黒潮大蛇行はどれくらい前から予測できていたか?

黒潮大蛇行が発生した9月末の状況は、8月上旬からおおよそ予測していました。

はじめに

今は黒潮大蛇行と呼ばれる流れになっています。。黒潮大蛇行が発生するということは、どれくらい先から予測できていたでしょうか?

答えは、いつから黒潮大蛇行が始まったかと考えるかによっても変わります。

黒潮大蛇行が発生する可能性については、5月31日のAPLコラム「黒潮大蛇行は発生するか?」で早くも書き始めています。その後黒潮の流路の変化は、複雑な経緯をたどりました(「黒潮大蛇行2017の発生を振り返る」)。その間の予測の結果は、月末の予測検証記事や、解説「黒潮流路はどれくらい先まで予測できるのか」で検証しています。

ここでは、気象庁・海上保安庁が「黒潮が12年ぶりに大蛇行しているとみられる」と9月末に発表したことから[1]、9月末の黒潮の状況をどれくらい前から予測できていたかを見てみます。

9月末の状況

気象庁・海上保安庁は、9月末の段階で、
(1) 潮岬で黒潮が安定して離岸していること
(2) 東海沖(東経 136〜140 度)の黒潮の流軸(流れがもっとも強いところ)の最南下点が北緯 32 度より南に位置していること
の2つの基準を満たしたと判断し、黒潮が12年ぶりに大蛇行しているとみられると発表しました[1]

図1の一番下の図は、観測値を取り入れてJCOPE2Mで計算した、実際に近いと考えられる9月28日の海面の高さ(色)と黒潮の流軸(流れがもっとも強いところ[2]、黒線)です。和歌山県紀伊半島先端の潮岬で離岸して、蛇行がもっとも南下したところが北緯32度線(図の点線)よりも南に位置しており、黒潮が大蛇行していることがわかります。

この状況をどれくらい前から予測できていたでしょう?

 

図1: 1番下の図は、観測値を取り入れてJCOPE2Mで計算した、実際に近いと考えられる9月28日の海面の高さ(色)と黒潮の流軸(流れがもっとも強いところ、黒線)。点線は北緯32度線。海面が低いところは海面水温が低いというおおまかな関係があります。他の図は、それぞれの日付から9月28日を予測した結果。

予測の検証

JCOPE2Mは2ヶ月先の予測を週2回しています。そのため9月28日の予測は、7月24日から週2回の割合であります。図1は、それをすべて並べたものです。

図1の一番右下の図は、9月24日から9月28日を予測した結果です。4日間先の予測なので、もっとも簡単な予測です。図1の一番左上の図は7月24日から9月28日を予測した結果です。2ヶ月以上先の予測なので、もっとも難しい予測です。

図1を眺めると、8月上旬(8月3日から9月28日の予測; 左の上から2番目の図)から、潮岬での離岸と、北緯32度線よりも南に位置する大きな蛇行を予測し始めており、その後は一貫して予測できています。つまり8月上旬から黒潮大蛇行は予測できていたと言えそうです。

さらに条件を厳しくして、典型的な大蛇行の特徴である、「八丈島の北を通る」ということは予測できていたでしょうか?こちらも8月上旬から予測できていましたが、8月末から9月中旬からの9月28日の予測など、9月末の時点では八丈島の南を通ると予測して時期もありました。「八丈島の北を通る」という条件の予測は難しかったようです。とは言え、8月3日からの予測を使った8月9日号では、いったん八丈島の南に黒潮が流れる時期があったとしても、最終的には八丈島の北を流れると予測していました。その後の予測でも同様です。

以上のことを考えると、八丈島周辺での黒潮の位置に難しさはあったものの、8月上旬からおおよそ黒潮大蛇行の発生は予測できたようです[3]


黒潮大蛇行記事のまとめはこちら

  1. [1]黒潮が12年ぶりに大蛇行」(2017/9/29)
  2. [2]5月17日号で解説したように、海流には海面の高さの等値線が混んでいる(等値線の間隔が狭い)ところが流れが強いという性質があるので、その性質をつかって流軸を計算しています。
  3. [3]メディアで最初に黒潮大蛇行を報じたのは、私たちの予測について触れた2017/8/1放送・テレビ朝日「報道ステーション」でしょう。