論開発に取り組むこととなっています。観測から「リアルタイム」の情報として排出を評価し、将来の削減計画が効果的なものとなるようにすることも大事です。

研究者からのメッセージ

今回のAR6WG1, 第6章のReview Editorに所属機関を通じて国から推薦いただき、また国際的に選出されたことはたいへん励みになりました。Review Editorは、執筆者チームに含まれますが、実際の執筆にはかかわらず、ドラフトに寄せられた専門家・政府レビューコメントが適切に反映されたかを確認し、報告することが主な役割です。本来は大御所の先生がなさる役割なのですが、幸運なことに選んでいただきました。Michael Prather大先生と、同年代ですが議長団でもあるNoureddine Yassaa氏と一緒に取り組めたことはかけがえのない経験となりました。関係の皆様にお礼申し上げます。

選抜当初より、Review Editorが執筆者会合に参加するのは第3回、第4回のみと通達されていました。第3回はトゥールーズでの現地会合で、交流も深められましたが(写真)、その後、コロナが影響し、現地会合開催は難しく、リモート会議ばかりとなり、残念でした。それでもなんとか多くの執筆者と関わりながら作業を進め、意見交換できたことも喜びでした。実際、第6章の1次・2次ドラフトにはそれぞれ1800, 2800を超えるコメントが寄せられ、重要性の高いコメントの抽出、見解の分かれる点の指摘などは大変な作業でした。執筆陣による改訂の追跡や、場合によっては執筆者へ修正方法の提案なども行いました。3度提出が求められたReview Editor reportのドラフト初案づくりや、執筆者会合中のReview Editor会合用のスライド作成も買って出たことも、たいへんよい経験となりました。

第6章のドラフト作成後期の段階では、WG1共同議長・議長団・技術サポートユニットメンバーから、「SLCFは温暖化の緩和に対して、削減マージンがありチャンスとしてみなすべきなのか、あるいは阻害要因なのか、はっきりさせて、政策決定者や読者に伝えるべき」との厳しいコメントもあり、どうまとめてゆくかは最後まで大きな課題でした。第4話と今回に書かせていただいたように、メタンが重要な役割を果たすことが、解析を進めながら明らかとなり、メタンを主役に据えたストーリーラインが構築されたのはドラフト執筆期間の終盤でした。メタンはこれまで、SLCFとしてよりはWMGHG(よく混合された温室効果気体)として取り扱われることが多く、CMIP6モデル相互比較実験の中でエアロゾル・大気化学を扱うAerChemMIPでも、排出量を変化される感度解析などがもともと設定されておらず、急遽、SSP3-7.0-low NTCF low CH4のようなシナリオでの計算がなされ、結果が取りまとめられたものでした。第5章との棲み分けの問題や駆け引きもあったようでしたが、最終的には、SPM D.1のヘッドラインステートメント「CH4 排出の大幅な、迅速かつ持続的な削減は、エーロゾルによる汚染の減少に伴う温暖化効果を抑制し、大気質も改善するだろう。」の文言に辿りつくことができました。このことで、報告書全体のなかでのSLCFの役割、第6章のメッセージもクリアになりました。

末尾になりますが、私事として、2000年に、「大気汚染」も地球温暖化評価に重要な要素であるということで、JAMSTECに来させていただいたこと、紆余曲折もありましたが、20年越しでこのような形での貢献に結びついたことについて、改めて、リードしていただいた松野太郎先生、秋元肇先生、温かく研究を見守っていただいた皆様にお礼申し上げます。ノーベル物理学賞をご受賞された真鍋淑郎先生とも一時期オーバーラップがあったことも私の大きな誇りです。

写真:LAM3での第6章執筆者チームの公式集合写真。章ごとの公式集合写真は内部コンテストに供された。トゥールーズの街角の衣料店、L’Echangeoirは「交換」を表す言葉で、深い意味合いがあったはずだったが、その点は審査チームに全く理解されず、結局第6章は受賞とは縁遠い存在にとどまった。そんな交流行事もよい思い出です。

◆理解を深めるための参考資料

1)
コロナ禍によるCO2等排出量の減少が地球温暖化に与える影響は限定的
http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20210507/
2)
Miyazaki, K., Eskes, H., Sudo, K., Boersma, K. F., Bowman, K., and Kanaya, Y.: Decadal changes in global surface NOx emissions from multi-constituent satellite data assimilation, Atmos. Chem. Phys., 17, 807–837, https://doi.org/10.5194/acp-17-807-2017, 2017.
3)
Kanaya, Y., Yamaji, K., Miyakawa, T., Taketani, F., Zhu, C., Choi, Y., Komazaki, Y., Ikeda, K., Kondo, Y., and Klimont, Z.: Rapid reduction in black carbon emissions from China: evidence from 2009–2019 observations on Fukue Island, Japan, Atmos. Chem. Phys., 20, 6339–6356, https://doi.org/10.5194/acp-20-6339-2020, 2020.
4)
Patra, P. K., Krol, M. C., Prinn, R. G., Takigawa, M., Mühle, J., Montzka, S. A., et al.: Methyl chloroform continues to constrain the hydroxyl (OH) variability in the troposphere, Journal of Geophysical Research: Atmospheres, 126, e2020JD033862, https://doi.org/10.1029/2020JD033862, 2021.
5)
分光学的手法を用いた観測によるアジア大気汚染の統合的理解の推進—2019年度堀内賞受賞記念講演—,金谷有剛,天気,67(9), 519-529 (2019)
https://doi.org/10.24761/tenki.67.9_519, 2021.

◆IPCC AR6 WGI報告書出典:
Full report
IPCC, 2021: Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Masson-Delmotte, V., P. Zhai, A. Pirani, S. L. Connors, C. Péan, S. Berger, N. Caud, Y. Chen, L. Goldfarb, M. I. Gomis, M. Huang, K. Leitzell, E. Lonnoy, J. B. R. Matthews, T. K. Maycock, T. Waterfield, O. Yelekçi, R. Yu and B. Zhou (eds.)]. Cambridge University Press. In Press.
AR6 Climate Change 2021: The Physical Science Basis
(外部リンク)

Technical Summary
Arias, P. A., N. Bellouin, E. Coppola, R. G. Jones, G. Krinner, J. Marotzke, V. Naik, M. D. Palmer, G-K. Plattner, J. Rogelj, M. Rojas, J. Sillmann, T. Storelvmo, P. W. Thorne, B. Trewin, K. Achuta Rao, B. Adhikary, R. P. Allan, K. Armour, G. Bala, R. Barimalala, S. Berger, J. G. Canadell, C. Cassou, A. Cherchi, W. Collins, W. D. Collins, S. L. Connors, S. Corti, F. Cruz, F. J. Dentener, C. Dereczynski, A. Di Luca, A. Diongue Niang, F. J. Doblas-Reyes, A. Dosio, H. Douville, F. Engelbrecht, V. Eyring, E. Fischer, P. Forster, B. Fox-Kemper, J. S. Fuglestvedt, J. C. Fyfe, N. P. Gillett, L. Goldfarb, I. Gorodetskaya, J. M. Gutierrez, R. Hamdi, E. Hawkins, H. T. Hewitt, P. Hope, A. S. Islam, C. Jones, D. S. Kaufman, R. E. Kopp, Y. Kosaka, J. Kossin, S. Krakovska, J-Y. Lee, J. Li, T. Mauritsen, T. K. Maycock, M. Meinshausen, S-K. Min, P. M. S. Monteiro, T. Ngo-Duc, F. Otto, I. Pinto, A. Pirani, K. Raghavan, R. Ranasinghe, A. C. Ruane, L. Ruiz, J-B. Sallée, B. H. Samset, S. Sathyendranath, S. I. Seneviratne, A. A. Sörensson, S. Szopa, I. Takayabu, A-M. Treguier, B. van den Hurk, R. Vautard, K. von Schuckmann, S. Zaehle, X. Zhang, K. Zickfeld, 2021, Technical Summary. In: Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Masson-Delmotte, V., P. Zhai, A. Pirani, S. L. Connors, C. Péan, S. Berger, N. Caud, Y. Chen, L. Goldfarb, M. I. Gomis, M. Huang, K. Leitzell, E. Lonnoy, J. B. R. Matthews, T. K. Maycock, T. Waterfield, O. Yelekçi, R. Yu and B. Zhou (eds.)]. Cambridge University Press. In Press.

Summary for Policymakers
IPCC, 2021: Summary for Policymakers. In: Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Masson-Delmotte, V., P. Zhai, A. Pirani, S. L. Connors, C. Péan, S. Berger, N. Caud, Y. Chen, L. Goldfarb, M. I. Gomis, M. Huang, K. Leitzell, E. Lonnoy, J. B. R. Matthews, T. K. Maycock, T. Waterfield, O. Yelekçi, R. Yu and B. Zhou (eds.)]. Cambridge University Press. In Press.

Chapter 5:
Josep G. Canadell, J. G., P. M.S. Monteiro, M. H. Costa, L. Cotrim da Cunha, P. M. Cox, A. V. Eliseev, S. Henson, M. Ishii, S. Jaccard, C. Koven, A. Lohila, P. K. Patra, S. Piao, J. Rogelj, S. Syampungani, S. Zaehle, K. Zickfeld, 2021, Global Carbon and other Biogeochemical Cycles and Feedbacks. In: Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Masson-Delmotte, V., P. Zhai, A. Pirani, S. L. Connors, C. Péan, S. Berger, N. Caud, Y. Chen, L. Goldfarb, M. I. Gomis, M. Huang, K. Leitzell, E. Lonnoy, J. B. R. Matthews, T. K. Maycock, T. Waterfield, O. Yelekçi, R. Yu and B. Zhou (eds.)]. Cambridge University Press. In Press.

Chapter 6:
Naik, V., S. Szopa, B. Adhikary, P. Artaxo, T. Berntsen, W. D. Collins, S. Fuzzi, L. Gallardo, A. Kiendler Scharr, Z. Klimont, H. Liao, N. Unger, P. Zanis, 2021, Short-Lived Climate Forcers. In: Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Masson-Delmotte, V., P. Zhai, A. Pirani, S. L. Connors, C. Péan, S. Berger, N. Caud, Y. Chen, L. Goldfarb, M. I. Gomis, M. Huang, K. Leitzell, E. Lonnoy, J. B. R. Matthews, T. K. Maycock, T. Waterfield, O. Yelekçi, R. Yu and B. Zhou (eds.)]. Cambridge University Press. In Press.