Chikyu Report
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ちきゅうTV第17話 前編(テキスト版)2012年07月25日

下北八戸沖石炭層生命圏掘削プロジェクトについて共同首席研究者の稲垣史生上席研究員にインタビューした「ちきゅうTV」第17話のテキスト版をお届けします。

JAMSTEC presents Discover the Future 「ちきゅうTV」へようこそ。ナビゲーターのサッシャです。

さて、突然ですが、海洋底の地下に膨大な微生物が存在している、という話を聞いたことがありますでしょうか。実は、最近の研究によって、海底下に広がっている生命圏の生物量というのは、われわれ人間や植物を含む地球上のすべての生命体の炭素量のおよそ10%を占める、と言われる、地球最大の生命圏ではないかと考えられるようになってきました。

さらに、天然ガスやメタンハイドレートなどの炭素資源には、海底深くの生命活動が深く関わっていて、その生命体が地球環境を理解するための重要なカギになるかもしれない、ということなのですが、ではいったい、どんな生き物がいて、どんな活動をしているのでしょうか。

今回、「ちきゅう」は、地球深部の炭素エネルギーや生命活動の実態解明に挑むため、新たな研究航海に挑戦します。

実は、当初この研究航海は、2011年3月15日から実施される予定でした。しかし、東日本大震災の発生によって延期せざるを得ませんでした。そこで今回の「ちきゅうTV」では昨年の初めに収録しました共同首席研究者との対談の模様をお届けしたいと思います。

キーワードは「アーキア」。

それでは「ちきゅうTV」スタートです。



(2011年3月収録)

ナビゲーターのサッシャ:ということでJAMSTEC横浜研究所にやってまいりました。今回の研究航海の共同首席研究者、稲垣史生さんにお話を伺いたいと思います。

それでは稲垣さん、どうぞよろしくお願いいたします。

稲垣史生:お願いします。

稲垣さんは普段はどういった研究をなさっているのですか。

私はいま、高知コア研究所という海洋研究開発機構(JAMSTEC)の中の一つのブランチで研究しているんですけれど、「地球微生物学」というのをやっていまして、単に微生物学だけじゃなくて、地球化学とか、もしくは環境工学などの応用も織り交ぜたような、非常に複合的な分野の研究をしています。

つまり、地球の中に微生物がたくさんいるんだけれど、どこにどれだけの量がいて、それを非常に大きな目で見て時に、気候とか炭素とか窒素とかの物質循環に、どういう影響を与えているのか、そういうことに興味が出てきたんですね。

それで、地球微生物学という、少し複合的な、システマティックな学問を目指して研究をしています。




今回の研究航海のきっかけは?なぜその研究室の外に飛び出ることになったのですか。

そうですね、やはり実際にモノを分析するために、確かに掘っていただいて、それを持ってきて、実験室で「じゃあ、はじめましょう」ということもおそらくできると思うんですね。

ただし、掘削する現場に行ってですね、生ものを適切に処理するというのが最も大事です。

地球の中にも生きた微生物たちがたくさんいる。海底のさらに下にいる。つまり、それは「生もの」で現場で生きているわけですよね。その世界から、一気に掘削をして、我々が住む地表の世界にサンプルがさらされた時に、適切に処理しないと、「生きている」という生命シグナルを捉えることができないんですね。

今回は、八戸、青森に行くわけですよね。なぜ八戸沖なのですか?どういった場所なんでしょう。

八戸沖というのは非常にユニークな場所で、海底下の深いところに、昔は陸だった地層があって、そこに石炭層がある。その上に、海だった地層がある。そこには天然ガスがあるわけですね。さらにその上に、すごく速い堆積速度で積もった若い堆積物があるんですね。この中にはメタンハイドレートがある。こういう、非常にダイナミックなシステムがあって、大陸縁辺の地質がどういう風にできているのかというのを調べる上でも重要だし、「進化」という観点からも非常に重要なんです。

ここまで微生物の話が全く出てこなかったんですが(笑)、この中にどういった生命がどの辺に居たりというのは、もう予想がついているのでしょうか。

2006年にですね、「ちきゅう」は慣熟訓練航海をこの場所で実施していまして、海底下から365メートルまでのコア(柱状の地質試料)を採取しています。その中には、実は海底下の微生物の平均と比べると100倍から1000倍もの微生物がいたんです。




そんなにいるんですか?人口密度というか、微生物密度が高いわけですね。

密度が非常に高いわけです。なんでそんなにいっぱいいるんだろう?というのが不思議ですよね。そこが僕の、我々が知りたい一つの大きな科学目標です。

なんでそんなにいるのかわからないですか?

わからないんです。

でも仮説はあります。海底下深くに石炭層が埋まっていますね。それが熱によって分解して、さらに微生物によっても分解して、いろんなエネルギーが出てくる。

それはジワジワと上がってきて、それをゴハンにして微生物が食べているのではないかと。海底下にゴハンがないと、つまりエネルギーがないと、微生物のポピュレーション、人口密度は小さくなる。

ところが下北八戸沖の海底にはですね、海底下にすごくたくさんのご馳走がある。フードソースがある。それが石炭層じゃないかと考えています。

なるほど。そこで、稲垣さん。その海底下にいる微生物というのは、いったいどんな生命体なのですか。

海底下にはですね。実は「アーキア」という、なんだかよくわからない微生物がたくさんいる、ということが言われています。

ひとくちメモ:
アーキア(古細菌):地球上のあらゆく生命体は、ユーカリア(真核生物)・バクテリア(真正細菌)・アーキア(古細菌)の三つのドメインに分類される。人間などの動物や植物はユーカリアに、微生物の多くはバクテリアとアーキアに属している。


海底下から採ってきたコア試料には、アーキアがすごくたくさんいたということが分かってきて、われわれは、海底下は「アーキア・ワールド」じゃないかって、いま考えているんですね。



ところが、そのアーキア。実は何をやっているか、よくわからないものばかりなんですね。

その中のいくつかは、「メタン菌」。つまり、二酸化炭素を使ってメタンを作る、つまり天然ガスを作る微生物というのもアーキアの一つなんですね。

へー、そんなのもいるんだ。

メタン菌だけじゃないんですが、いろんなアーキアがいて、地球の炭素循環の中で非常に重要な役割をしているんじゃないかと僕らは考えているんです。

[ 後編につづく ]

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