地球は青い星、それは海があるからですが、そもそも海がなんであるの?月にはないし、火星にも今はないし……。
あたり前だと思っているけれど、人に聞かれたらよくわからない「海に関する素朴なギモン」を、地球環境部門の川口慎介主任研究員がわかりやすく解説します。
実はこのギモン、最新の宇宙探査にもつながる深遠なテーマなんです!(取材・構成/岡田仁志)
<素朴なギモン> 地球には、なぜ海がある?
そもそも「海」は地球にしかないもの?
まずは「海って何だろう」ということを考えてみましょう。わたしたちは海を見れば「これは海だ」と思います。でも、海とつながっている川のことは「海」とは思いません。陸地にある池や湖も「海」とはちがいます。
でも、海の川も池や湖も、「水」がたくさんあるのは同じこと。わたしたち人間が、「これは海」「これは川」と決めているだけです。たしかに地球には「海」がありますが、それは「地球には水がたくさんある」ということなのです。
なぜ地球には「水」がたくさんあるのか?
では、どうして地球には水がたくさんあるのでしょう。それは、「水の材料となる元素」がたくさんあるからです。水は「水素」と「酸素」という元素から出来ています。地球には、この2つの元素がたくさんあるから水がたくさんあるのです。
でも、水素や酸素がたくさんあるのは地球だけではありません。太陽のまわりには、地球のほかにも、水星、金星、火星、木星、土星、天王星、海王星という惑星があります。いくつかの惑星のまわりには月のような衛星もありますし、惑星よりも小さい「小惑星」もたくさんあります。それらの天体は、太陽系で同じようにして生まれました。だから、みんな地球と同じ元素を持っています。
小惑星から持ち帰った「岩石」にも水素と酸素が
宇宙に浮かぶ星も地球と同じ元素からできていることが確認されたのは、50年以上も前、アメリカのアポロ11号が月から石を持ち帰ったときです。月の石をしらべると、地球の石と同じ元素でできていました。
月の石だけではありません。日本の「はやぶさ2」は、2020年に「リュウグウ」という小惑星から岩石を持ち帰りました。そこにも、水素と酸素がたくさん含まれていました。ですから、ほかの惑星にも、水素や酸素はたくさんあっていいはずです。
それなのに、地球のような海はほかのほとんどの惑星や衛星などにはありません。それは、いったいどうしてでしょう。
地球には海があるのに、ほかの惑星にない理由は?
理由は、二つあります。
まず、海になるだけの十分な量の水が存在しているか、ということです。それぞれの天体にどれだけの水素と酸素が存在するかは、その天体がどのようにして誕生したか、その後どのような環境であったかという天体の歴史に左右されます。同じようにしてうまれた太陽系の天体ですが、詳しく見ればそれぞれに違った歴史をたどっています。
ほかの天体のことも調べて比較することが、地球をもっとくわしく知ることに繋がります。どうして現在の地球には海ができるほどの量の水(水素と酸素)が存在するかは、いまなお研究が続けられている、地球最大の謎の一つです。
「地球と太陽」のちょうどいい関係
もうひとつ海が存在するのに必要なのは、水が天体表面で液体でいられる温度かどうか、です。水は、温度が高いと気体(水蒸気)に、温度が低いと固体(氷)になります。大量の水を保持している天体であっても、温度が高すぎると海はできず水蒸気に覆われますし、温度が低すぎると氷に覆われます。
水が液体でいられる温度は、1気圧の場合は0度から100度の範囲しかありません。たとえば地球よりも太陽から遠い天体では、十分な水が存在しているものの天体表面が寒すぎて、氷に覆われているものがあります。
ただし、ここで注意が必要です。地球の北極海は氷に覆われていますが、私たち研究者は北極海のことも海だと思っています。つまり、たとえ表面が氷に覆われていても、その氷の下で水が液体になっているならば、それを海と考えることもできます。
そう思って太陽系を見渡すと、土星の衛星エンセラダスや木星の衛星エウロパの表面は氷で覆われています。これら氷に覆われた天体には、氷の下の海があるはずだと考え、精力的に調査が進められています。
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取材・構成 岡田仁志
取材協力:地球環境部門 海洋生物環境影響研究センター 海洋環境影響評価研究グループ 川口慎介 主任研究員