親潮の勢力は引き続き弱い (親潮ウォッチ2017/12)

親潮の勢力は引き続き弱い状態です(親潮の面積が小さい)。

全体的な状況

まず、日本周辺の水温状況を見てみましょう。図1は、2017年11月7日と、2017年12月7日の、海面水温の平年との差を見たものです[1]。平年は1993から2012年の20年間の平均で、それより高い場所が赤っぽい色、低い場所では青っぽい色になっています。

11月は日本海が平年よりかなり高い状態でした(図1上段D)。これについては2017/11/17号「対馬暖流が強く大雪?(2) 2017年晩秋」で解説しています。12月になると(図1下段D)、11月よりは平年より水温が高い場所が少なくなっています。

関東から東海沿岸にかけて海面水温が平年より高くなっています(図1上下段B)。黒潮大蛇行が現在発生しており(黒潮予測記事参照)、それにともなう冷水渦(C)の北側では、東から西へ沿岸沿いに黒潮から暖水が流入しているためです。黒潮大蛇行時の東海沿岸への暖水進入については2017/9/13号「黒潮大蛇行で浸水被害?」で解説しています。

親潮周辺海域では、平年より高い海域が見られます(図1上下段A)。以下で詳しく見ていきます。

Fig1

図1: 海面温度の平年との差(℃)。[上段]2017年11月7日。[下段] 2017年12月7日。

 

親潮の様子(海面)

親潮周辺の様子を詳しく見てみます。図2左は、図1下段を親潮域で拡大した図です。周辺で全体的に平年より冷たくなっていますが、aやbの海域などでは平年より高くなっています。周辺が冷たい中で水温が高いのは海流(暖水渦)の影響だと考えられます。図2右は、対応する海面温度そのもの(色)と、流れ(矢印)です。aやbの位置に時計回りの暖水渦が見られます。

Fig2

図2: [左図] 2017年12月7日の親潮周辺の海面温度の平年との差(℃)。[右図] 同じく2017年12月7日の海面水温(色、℃)と流速(矢印)。

親潮の様子(海面下)

海流の様子をより良くみるために、天気の影響を受けにくい海面下の水深100メートルの様子を見てみましょう(図3左図)。昨年の状況とも比べます(図3右)。昨年は、暖水渦(図3右、c)の存在で親潮が弱い状態でした(親潮ウォッチ2016/12)。今年も少し位置は違いますが、暖水渦(図3左、a,b)が存在しています。

図3で興味深いことは、今年(図3左)の12月7日の黒潮続流は、昨年(図3右)に比べて、比較的まっすぐに西から東に流れていることです。黒潮大蛇行の安定の条件の一つとして、黒潮続流が安定する(比較的まっすぐに西から東に流れる)ということがあり(APLコラム「黒潮大蛇行が12年ぶりに発生 —最新の理論で確かめてみると—」の図6の条件)、注目されます。

Fig3

図3: 水深100メートルでの水温(色、℃)と流速(矢印)。親潮勢力の指標として水温5度に赤細線で等値線。青枠は図6の計算に使用。[左図]今年の12月7日。暖水の動きを説明するために、ピンクの太い矢印を記入。[右図] 先月の12月7日。

10月16日からの予測

図4は、JCOPE2Mで12月7日から予測した12月20日の親潮域の水深100mの水温(左図)と、平年の水温([2]、右図)を比較しています。水温5度の等値線が親潮の勢力の指標になっています。図4右の暖水渦aが存在し、親潮が南下しにくいという予測になっています。

図5は、図4に対応する12月7日から2018年2月8日までの予測をアニメーションにしたものです。渦の動きの予測は難しいので、今後予測が変わる可能性があります。最新の予測は週2回更新されるJCOPE のサイトでチェックしてください。

Fig4

図4: JCOPE2Mで2017年12月7日から予測した12月20日の親潮域の水深100mでの水温(左図)と流速(矢印)、平年の水温(右図)の比較。親潮勢力の指標として水温5度に赤細線で等値線。青枠は図6の計算に使用。

 


図5: 親潮域の水深100mでの2017年12月7日から2018年2月8日までの水温のJCOPE2Mによる予測(左図)と、平年の水温(右図)の比較のアニメーション。親潮勢力の指標として水温5度に赤細線で等値線。青枠は図6の計算に使用。クリックして操作してください。途中で停止もできます。

親潮面積

JCOPE2Mによる推定によれば(図6青太線)、親潮の勢力の指標である親潮面積(図3の青枠での水深100メートルの水温5度以下の水の広がり)[3]は、暖水渦のため平年より(黒細線)、小さな値になっています。2017年を通して見ると春から夏頃はいったん暖水渦が解消し平年並みか平年より大きな親潮の面積でしたが、秋以降は暖水渦の影響で親潮の面積は小さくなっています。

予測(黄点線)では、小さい値が続きそうです。

Fig6

図6: 親潮面積の時系列(単位104 km2)。赤線が2016年1月から現在までのJCOPE2再解析から計算した時系列。黒細線は平年(1993-2012年)の季節変化。灰色の範囲は平均からプラスマイナス標準偏差の範囲。2016年10月からは、JCOPE2再解析の代わりに、新モデルであるJCOPE2Mによる値(青実線)を使用。黄点線は2017年12月7日からのJCOPE2Mによる予測。

 

  1. [1]この記事では、今年の値はJCOPE2Mを、昨年や平年の値はJCOPE2再解析を使用しています。
  2. [2]1993から2012年の平均。
  3. [3]親潮面積については、「親潮が記録的なあたたかさ(親潮ウォッチ2015/9)」で解説しています。

oyashio-mini2

黒潮親潮ウォッチでは、親潮の現状について月に一回程度お知らせします。親潮に関する解説一覧はこちらです。 JCOPE-T-DAによる短期予測はJAXAのサイトで見ることができます。 4日毎に更新されるJCOPE2Mによる親潮の長期解析・予測図はJCOPE のweb pageで見られます。親潮関係の図の見方は2017年1月18日号2017年2月1日号で解説しています。