2016年8月20日から9月24日の予測を検証します

毎月過去1カ月の予測を検証する予定です。今回は2016年8月26日号の、8月20日から9月24日までの予測を検証します。

図1上段は、8月20日から予測した9月24日の黒潮の状態です。8月20日の段階では、黒潮は八丈島の北を流れる接岸流路でした。8月26日号の予測のポイントは、黒潮流路が八丈島に近づく時期はあるものの、八丈島の南を流れる離岸流路にはならないだろういうことでした。9月24日は、黒潮が八丈島に近づくと予測しており(図1上段)、実際に黒潮が八丈島に近づいています(図1下段)。つまり、先月の予測は大筋で良く当たっていました。

8月26日号の予測のもう一つのポイントは、九州東岸でおおきな離岸(小蛇行)が発達するというものでした(図1上段)。実際には(図1下段)、九州南東で離岸がやや大きめになっているものの、予測(図1上段)ほどではありませんでした。8月の検証でも見られたように、予測に使っているモデルJCOPE2は九州東岸の離岸を過大に評価する傾向があるようです。現在、JCOPE2の改良版JCOPE2Mの開発を進めており、いまのところJCOPE2Mでは小蛇行の発達は予測されていません。予測システムはJCOPE2Mへの移行を予定しています。

9月24日の実際の様子については図2の「ひまわり8号」による海面水温画像(※1)も参照してください。

図3は2016年8月20日から9月24日までの予測値(上段)と実際(下段)の比較をアニメーションにしたものです。

図1: [上段]2016年8月20日から予測した9月24日の予測値。[下段]観測値を取り入れて推測した9月24日の解析値。矢印は海面近くの流れ(メートル毎秒)、色は海面高度(メートル)。赤は八丈島の位置。アルファベットu,x,..は接岸・離岸傾向の波(今週号の現状・予測参照)。

Fig2

図2: 「ひまわり8号」が観測した2016年9月24日の一日平均海面水温(°C)。JAXA提供の1時間データを合成した。白の空白は雲がかかって観測できなかった所。赤星()は八丈島の位置。

 


図3: 2016年8月20日から9月24日までの予測(上段)と実際(下段)の比較のアニメーション。クリックして操作してください。途中で停止もできます。

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八丈島付近の黒潮流路について、詳しく見てみましょう。過去の解説で(※2)、伊豆諸島付近の黒潮流路を判断するには、八丈島での海面高度(潮位)を見れば良いことを説明しました。流れの強い黒潮をはさんで、本州に近い方は海面高度が低い、逆の沖側では海面高度が高いという関係があるからです(図1参照)。このため、黒潮が本州に近づいて島の北を流れる接岸流路であれば、島周辺の海面高度は高くなります。逆に、黒潮が島の南を流れる離岸流路が発達すれば、島周辺の海面高度は低くなります。

図4は、JCOPE2で観測値を取り入れて再現した八丈島の海面高度(★による点線)と、その予測(青線、赤線)です。8月は八丈島の海面高度は高く(★による点線)、黒潮流路は接岸流路でした。

その後、八丈島の海面高度は低下して、黒潮が八丈島に近づいていることをしめしています。6月以前の離岸流路の時ほど低下はしていないので、まだ離岸流路にはなっていないとみられます。8月20日からの予測(青線)は、八丈島の海面高度が低下して、黒潮が八丈島に近づくことを予測できていました。

これからどう変化するでしょうか?予測は難しく、予測のたびに判断がわかれていますが、今週号の最新の予測(図4の赤線)では、八丈島の海面高度はいったん上昇し、黒潮が八丈島の北を通る接岸流路に戻ると予測しています。その後、八丈島の海面高度は上下し、黒潮流路は八丈島付近を南北に移動する複雑な変化をしそうです。

fig3

図4: JCOPE2による八丈島周辺の海面高度の予測の2016年6月1日からの時系列。青線が8月20日からの予測。赤線が9月24日からの予測。★による点線が観測値を取り入れて推測した現実に近いと考えられる値。

 

観測を確認してみましょう。図5は、過去の解説でも使用した、東京大学大気海洋研究所の「潮位データを用いた黒潮モニタリング」から、八丈島での海面高度(潮位)の今年の変化をグラフ作成したものです。図4で説明した通りの動きをしてますが、観測では9月24日以降も潮位は下がっているようです。このまま下がっていくのか、それとも予測通りに反転するのか、八丈島付近の黒潮流路の今後の変化に注目です。

図5: 東京大学大気海洋研究所「潮位データを用いた黒潮モニタリング」の「各潮位データの図示」から、「期間: 2016年までの 1年間」で、「八丈島」でグラフ作成。単位はセンチメートル。矢印と字で注釈を追記した。

図5: 東京大学大気海洋研究所「潮位データを用いた黒潮モニタリング」の「各潮位データの図示」から、「期間: 2016年までの 1年間」で、「八丈島」でグラフ作成。単位はセンチメートル。矢印と字で注釈を追記した。図5が1地点の観測値であるのに対し、図4の値はモデルの分解能の約9km四方の平均であり、0の値の基準点も違うので、図4と図5の値は完全には一致しません。上昇と下降の変化の傾向を主に見てください。

 


※1 「ひまわり8号」の海面水温については、2015/10/9号・気象衛星「ひまわり8号」で見た黒潮を参照。JAXA提供の「ひまわり8号」海面水温データは、2016年8月31日からバージョン1.2にバージョンアップしています。過去の「ひまわり8号」の水温データを使った解説一覧はこちら

※2 過去の八丈島水位の解説一覧はこちら