親潮が記録的なあたたかさ(親潮ウォッチ2015/9)

8月21日号解説では、今年の8月前半の日本の周辺の海面水温が非常に高かったことをお知らせしました。その後どうなったか見てみましょう。

図1は、JCOPE2のデータを用いて、今年8月29日段階の海面水温が平年(1993から2012年の20年平均)より高いか(赤っぽい色)、低いか(青っぽい色)、を見たものです。8月初旬(8月21日号、図1下段)は、日本の周辺のほぼ全海域が平年より温度が高かったのに対し、8月29日には、逆に平年より海面温度が低い所(青っぽい色)が多くなっています(※1)。これは、日本付近を台風が通過したり(図1の太線が台風14,15,16号の経路、※2)、8月後半に不順な天候が続き日射が少なかったりしたためです。

例外的に、平年よりも温度が高いまま(赤っぽい色)なのが、北海道南東の親潮域です(図1黒矢印)。これはなぜでしょうか?

5月22日号と、その後の解説で見てきたように、今年は春先から存在する暖水渦の影響で平年より水温が高い状態が続いてきました。これは海洋の深くまで達する現象のため、大気の状態が海面で少々変わったからといって、消えてしまうことはありません。さらに親潮の状態を詳しく見てみることにしましょう。

Fig2

図1: JCOPE2再解析による8月29日の海面温度の平年(1993年から2012年の平均)との差(ºC)。太線は台風の経路の推定値。台風経路の推定値(気象庁ベストトラックデータ)は国立情報学研究所の「デジタル台風」ら入手。

 

図2は、図1と同じ8月29日の水深100メートルでの水温(図左)と、その水温が平年より高いか、低いか、を見たものです(図右)。水深100メートルのデータを見るのは、天気に左右されにくく、海流の影響がより見やすいからです。親潮第一分枝第二分枝(図のO1とO2, 7月3日解説参照)に挟まれて、平年より温度の高い(赤っぽい色)、黒潮方面から流れてきた時計回りの渦(A)が存在します(図2左)。

今年のこの親潮域の温度の高さを数値化してみましょう。親潮から流れてきた冷たい水の指標として、水深100メートルの水温5度以下の水(図2左の青色)の広がりが使われることがあります(※3)。水温5度以下の水の面積(親潮面積)を図2左の点線の枠線内で計算して、時間変化をグラフにしたのが図3です。赤線が2014年から現在までの親潮面積です。今年2015年は、春から、平年の季節変化(黒細線)のはるか下、過去のデータの約68%がおさまると考えられる範囲(灰色の範囲, ※4)を超えてさらに小さい面積になっています。親潮面積が小さいということは、冷たい水(5度以下)の範囲が狭い、すなわち、親潮域があたたかいことを意味します。

親潮面積を8月で平均し、過去の年と比較すると(図4)、JCOPE2のデータが利用できる1993年以降、今年は断トツで最小です。今後の親潮域の様子が気になるところです。

 

Fig2

図2: JCOPE2による8月1日の水深100メートルでの解析値。矢印は流れ(メートル毎秒)、色と等値線は (左)温度、(右)温度の平年(1993年から2012年の平均)との差(ºC)。左図の点線の枠線は、図3,図4の計算に使用。

Fig3

図3: JCOPE2再解析データから計算した親潮面積の時系列(単位104 km2)。赤線が2014年から現在までの時系列。黒細線は平年(1993-2012年)の季節変化。灰色の範囲は平均からプラスマイナス標準偏差の範囲。

 

Fig4

図4: 親潮の8月平均面積の各年の比較。単位は104 km2


 

※1 8月21日号の解説で、8月前半の日本周辺の海面水温は第3位の記録の記録であるとお知らせしましたが、その後の温度低下で、8月全体では第8位まで順位を落としています。

※2 台風9,10,11号による海面水温低下については7月24日号「台風の通ってきた海」で解説しています。台風13,14,15,16号による海面水温低下についてはYouTube動画「Typhoon SOUDELOR, MOLAVE, GONI, ATSANI and Sea Surface Temeprature 」を参照してください。色が海面水温、等値線が海面気圧で、等値線が混んでいると所が台風の位置です。

※3 気象庁解説「親潮の数か月から十年規模の変動」および「親潮の面積の時系列」参照。

※4 図3の灰色は、平均(黒細線)からプラスマイナス標準偏差の範囲。ガウス分布を仮定した場合、過去のデータの約68%が含まれる範囲となる。


 

 

親潮に関する解説一覧はこちらです。
親潮の他の予測図についてはJCOPE のweb pageでご参照下さい。
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