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研究者コラム

予測通り、負のインド洋ダイポールモード現象が発生!

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付加価値情報創生部門 アプリケーションラボ

※このコラムは、2025年4月17日に掲載した研究者コラムの続編です。

スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を使ったアプリケーションラボ季節予測システムでは、今夏、負のインド洋ダイポールモード現象(※1)が発生すると予測していました(2025年4月17日既報)。最新の観測データにより、実際に、負のインド洋ダイポールモード現象が発生したことが確認されました(図1)。最新の予測によると、この負のインド洋ダイポールモード現象が、今後更に発達し、秋に最盛期を迎えそうです(SINTEX-Fウェブサイト)。世界中の多くの予測システムでも、同様の予測が示されています(米国NMME,韓国APEC Climate Center, 豪州BoM)。
負のインド洋ダイポールモード現象は、東アフリカで干ばつ(図2)を、インドネシアでは洪水を引き起こしやすくします。実際に、負のダイポールモード現象が発生した2016、2020、2021、2022年などは、東アフリカの多くの地域が深刻な干ばつに見舞われ、食料や飲み水の安全が著しく脅かされました。最近のインドネシア・バリ島の豪雨・洪水にも、負のインド洋ダイポールモード現象が関係したのかもしれません。今後の負のインド洋ダイポールモード現象の動向に注意していく必要があります(※2日本への影響は?)。
アプリケーションラボのSINTEX-F予測シミュレーションの結果は毎月更新されます。最新情報は、SINTEX-FのHP季節ウォッチAPL Virtualearthなどをご参照ください。

図1: インド洋ダイポールモード現象の指数DMI(インド洋熱帯域の海面水温異常の東西差を示す数値で単位は°C)について。-0.5ºCを下回れば、負のダイポールモード現象が発生していると考えられる。黒い線が観測で、2025年4月1日時点で予測したのが赤い線(アンサンブル平均値)。2025年9月1日時点で予測したのが他の色の線。SINTEX-F2と呼ばれる気候モデルを用いて、海面・海中の観測データを初期値に取り込み、初期値作成方法やモデルの設定を様々な方法で少しずつ変えて、スーパーコンピュータで24通りの予測実験を行った(アンサンサンブル予測と呼ぶ、紫色の線:アンサンブル平均値、水色や緑の線: 各アンサンブルメンバー)。観測値が8月になって-0.5ºCを超えて下がっており、負のインド洋ダイポールモード現象が発生したことがわかる。

図2 2025年9月1日時点で、SINTEX-F季節予測システムで予測した2025年10-12月で平均した降水量の異常値(平年値からのズレ)で、アンサンブル平均値を示す。単位はmm/日。緑色は平年より雨が多く、茶色が平年より雨が少ないことを示す。東アフリカでは茶色の地域が多く、雨が少なくなることを予測している。東アフリカの降水量の指標(EAR)は、黒い線のボックスで領域平均した値。SINTEX-F季節予測システムで予測したEAR値は、-0.087mm/日。SINTEX-F季節予測システムと統計モデルを組み合わせたハイブリットなアプローチで予測したEAR値は、-0.701 mm/日。これは過去最大規模ではないが、7年に1回程度の頻度で発生する規模の干ばつが起こると予測していることになる。詳しくは、プレスリリース「 東アフリカの極端な干ばつを数ヶ月前から予測可能に!―負のインド洋ダイポールモード現象の予測が鍵―)。

※1負のインド洋ダイポールモード現象
負のダイポールモード現象が発生すると、熱帯インド洋の南東部で海面水温が平年より高く、西部で海面水温が低くなります。この水温変動によって、通常時でも東インド洋熱帯域で活発な対流活動が、さらに活発となり、インドネシアなどでは大雨・洪水の被害が甚大化します。動画付きの詳しい解説はここで参照できます。

※2負のインド洋ダイポールモード現象の日本への影響
負のインド洋ダイポールモード現象が日本を含む東アジアの夏にどのような影響を与えるかはまだ十分に解明されてはいませんが、アプリケーションラボの研究により、北西太平洋における台風の季節予測には、インド洋ダイポールモード現象の寄与が重要であることが示されました(2025年4月3日プレスリリース「沖縄・台湾付近で、夏に熱帯低気圧が増えるかを数ヶ月前から予測可能に! ―インド洋ダイポールモード現象の予測が鍵―」)。その研究で使った予測システムを使って、5月時点で今年の夏の予測したところ、日本の南にあたる北西太平洋では、熱帯低気圧の活動が平年よりも減ることが予測されました(2025年5月29日既報)。実際に、負のインド洋ダイポールモード現象が発達した8月は、沖縄・台湾付近で熱帯低気圧の存在頻度が平年より少なかったようです。

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