「ちきゅう」のための海流予測3 (3)海底~大気の同時貫通観測

無事航海終了

地球深部探査船「ちきゅう」は順調に航海を終え、清水港に入港しています[1]前回からの続きの黒潮の様子は次回に見ることにして、今回は国際深海科学掘削計画(IODP)第380次研究航海の裏で実施された「海底~大気の同時貫通観測」について説明します。


「ちきゅう」公式twitterより


海底~大気の同時貫通観測

地球深部探査船「ちきゅう」は、その本来の任務のために、海洋上で長期に滞在します。時には、強い海流のため観測が難しい黒潮上や、強い風の中[2]でもです。ただでさえ海洋上の観測は少ないため、海洋と大気の研究者にとって、「ちきゅう」は海洋上の観測ステーションとして、とても魅力的です。海流のデータについては、「ちきゅう」のための海流予測の連載で書いてきている通りです。気象データについても、黒潮は大気に影響を与えることが知られており[3]、「ちきゅう」で大気の観測ができれば貴重なデータとなります。海流と大気の理解が進み、「ちきゅう」海流予測の精度を向上することができれば、「ちきゅう」の安全な運航にもメリットがあります。

また、「ちきゅう」が航海を実施した海域周辺には地震・津波観測監視システム(DONET)が展開されており、海底圧力計が設置されています。津波の早期検知を目的として置かれたものですが、地震に関係した海底地殻変動もとらえることができます。しかし、海底圧力計のデータは、その上を通る海流や気象の影響も受けることが精度良い分析を難しくしています。一方で、海流や気象の研究者にとっては、今までにない新しい観測データを入手するチャンスです。データをうまく使って海流などの動きを正確に求めることができれば、その変動成分を海底圧力計から取り除き、ゆっくり地震などによる微少な海底の動きをとらえられるようになります。双方の研究者にとってメリットになるだけでなく、海流と地震活動の関係など新しい科学が生まれるかもしれません。

私たちは、2016年8月の「ちきゅう」夏合宿での議論を経て、「海底~海面を貫通する海洋観測データの統合解析」と呼ぶ分野をまたいだ観測体制を築き、研究を進めています[4]。統合解析については、JAMSTECの情報誌であるBlue Earthの第28巻第3号の特集「JAMSETC発のイノベーション」中の記事「海底から海面を貫通する統合解析で 地震・海洋科学にパラダイムシフトを起こす」もご覧ください。

今回の「ちきゅう」の航海中には、

  • 気象センサーを使って、気象観測 (後述)
  • CTD(電気伝導度・水温・水深計)[5]を使って、水温と塩分が深さ方向にどのように変化しているかを観測
  • GNSS(全球測位衛星システム)[6]からの電波を使って、海面の高さの精密観測[7]や可降水量の観測[8]

を実施しています。図1は、海底~大気の同時貫通観測のイメージ図です。

Fig1

図1: 海底~大気の同時貫通観測のイメージ図。

気象観測

筆者(美山)もかかわっている気象観測について、もう少しくわしく説明します。今回の「ちきゅう」の航海のために、気象データを計測する装置を「ちきゅう」に取り付けました。ちきゅうの櫓(やぐら)の最上部・櫓の中間・レーダーマストの3カ所に設置しました(図2)。高さの違う場所で観測することで、気温や風や湿度の高さによる違いを観測することができます。高さによって違う観測値から、大気から海へ(逆に海から大気へ)、どのように熱や力や水蒸気が伝わっているかがわかることが期待されます。海上で「ちきゅう」のような高低差で長い期間の気象データが観測するのは例を見ない試みで、面白いデータが取れるでしょう[9]

Fig2

図2: 気象観測装置の設置点。

 

気象観測装置は図3のような構成になっています。気象センサーは、気温・気圧・湿度・風速・風向・降水量を観測します。観測装置は太陽光発電付きのバッテリーで動き、「ちきゅう」から電源をひっぱってくる必要はありません。取られた観測データは記録装置に記録され、観測後に取りに行くことになります。2月下旬にデータを取りに行く予定になっており、どのようなデータが取れているか楽しみです[10]

Fig3

図3: 櫓中間に設置された気象観測装置。気象センサー・データ記録装置・太陽光発電によるバッテリーで構成される。奥に見えているのは「ちきゅう」のヘリポート。

Fig2

櫓上部と、その奥に見える富士山

  1. [1]地球深部探査船「ちきゅう」による国際深海科学掘削計画(IODP)第380次研究航海「南海トラフ地震発生帯掘削計画:南海トラフ前縁断層帯における長期孔内観測システム設置」の終了について(2018/2/8 海洋研究開発機構プレスリリース)
  2. [2]「ちきゅう」のための海流予測2 (2)台風通過する参照。
  3. [3]例えば、「黒潮が爆弾低気圧を呼ぶ」。
  4. [4]科研費・挑戦的研究(萌芽)「ちきゅう」&DONETのトータル観測ステーション計画:海底~大気の同時貫通観測(代表:有吉 慶介)に採択されています。
  5. [5]海水を調べる」(JAMSTEC)
  6. [6]GNSSとは」(国土地理院)
  7. [7]「GNSS反射信号を用いた全地球常時観測が拓く新しい宇宙海洋科学」の成果について(pdf)
  8. [8]GNSS気象学」(gpsjpn.com)
  9. [9]「ちきゅう」の櫓の高さは海面から約120mです。
  10. [10]櫓最上部の観測装置だけ設置場所の不具合のために途中で観測が止まっていることがわかっていますが、途中までのデータは取れていると思われます。

美山 透
海の変化は、漁業海運エネルギー天候など様々なことに影響します。海洋予測がもっと身近なものになるように、頭をしぼって書いています。