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研究者コラム

光海底ケーブルを用いたDAS技術による伊豆諸島海域火山の監視

記事

中野 優 グループリーダー代理、海域地震火山部門 火山・地球内部研究センター

海域火山の監視には海底での地震観測が重要ですが、リアルタイムでの観測は簡単ではありません。我々は光ファイバケーブルを使ったDASという技術を使う事で、伊豆諸島火山の活動モニタシステムの構築を目指しています。

JAMSTECと東京都は伊豆諸島における海底光ファイバケーブルによる伊豆諸島火山のリアルタイム観測に向けた取り組みを協力して進めています。火山活動が活発化すると、マグマや熱水流体の移動などによって地震が発生することが知られており、火山性の地震は火山活動を監視・評価する重要な指標の一つとしてモニタされています。しかし、火山性地震が起きる範囲は火山の直下だけとは限りません。離島火山は火山体の大部分が海面下に沈んでおり、その活動の監視には海底下でのリアルタイム観測システムの構築が不可欠です。そこで、分布型音響センシング(DAS)技術を東京都が保有する海底光ファイバケーブルに適用し、海底地震観測網を構築、さらに伊豆諸島の火山を監視するシステムの構築を目指しています(参考:プレスリリース「伊豆諸島における海底光ファイバケーブルによる海底火山の試験観測実施について」)。

海域火山のリアルタイム監視

火山国である日本では、現在(2024年)111の火山が活火山としてその火山活動が監視されています。日本は本土だけでなく離島や海底の火山も多く、海域における火山活動の監視も極めて重要です。東京都の伊豆小笠原諸島には、噴火が懸念される離島や海底の火山が数多く存在し、その中でも伊豆大島と三宅島は住民の数が多いため、火山活動の監視が不可欠です。これらの島々では気象庁や防災科学技術研究所、東京都らによって火山活動の監視が行われています。伊豆大島、三宅島では近年20~30年おきに大きな噴火を起こしており、伊豆大島は1986年に、三宅島では2000年に大きな噴火が起き、住民が全島避難する事態となりました。伊豆大島、三宅島の他にも、伊豆諸島の利島、新島、神津島、そして御蔵島も火山によって形成されました。これらの島々では歴史時代には何度か噴火をしたことが分かっていますが、近年はあまり活発な活動は観測されていません。

先に述べたように、火山活動の活発化に伴い地震が発生することが知られており、火山活動を監視・評価する重要な指標の一つとしてモニタされていますが、その範囲は火山の直下だけとは限りません。2000年の三宅島噴火の際には新島-神津島-三宅島周辺の海域で群発地震活動が起き、火山活動との関連が示唆されています(図1)。新島近海でも時々地震活動が活発化することが知られています。このように、伊豆諸島の火山に関連する地震活動は陸上に見られる火山の下だけでなく、海域にも広がっています。これらすべてが火山活動に起因するとは限りませんが、伊豆諸島全域にわたって海域も含めた地震活動をモニタすることが、火山活動を把握するうえで重要となります。

図1伊豆諸島の地震の分布(気象庁の地震カタログのうち、2000年~2022年に起きたマグニチュード(M) 2以上、深さ33km以浅)。赤と紫の線は東京都の光海底ケーブルの位置を示す。赤線はDAS観測に使用する区間。

しかし、海底での地震観測は容易ではありません。

海底で地震観測を行う方法として、最もポピュラーなのは自己浮上式の海底地震計を用いる方法です。この方式は、耐圧容器に地震計をセットし、船を使って海底に設置する方法です。機動的に海底に地震計が設置できますが、浮上させて回収するまで、観測されたデータを見ることができません。もう一つの主要な方法が、ケーブル式海底地震計ネットワークを構築する事です。これは巨大地震の発生が懸念されている南海トラフや日本海溝で構築、運用され、DONET, S-net, N-netなどがそれにあたります。これらはリアルタイムで海底での地震観測データを得ることができますが、構築には多くの費用が必要となります。

そこで我々は、DASという技術を活用する事にしました。これは、光ファイバケーブルを地震計として使う技術で、これを使うと安価でリアルタイムの海底地震観測網の構築が可能となります。

DASとは

DASとは分布型音響センシング(distributed acoustic sensing)の略で、光ファイバケーブルを地震計として使う事ができ、近年地震や地殻の動きを観測するための応用が進んでいます(図2、参考:JAMSTEC BASE「DAS技術による海底光ケーブルを用いた津波の観測」 )。

光ファイバケーブルにレーザー光を入射すると、光ファイバは非常に透明度が高いためにレーザー光の殆どは通り抜けていきます。しかし、光ファイバケーブルにはごくわずかに不均質があるため、レーリー散乱によって光が散乱されます。レーリー散乱とは空が青く見える原理として知られています。散乱した光の一部は光ファイバケーブルを元の方向に戻っていきますが、光ファイバケーブルが地震による振動などによってごくわずかにひずみ、長さが変化すると、散乱して戻ってきた光の到達時刻が早くなったり遅くなったりします。この時刻の“ずれ”を連続的に測定することで、光ファイバケーブルの伸び縮みの時間変化、すなわちケーブルに沿った地面の振動を測定することができます。すなわち、光ファイバケーブルを地震計として利用することができるのです。光ファイバケーブルから戻ってきた光を利用するため、測定器は光ファイバケーブルの片側だけに接続すれば測定を行う事が出来ます。

この技術では現在、光ファイバケーブルに沿って最大約120km程度までの距離の振動を、数mの間隔で測定することができます。既設の通信用の光ファイバケーブルを用いることで、とても安価に高密度な地震観測を行う事ができます。観測は、陸上の光ケーブル局舎に測器を設置して行うので、海底地震計などと比べるとその手間やコストは格段に少なくなります。既に敷設された光ケーブルを利用するため、必ずしも地震観測にベストな場所で測定ができるとは限りませんが、海底に敷設された光ファイバケーブルにこの技術を適用すれば、海底でのリアルタイム地震観測をとても低いコストで実現できます。

JAMSTECではこれまでに、室戸沖の海底光ファイバケーブルなどを用いてDASによる地震観測技術の開発を進めてきました。火山への適用例としては、2021年には鹿児島県の鬼界カルデラの近くに敷設された海底光ファイバケーブルを用いた観測を行い、火山性地震の観測にも成功しています(参考:JAMSTEC BASE「“噴火の予兆”はつかめるか! 海底火山の揺れを検知する観測技術の驚きの「実力」~注目のDASとは何か~」 )

図2 DASによる地震観測の概念図

伊豆諸島火山の監視

JAMSTECでは、これまでに培ったDAS観測技術を活かし、東京都と協力して伊豆諸島における海底光ファイバケーブルによる伊豆諸島火山のリアルタイム観測に向けた取り組みを進めています。ここで利用する、伊豆諸島の島々を繋ぐ海底光ファイバケーブルは、周辺の地震活動域の大部分をカバーしています(図1)。

我々はまず、観測システムの実現性を評価するために、2023年度に伊豆大島および三宅島に測器を設置して約2週間の観測による性能評価を行いました。海底光ファイバケーブルによる地震観測において、光ファイバケーブルの敷設状況など不明な点が多い事から、十分な精度での観測ができるかを知るためには実際に装置を導入して観測を試行する必要があります。例えば波浪等によるノイズレベルが高いと十分な精度で地震記録が得られない可能性があります。

性能評価の結果、DASによる地震観測記録は良好で、観測期間中には気象庁の地震カタログに掲載された伊豆諸島近海を含む約130個の地震を検知しました(図3)。また、気象庁の地震カタログに掲載の無い地震も約50個観測されました。図4に気象庁の地震カタログに掲載の無い地震の記録例を示します。光ファイバケーブルの一部区間でしか振動が記録されていないことから、この地震は光海底ケーブルの近隣の海底下で起きたものであると推定されます。この地震の場合は伊豆大島からの光ファイバケーブルに沿った距離が40~50 km付近での到達時刻が早いため、利島や新島の近海で起きた地震であると思われます。

このような気象庁の地震カタログに掲載の無い地震は、地震の規模が小さかったために島嶼部の陸上における観測網では十分に検知が出来なかったと思われます。このような地震が短い観測期間中に約50個も検知されたことは、光海底ケーブルを用いたDAS観測が伊豆諸島の海域における地震検知能力を増強するために効果的であり、ひいては火山活動の監視能力向上に有効であることを示しています。 この性能評価によって、DASによる海底地震観測が有効であることが示された一方、定常的な観測システムを構築するために解決すべき課題もいくつか浮上しました。今後より長期的な観測を行うことで、定常的な観測に必要なシステムの構築、課題の洗い出しと解決策の検討等を行っていきます。

図3. 観測期間中に地震動を記録した地震の分布(気象庁の地震カタログに該当するものがあった地震)。
図4 気象庁の地震カタログに該当の無い地震の記録の例。図では縦方向に伊豆大島からの光ケーブルに沿った距離を取り、その距離で観測された地震動を横方向に、地震動の強さを色で表しています(青は弱く、赤くなるほど振動が強い)。