最近の海洋熱波・寒波(2023/8) 北日本の高水温、台風の影響

  1. 最近の水温の状況

最近の日本周辺の海面の水温の状況を見てみます。

図1は、先月7月20日と今月8月25日の海面の水温の平年との差を見たものです[1]。平年より高い場所が赤っぽい色、低い場所では青っぽい色になっています。図2は、同じく水深100mの図です。水深100mでも海面と同じ変化が見られれば、水温の平年との差が天気だけでなく海流の影響を受けている可能性が高くなります。

北日本の周辺で海面(図1)が平年より高い水温になっています。これは海流の影響(海面下図2の水温が高いことが示唆)と、高気圧による好天候が続いていることが原因です。

特に黒潮続流の北偏の影響を受けている海域では、海面も海面下も平年よりかなり高い水温になっています(「黒潮続流の北上は解消されるか?」(親潮ウォッチ2023/8)参照)。気象庁は黒潮続流の北上のために三陸沖の海洋内部の水温が記録的に高くなっていることを発表しています[2] 。気象庁は北日本の今夏の顕著な高気温には周辺海域での海水温の顕著な高温状態が影響した可能性もあると指摘しています[3]

海面下(図2)では、黒潮大蛇行の冷水渦で平年よりかなり冷たい水が存在します 。また、黒潮大蛇行の影響で黒潮が関東・東海沖近くを流れ、沿岸で平年より温度が高くなっています[4]

今後の日本周辺の水温については、「季節ウォッチ」も参考にしてください。

Fig1

図1: 海面の温度の平年との差(℃)。[上段]2023年7月20日。 [下段] 2023年8月25日。

Fig2

図2: 図1に同じ、ただし水深100m。

 

台風6号・7号・10号による水温変化

図4は、7月30日から8月29日までの海面水温と海流の推移です。特に台風6号・7号・10号の影響を受けています。

台風6号により、琉球諸島周辺の海面水温が低下しました。その後、高い水温が回復しています。

その後、台風7号の通過海域で水温の低下が見られました。台風7号の水温低下の影響はまだ残っています。

台風10号は東北太平洋沖を通過しました。深い所まで水温が高いため、水温低下は限定的でした[5]


図3: JCOPE-T DAによる2023年7月30日午前9時から8月29日午前9時までの解析値(日本時間)。ベクトル(矢印)は流れの向きの速さ(メートル毎秒)、カラーは海面水温(°C) 。黒線は台風6号、赤線は台風7号、青線は台風10号の経路。台風経路はデジタル台風から入手し、3時間間隔のデータを1時間間隔に線形補間した。

海洋熱波・海洋寒波

海洋熱波とは、数日以上極端に海水温が上昇する現象です。その発生頻度は過去100年間で大幅に増加しており、海洋生態系に与える影響が危惧されています([プレスリリース] 北海道・東北沖で海洋熱波が頻発していることが明らかに)。

図4は、海洋熱波でよく用いられている基準[6]を使って日本周辺の海面での海洋熱波・寒波の発生状況を見たものです。同じく、図5は水深100mでの海洋熱波・寒波の発生状況です。

数字が1以上になっている所が統計的に10%以下しか発生しない高い温度である海洋熱波が発生している所です。数字が大きいほど強い海洋熱波であることをしめしています。図1,2(b)が平年よりどれだけ水温が高いのかを温度差でしめしているのに対し、図4,5はその中でもまれな温度変化をしめしています。

海面(図4)では北日本周辺で海洋熱波になっています 。特に太平洋側は強い海洋熱波になっています。2021年は海洋熱波の後に、北海道東海域において赤潮発生しており[7] 、今後に注意する必要があります。

水深100m(図5)では、東北太平洋沖に加えて、東海沿岸で海洋熱波になっています。日本黒潮大蛇行の冷水渦では極端な海洋寒波になっています。

Fig3

図4: 2023年8月25日における日本周辺水深1mの海洋熱波と海洋寒波の発生状況。

 

Fig4

図5: 図3に同じ、ただし水深100m。

  1. [1]この記事では、今年の値はJCOPE2Mを使っています。平年の値はJCOPE2M再解析の1993~2020年の平均を使っています。JCOPE2M再解析データは学術研究利用では無償で公開しています。
  2. [2]三陸沖の海洋内部の水温が記録的に高くなっています」(気象庁、2023年8月9日)
  3. [3]令和5年梅雨期の大雨事例と7月後半以降の顕著な高温の特徴と要因について ~異常気象分析検討会の分析結果の概要~」(気象庁、2023年8月28日)
  4. [4]黒潮大蛇行で夏の関東蒸し暑く」(杉本周作、新学術研究領域・気候系のHOTSPOT2研究成果紹介)
  5. [5]台風の通過が速いことも影響していると考えられます。
  6. [6]JCOPE2Mの1993~2020年のデータを使い、統計的に10%以下(90パーセンタイル)の高温が5日以上続いた場合に海洋熱波としています。平年との差が海洋熱波の基準(90%タイルと気候平均の差)の2倍以上である場合は2,3倍以上である場合は3とカテゴリー化しています。逆に統計的に10%以下(10パーセンタイル)の低温が5日以上続いた場合には海洋寒波としています。
  7. [7]道東海域における赤潮発生メカニズムと考えうる防除対策」 (山口篤, Onean Newsletter 2022),