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海と地球の“深”知識

海の水に流れがある理由は?高いところから低いところに流れている?

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川の水は高いところから低いところに流れますが、海に海流などの流れがあるのはなぜでしょう?海に高さってあるのでしょうか?そんな、よく考える答えがわからない「海に関する素朴なギモン」を地球環境部門の川口慎介主任研究員がわかりやすく解説します。(取材・構成/岡田仁志)

<素朴なギモン> 海の水に流れがある理由は?

理由1 「空気の温度の差」が原因だった

地球には、北極や南極のように温度の低いところと、赤道あたりのように温度の高いところがあります。この温度の違いが、海流を生んでいます。それはいったい、どういうことでしょうか。

まず、空気を考えてみましょう。

温度の高いところでは、温められた空気が軽くなって、上に向かって動く「上昇気流」が生まれます。気球はバルーンの中の空気を温めることで空に浮かびます。

温度の高いところで生まれた上昇気流は、温度の低いところに行くと、今度は冷やされて重くなるので、下に落ちていきます。すると風が吹いて、その風に引きずられるようにして、海の表面の水が流れるのです。

風成循環(図・鈴木知哉)

以上は赤道で成り立ちますが、より高緯度では地球の回転の効果が加わるために話がちがってきます。

〈追記〉海流の専門家・美山透による詳細解説:「風」が原因だった

海流の代表的な例である黒潮は北太平洋亜熱帯を時計回りにぐるっとまわる大循環の一部です。この循環は風によって生じています。太平洋では高緯度では西から東に偏西風が吹いています。低緯度では東から西に貿易風が吹いています。この風は表面の海水を引きずりますが、地球の回転の効果を受けて北半球では風向きの右側にひきずられます。そのために偏西風は南に、貿易風は北に水を集めます。これにより太平洋亜熱帯には水があつまり、水圧が高くなります。気象で高気圧により時計回りの風が吹くように、海でも高い水圧により時計回りの循環が生じます。水圧は深い所まで伝わるので、水深数百メートル以上もの流れが生じます。詳しい説明は省きますが、このような大循環はこれまた地球上の回転の特性で、西に強く押しつけられたような流れとなり、太平洋の西側で強い流れとなります。これが黒潮です。大西洋のメキシコ湾流も同様の理由で大西洋の風によって生じた強い海流です。このような風によって海洋表層に生まれる流れを「風成循環(ふうせいじゅんかん)」とよびます。

理由2 海水の温度差や塩分の差が流れをつくる

でも、海の流れはそれだけではありません。海の深いところでは、別の流れが起きています。その流れも、温度や塩分の違いによって生まれます。

北極や南極のように温度が低いところでは、海水がどんどん冷やされます。水も空気と同じように冷えると重くなっていきます。さらに冷えて海水が凍るとき、水分だけが氷になり、溶けていた塩分はまわりの海水に取り残されます。塩分が濃くなると海水はさらに重くなります。

こうして冷えて濃くなることで重くなった海水は、やがて海底に向かって沈みこんでいきます。沈みこんだ海水は海底を這うように流れていき、やがて水が押し出されるようにして海の表面に向かって動きます。こうして地球全体を巡る海の流れができるのです。これを「熱塩循環(ねつえんじゅんかん)」とよびます。

熱塩循環(図:鈴木知哉)

深海の水はなぜ冷たいのか?

海の深いところの水が冷たいのは、「太陽の光が届かないから」だと思っている人もいるでしょう。しかし、温められないからといって、冷えていくわけではありません。むしろ、地球の中心には5000度を超える核があり、海の底より下は海水よりも熱い環境ですから、温められることはあっても、冷やされることはないのです。つまり、深海の水が冷たいのは、深いところで冷やされているからではないのです。

それなのに深いところに冷たい水があるのは、北極域や南極域の海の表面で、寒い空気によって冷やされた水が重くなって沈んでいることが原因なのです。

川口慎介主任研究員

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取材・構成 岡田仁志

取材協力:
地球環境部門 海洋生物環境影響研究センター 海洋環境影響評価研究グループ 川口慎介 主任研究員
付加価値情報創生部門 アプリケーションラボ 環境変動予測情報創生グループ 美山透 主任研究員

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