海の平均水深は3800メートルだといいます。でも、この深さはどうしたらはかれるのでしょうか? みなさんだったらどうしますか? そんな、人に聞かれたら答えがよくわからない「海に関する素朴なギモン」を地球環境部門の川口慎介主任研究員がわかりやすく解説します。(取材・構成/岡田仁志)
<素朴なギモン> 海の深さはどうやってはかっている?
おもりをつけたロープを垂らしてはかる!
100年ほど前までは、長いロープを海に垂らして海の深さをはかっていました。ロープの先におもりをつけて少しずつおろしていき、海底にぶつかったところで長さをはかったのです。
でも、このやり方では、あまり正しくはかることができません。
海流に流されて、ロープがまっすぐに延びないこともあるでしょう。斜めになったり、たわんだりすれば、本当の深さよりも長くなってしまいます。また、吸った水やおもりのせいで、ロープ自体が伸びてしまったら、やはり正しい深さははかれません。このように海の深さをはかるのは簡単ではありません。
そのため、ロープよりも流されにくくて伸びにくい、金属のワイヤーを使ったこともありました。海には、浅いところも深いところもあります。海の平均の深さはおよそ3800メートルですから、何千メートルものワイヤーを運んだり海におろしたりするのは、とても大変です。
1872年から、イギリスの「チャレンジャー号」という船が1600日もかけて世界中の海を調べましたが、そのとき麻のロープの先につけたおもりの重さは200キログラム。あまりに大変だったせいか、1600日の間に海の深さをはかったのは、500回弱だけでした。
いまは「音」を使ってはかっている
いまは、そういうはかり方はしていません。「音」を使って深さをはかることができるようになったからです。いったい、どうやってはかるのでしょうか。
まず、海の中で音が進む速さを調べます。そして海の表面にいる船から海底に向けて音を出し、それが海底ではねかえって船に戻るまでの時間をはかります。
「速さ×時間」を計算すると距離がわかりますが、それは船から海底までを音が往復した距離。それを2で割ると、船から海底までの距離がわかるのです。
音を使う方法を使って、地球の海全体の25パーセントの深さがはかられています。まだ調べていないところのほうが多く残っていますが、船を使って海のことを調べるには、お金も時間も人手もたくさんかかるので、ぜんぶを調べることはなかなかできません。でも、島の周辺や海底火山など、人間がとくに知りたいと思うところは重点的に調べが進んでいて、だいたいはかることができています。
いちばん深い海はどうやってはかった?
音を使う方法で、かなり正しく海の深さをはかれるようになりましたが、それよりもっと正確に深さをはかりたいときは、圧力計を使います。
海の中の水圧は、どこでも同じではありません。深いところほど、上にある水が多くなるので、水圧が大きくなります。だから、水圧をはかる機械を海底までおろせば、そこの水圧の大きさから深さを計算できるのです。
いちばん深い海「マリアナ海溝チャレンジャー海淵」
地球上でいちばん深い海は「マリアナ海溝チャレンジャー海淵」という地点です。
ここの深さは、この方法ではかられています。「地球のいちばん深いところは何メートルか」を正確にはかることに情熱を燃やす研究者は多く、競うようにできるだけ正確にはかろうと取り組んでいます。
それでも、チャレンジャー海淵の深さには、まだ誤差が残っています。およそ10920メートルなのはたしからしいのですが、装置の正確さにも限界があり、10920メートルから10メートルぐらいはズレている可能性が残っています。海の深さを正しくはかるのは、それぐらい難しいことなのです。
人工衛星から海の深さを測る
海の深さがぜんぶわかっていないのに、どうして「チャレンジャー海淵」がいちばん深いとわかるのか、不思議に思った人もいるかもしれません。
じつは人工衛星を使って宇宙から海の深さをおおまかに調べることができます。船から音を出す方法と比べると、精密さでは負けてしまうものの、衛星を使えば全ての海が測定できる強みがあります。衛星で測定した海の深さを見ると、チャレンジャー海淵よりも深いところはなさそうだとわかるのです。
海は本当に大きいのか
最後に、海はどれぐらい広くて深いのかというお話をしましょう。
「チャレンジャー海淵」はエベレストの高さ(およそ8849メートル)よりも深いですし、海の平均水深の3800メートルも富士山の高さ(およそ3776メートル)より大きな数字です。
でも、海の「広さ」と比べたら、どうでしょう。いちばん広い太平洋は、端から端まで、たとえば東京からアメリカのロサンゼルスまでは、およそ8800キロメートルです。海の深さは平均で3.8キロメートル(3800メートル)ですから、「広さ」に比べるとぜんぜん大きくありません。
じつは、A4サイズの紙の長いほうの辺が太平洋の幅だとすると、深さはその紙の厚みぐらいしかないのです。いちばん深いチャレンジャー海淵でも、紙3枚分の厚みぐらいにしかなりません。
そう考えると、地球の海はずいぶん薄っぺらいようにも感じるでしょう。
でも、その海が、気候など地球の環境に多くの影響を与えています。海にはまだまだわかっていないことがたくさんあります。人間にとって、やはり海は「深い」のだと思います。
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取材・構成 岡田仁志
取材協力:地球環境部門 海洋生物環境影響研究センター 海洋環境影響評価研究グループ 川口慎介 主任研究員