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研究者コラム

今年は北西太平洋で台風が不活発か?

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付加価値情報創生部門 アプリケーションラボ

台風1号の発生が平年より遅れており、現時点で遅い発生記録の7位以内が確定しています(気象庁データ)。今年の夏は、北西太平洋で台風活動は不活発なのでしょうか?

アプリケーションラボの予測システムでは、今夏、負のインド洋ダイポールモード現象の発生が予測されていることを先月報告しました(2025年4月17日既報)。最新の観測データを用いて、再度スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を使って、計算したところ、今月の予測でも、引き続き負のインド洋ダイポールモード現象の発生が予測されています(SINTEX-Fウェブサイト)。世界中の多くの予測システムでも、同様の予測が示されています(韓国APEC Climate Center, 豪州BoM)。

負のインド洋ダイポールモード現象が日本を含む東アジアの夏にどのような影響を与えるかはまだ十分に解明されてはいませんが、アプリケーションラボの研究により、北西太平洋における台風の季節予測には、インド洋ダイポールモード現象の寄与が重要であることが示されました(2025年4月3日プレスリリース「沖縄・台湾付近で、夏に熱帯低気圧が増えるかを数ヶ月前から予測可能に! ―インド洋ダイポールモード現象の予測が鍵―」)。その研究で使った予測システムを使って、今年の夏の熱帯低気圧の存在頻度(注1)を予測したところ、日本の南にあたる北西太平洋では、熱帯低気圧の活動が平年よりも減りそうであることが予測されました(図1上)。また、アプリケーションラボで開発している別の大気海洋結合モデルCFES(注2)を使った季節予測システムでも同様の予測がなされています(図1下)。予測が難しい熱帯低気圧の活動度の季節予測精度を向上させ、予測の不確実性まで含んだ情報を提供するためには、特性の異なる複数の数値モデルにより予測を行うマルチモデル予測が有効であることが知られています。

熱帯低気圧の存在頻度が減ると、熱帯低気圧による海のかき混ぜ冷却効果が弱まり、夏の間、高水温が持続しやすく、サンゴの大規模白化等の影響が起こることが懸念されます。

図1: 5月初旬時点で、予測した夏(6-8月)の熱帯低気圧(台風を含む)の存在頻度(注1)の予測。寒(暖)色が平年より存在頻度が減る(増える)ことを示している。上がSINTEX-Fモデルの結果で、下がCFESモデルでの結果。両者とも、日本の南、北西太平洋で熱帯低気圧の活動度が低いことを予測している。

注1: 水平5度格子に、6時間毎に熱帯低気圧が存在している頻度(個数)を6-8月間で積算した値。ここでは熱帯低気圧の活動が活発かどうかの指標として使った。

注2: 大気海洋結合モデルCFES (Coupled atmosphere–ocean GCM for the Earth Simulator; Komori et al., 2008) を用い、海面水温を観測値へ強く緩和して初期値化を行う実験的季節予測システムCFES ESPreSSO (Experimental Seasonal Prediction System using Surface Observation) 。雲の取り扱い(積雲対流スキーム)を改良する事で(詳細はBaba, Y., 2019)、CFESでの台風の再現性が向上された。詳細はOgata et al. 2025を参照。

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