最近の海洋熱波・寒波(2023/5) 台風への影響は?

最近の水温の状況

最近の日本周辺の海面の水温の状況を見てみます。

図1は、先月4月19日と今月5月25日の海面の水温の平年との差を見たものです[1]。平年より高い場所が赤っぽい色、低い場所では青っぽい色になっています。図2は、同じく水深100mの図です。水深100mでも海面と同じ変化が見られれば、水温の平年との差が天気だけでなく海流の影響を受けている可能性が高くなります。

黒潮大蛇行による冷水渦(A)を除き、日本周辺の多くの海域で平年より高い水温になっています。

特に暖水渦の影響を受けて親潮が弱まっている東北沖・北海道南東(C, D)や黒潮続流の北偏の影響を受けている海域(E)では、海面も海面下も平年よりかなり高い水温になっています(「黒潮の影響続く」(親潮ウォッチ2023/5)参照)。

日本海でも海面も海面下も平年より水温が高くなっています。

黒潮大蛇行の冷水渦(A)で平年よりかなり冷たい水が存在します(図1, 2) 。また、黒潮大蛇行の影響で黒潮が関東・東海沖近くを流れ、沿岸で平年より温度が高くなっています(図1,2 B)[2]

現在、台風2号が日本に近づいています。日本付近の高めの水温が台風にどのような影響があるかが心配されます(「研究者コラム“スーパー台風”台風2号と今後の見通し」参照)。海水温の影響は、台風が通る場所だけではなく、遠隔影響もあります(「台風強化に寄与する黒潮の遠隔影響を捉える!」参照)

今後の日本周辺の水温については、「季節ウォッチ」も参考にしてください。

 

Fig1

図1: 海面の温度の平年との差(℃)。[上段]2023年4月19日。[下段] 2023年5月25日。

Fig2

図2: 図1に同じ、ただし水深100m。

海洋熱波・海洋寒波

海洋熱波とは、数日から数年にわたり極端に海水温が上昇する現象です。その発生頻度は過去100年間で大幅に増加しており、海洋生態系に与える影響が危惧されています([プレスリリース] 北海道・東北沖で海洋熱波が頻発していることが明らかに)。

図3は、海洋熱波でよく用いられている基準[3]を使って日本周辺の海面での海洋熱波・寒波の発生状況を見たものです。同じく、図4は水深100mでの海洋熱波・寒波の発生状況です。

数字が1以上になっている所が統計的に10%以下しか発生しない高い温度である海洋熱波が発生している所です。数字が大きいほど強い海洋熱波であることをしめしています。図1,2(b)が平年よりどれだけ水温が高いのかを温度差でしめしているのに対し、図3,4はその中でもまれな温度変化をしめしています。

日本周辺の海面(図3)では、西日本周辺ではほとんど海洋熱波は見られませんが、北日本周辺では海洋熱波が発生している海域がおおくなっています。特に暖水渦の影響を受けた親潮域や北偏した黒潮続流の影響を受けた海域では厳しい海洋熱波になっています。

水深100m(図4)では、海面と同じ領域に加えて、日本南方でも海洋熱波になっています。黒潮大蛇行の冷水渦では極端な海洋寒波になっています。

Fig3

図3: 2023年5月25日における日本周辺水深1mの海洋熱波と海洋寒波の発生状況。

Fig3

図4: 図3に同じ、ただし水深100m。

 

  1. [1]この記事では、今年の値はJCOPE2Mを使っています。平年の値はJCOPE2M再解析の1993~2020年の平均を使っています。JCOPE2M再解析データは学術研究利用では無償で公開しています。
  2. [2]黒潮大蛇行で夏の関東蒸し暑く」(杉本周作、新学術研究領域・気候系のHOTSPOT2研究成果紹介)
  3. [3]JCOPE2Mの1993~2020年のデータを使い、統計的に10%以下(90パーセンタイル)の高温が5日以上続いた場合に海洋熱波としています。平年との差が海洋熱波の基準(90%タイルと気候平均の差)の2倍以上である場合は2,3倍以上である場合は3とカテゴリー化しています。逆に統計的に10%以下(10パーセンタイル)の低温が5日以上続いた場合には海洋寒波としています。