私たちの身のまわりには、目に見えないたくさんの微生物たちが生きています。海や川や地面の中はもちろん、私たちの皮膚や腸内にもたくさんの微生物がすんでいます。そんな微生物のなかには、ちょっと変わった生き方をするものもいます。
ここで紹介するのは、なんと「電気を作る微生物」。まだまだ研究が始まったばかりで、わからないこともいっぱいありますが、この微生物はそんなにめずらしいものではありません。田んぼの泥の中や花壇の土の中など、私たちの身近な場所にも生きているんです! この「電気微生物」をつかまえてバケツで育てれば、その電気で電池が作れるはず。そこで、この電気微生物について研究している海洋研究開発機構(JAMSTEC)の鹿島裕之研究員に教わりながら、実験をしてみましょう!(取材・文/岡田仁志)
目次
- 電気微生物とは何か?
- 電気の正体は自発的な電子の流れ
- バケツ電池で用意するもの
- そのほかにも用意したい物
- 泥と「マイナスの電極」を作ろう
- 作り方のコツ「電極の作り方」
- 「プラスの電極」は水の中に置く
- ひと工夫したいポイント
- プラス極とマイナス極の間に抵抗器をつなぐ
- 1~2週間で「バケツ電池」ができる!
- バケツ電池はできたかな?
- 電気を測るには?
- 【実験1】バケツ電池
- 【考察】イネのある・なしで電圧はどう変わる?
- 電極を備長炭にすると
- 直列と並列をためしてみよう!
- 5つのバケツ電池を全部「直列」につないだら
- オームの法則を使って電流を計算してみよう!
- 田んぼの泥と海底の泥ではどう違う?
- 微生物に食べ物をあげると
- バケツ電池の電気で電子オルゴールは鳴るかな?
- プロペラ付きのモーターをまわしてみよう
- 電気を「食べる」微生物も!
電気微生物とは何か?
生き物が「電気を作る」と聞くと、とても不思議なことのように思う人が多いでしょう。でも、「電気を作る微生物」と似たようなことは、私たち人間をはじめ、ほとんどの生き物がやっています。いったい、どういうことでしょうか。
私たちの体は数十兆個もの細胞でできています。その細胞の中では、いつも「電子」というものが走り回っています。食べたものから電子を取り出して、吸った空気に含まれている酸素にその電子を渡しているのです。生きていくのに必要なエネルギーを得るためには、そういう電子のやり取りをずっと続けなければいけません。それは、ほかの生き物も同じです。
でも「電気を作る微生物」は、電子を渡す相手が、ほかの多くの生き物とは違います。多くの生き物は細胞の中に取り込んだ酸素などに電子を渡しますが、この微生物は細胞の外にある鉱物などに電子を渡すのです。
とはいえ、電子は体の中から勝手に飛び出しはしません。体の外に出すには、電気コードのような電子の通り道が必要です。「電気を作る微生物」は、体の中から外に出る「延長コード」のようなものを持っていて、それを外の鉱物などにつなげることで、電子をそこに捨ててしまうのです。
ですから、この微生物は、生きていくために酸素が必要ありません。たとえば田んぼの泥の中には、酸素はほとんどないけれど、酸素の代わりに「延長コード」をつなげれば電子を受け取ってくれる物質(水酸化鉄など)がたくさんあります。だから、「電気を作る微生物」が活発に生きていくことができるのです。
そういう場所は、陸上だけではありません。海の底にある「海底堆積物」とよばれる泥の中にも、酸素の代わりに電子を受け取ってくれる物質がたくさんあります。ですから海底にも、「電気を作る微生物」はすんでいるのです。
電気の正体は自発的な電子の流れ
では、微生物が体の外に電子を捨てると、どうして電気が作られるのでしょう。
電気は、「電子」という性質を持つ物質が移動することで生まれます。電子はマイナスの電荷を持つ物質の代表選手。
電子は、電子が豊富なところから電子が乏しいところへと、水が高いところから低いところに流れるように、導電体を通って移動しようとする性質があります。みなさんがいつも使っている電気製品の中でも、たくさんの電子が移動しています。
「電気を作る微生物」も、体の中から外に電子を移動させるので、そこでは電気が作られるのです。
さて、そこで電気が作られていることは、どうやって確かめればいいでしょうか。
例えば、土の中では、電気微生物は細胞の近くにある鉱物などに電子を渡し、電子はそこにとどまります。この土の中に電気を通す性質のある「電極」を置くと、電気微生物たちは鉱物に電子を渡すように、電極に電子を渡してくれるようになります。
電気微生物たちが渡してくれた電子が留まっている土の中の電極と、土の中と比べると電子が乏しい土表面の水の中に置いたもう一つの電極とを、電子の通り道になる「導線」でつなげば、電子が豊富な土の中の電極から、電子が比較的乏しい水の中の電極へと電子が移動する、つまり電気が流れるはずです。
バケツ電池で用意するもの
それでは、「バケツ電池」を作ってみましょう。用意するのは、次のようなものです。
★バケツ:プラスチックなどの電気を通さない素材のバケツを使用します。今回の実験では、ガラスのビーカーも使いました。ガラスも電気を通さない物質です。
★土:水と混ぜると泥になるような土を使います(砂は微生物がすみにくく、電気微生物のエサとなる有機物がほとんどふくまれていないので、土を使うようにしてください)。今回の実験では「田んぼの土」「海底の泥」の2種類を用意しました。電気微生物のエサとなる有機物がたくさん含まれている土・泥が理想的です。黒土、泥の場合は、ヘドロのような臭いの強いものは有機物が多く含まれて好ましいです。
※電気微生物のエサとなる有機物を土に混ぜ込んでもいいでしょう。すぐに微生物が食べてしまう糖や有機酸などではなく、バケツ電池の中で少しづつ分解されてエサとなっていくもの、例えば、細かく切り刻んだ古紙(紙は光沢紙やインクが多いものは避けてください)、みじん切りにした野菜クズや雑草、コンポストなどを少量混ぜ込むといいかもしれません。
★電極:電気微生物に電子を捨ててもらったり、導線を通ってきた電子を受け止めたりする役割を果たすのが「電極」です。電極として使えるおもなものを2つ紹介します。
●グラファイトフェルト:今回の実験では、「グラファイトフェルト」という導電性(電気を伝える性能のことです)の炭素繊維でできたフェルト生地を使いました。これは、性能がよく加工性も高いのでおすすめですが、高価だったり、一般には購入しにくかったりするかもしれません。安く簡単に手に入れるなら、次の「備長炭」がよいでしょう。
●備長炭:キャンプ用の木炭などは導電性が低いものが多いので、導電性の高い備長炭がおすすめです。数本をまとめて1つの大きな電極として使ってもいいでしょう。表面積が大きいほど、たくさんの微生物がすみついて活躍するので、発電量が大きくなります。ただし、備長炭には小さな隙間や穴がたくさんあります。そこが水で満たされた状態にしたほうがいいので、実験を始める前に数日間水につけておくか、鍋で煮てそのまま水の中で常温まで冷ますなどして、少しでも空気を追い出しておくとよいです。
★導線:導線は水中に長期間つけるため、錆(さ)びを防ぐ必要があります。錆(さび)は電気の流れを悪くするので大敵です。実験では、錆びにくい「チタンワイヤー」を使用しました。ただし、チタンワイヤー同士が接触しないよう、シリコンチューブに通して絶縁しています。あらかじめビニールなどでおおわれている導線を使ってもいいでしょう。
★テスター(回路計):作られた電気(電圧・電流)の大きさを測るための装置です。今回の実験では、電圧を測っています。赤をプラス(+)に、黒い線をマイナス(-)につなぎます。1台で電流、電圧、電気抵抗が測定できるものだとよいでしょう。
そのほかにも用意したい物
さらに、電気の量を計算したり、電気微生物が作った電気を使って電子機器を動かしたりする実験にも挑戦してみましょう。
★抵抗器:電気の量を計算するために、この実験では、導線の間に「抵抗器」をつけています。抵抗の大きさは「Ω:オーム」という値で表されます。この実験では「1000Ω」の抵抗器を使用しました。抵抗器は必要に応じて取り外したり付け替えたりできると便利なので、ワニ口クリップ付きの導線をおすすめします。
★絶縁・防水用の樹脂:導線とチタンワイヤーをつなぐ部分などは、電線の金属が直接水にふれます。そこで錆びないようにするために、その部分は絶縁用のエポキシ樹脂などで保護しましょう。そのほかにも、電線と電極、電線と抵抗器をつなぐ部分など、錆が心配なところはこれでおおいましょう。今回の実験では樹脂硬化性の接着剤を使っています。
★電気機器:バケツ電池で作った電気で、電気機器を動かすこともできます。ただ、バケツ電池で作ることができる電気の量は、あまり大きくありません。ですから、その電気機器を動かすために必要な電気の量を調べておきましょう。今回の実験では、電子オルゴールとプロペラ付きのモーターを動かしてみました。
今回使った電子オルゴールを動かすために必要な電気の量は、動作電圧:直流 1.2~3.6V、消費電流:150~300μA(マイクロアンペア:100万分の1アンペア)、プロペラモーターは、動作電圧:直流0.4~1.5V、消費電流:16~20mA(ミリアンペア:1000分の1アンペア)でした。ただ、実験結果から計算するとバケツ電池の電流はプロペラモーターを動かす電流の大きさにはなりませんでした。しかし、電子機器は作動したので、カタログに書いてある値より電流が小さくても多少は動作するようです。
★イネ:植物は、光合成で作った有機物の一部を根から放出します。これが、電気微生物を含めた微生物たちのエサになります。バケツ電池でイネを一緒に育てることで、泥だけのバケツとの発電量を比べてみてもいいでしょう。イネ以外でも、水をはった土で育つ他の植物を使ってみてもいいかもしれません。
泥と「マイナスの電極」を作ろう
まずは、マイナスの電極から作ります。マイナスの電極は泥の中の電極です。
1:田んぼや花壇から取ってきた土に水を混ぜて、よく練ります。大きな土のかたまりは潰して、石は取り除きましょう。泥ダンゴが作れないくらいのドロドロ状態がいいです。その泥を数センチの厚さになるようにバケツの中に入れ、空気だまりのない状態にするために、手でやさしく押しつぶします。
*ここで、電気微生物のエサとなる有機物(細かく切り刻んだ古紙、みじん切りにした野菜クズや雑草、コンポストなど)を混ぜ込んで練って泥にしてもかまいません。
2:泥の上に、導線をつけた電極を置きます(これが「マイナス極」になります)。空気が入らないように、やさしく押さえてください。導線の先は、バケツの外に出します。
3:マイナス極の上に泥をかぶせます。泥を数センチメートル入れるたびに手でやさしく押しつぶし、空気の入っていない、よく混ざった泥で満たされるようにします。マイナス極から最低でも5センチメートルは泥をかぶせてください。かぶせ終わったら、最後にまたやさしく押しつぶして空気を抜きます。
作り方のコツ「電極の作り方」
●グラファイトフェルト電極:導線(またはワイヤー)を縫うように数回グラファイトフェルトに通し、導線(ワイヤー)をよじって留めます。よじって留めたところは樹脂で固めて固定してください。導線(ワイヤー)がチタンなら錆びる心配がないのでそのままでOKです。チタンでない場合は錆びる恐れがあるので導線(ワイヤー)露出部をなるべく樹脂でカバーしましょう。
●備長炭電極:導線(ワイヤー)をキツく備長炭に巻きつけ、導線(ワイヤー)同士をよじって留めます。よじって留めたところを樹脂で固めて固定します。導線(ワイヤー)がチタンなら錆びる心配がありませんが、チタンでない場合は錆びる恐れがあるので導線(ワイヤー)露出部をなるべく樹脂でカバーします。
備長炭は何本かまとめて大きな電極にしてもいいでしょう。このとき、電子が行き来できるように、備長炭同士をしっかり接触させてください。例えば、結束バンドで束ねてもいいし、導線(ワイヤー)を巻き付けて接触させてもいいでしょう。バケツ電池の中で、備長炭同士がバラバラに離れないようにしっかりくっつけることが大切です。
*導線に、ビニル被覆導線を使う場合は、電極に巻き付ける部分(10センチメートル以上)の被覆をはがして、上に書いた方法で電極に取りつけ、この金属線が露出した部分(被覆がない部分)を樹脂で覆って錆びないようにします。
また、ビニル被覆導線の先にチタンワイヤーを取り付けてもいいでしょう。ビニル被覆導線の先端の被覆を剥がし、出てきた金属線とワイヤーとをよじって留め、よじった部分を樹脂でかためて固定します。金属線が露出した部分も樹脂で覆います。導線を電極に取り付けたら、しっかり取り付けられているか確認します。
このとき、テスターを使って電気抵抗を測ってください。テスターの2端子を電極(フェルトか備長炭か)とワイヤーにそれぞれ当てて(赤黒どちらがどちらでもOK)電気抵抗を測ってみます。しっかり取り付けられていれば10Ω以下の小さい電気抵抗になるはずです。測定しながらワイヤーを少し動かしてみたりして、安定して10Ω以下の抵抗を維持できるか確認します。
「プラスの電極」は水の中に置く
水中に置かれる電極が「プラスの電極」です。
4:バケツの泥の上から、水を入れます。泥が巻き上がったり掘れたりしないよう、水は少しずつゆっくりと入れてください。泥の表面からマイナス極まで、水で満たされていることが大切です。また、泥の表面が乾いてしまうとよくありません。泥の表面から数センチメートル上まで水がたまっている状態を保ちたいので、ときどき様子を見て、足りないようなら水を加えます。
5:導線をつけた電極(こちらが「プラス電極」になります)を水の中に置きます。プラス電極は、水の中につかっている部分と、その上の空気中に出ている部分の両方があるとよいでしょう。プラス電極とマイナス極は、わかりやすいように導線の色を変えたり、しるしを付けておいてもいいでしょう。一般的には、プラス電極を赤、マイナス電極を黒で色分けします。
ひと工夫したいポイント
プラス電極の表面が泥の粒子で覆いつくされてしまうと、電子と酸素が出会って反応することができなくなってしまいます。それを防ぐには、プラス電極を置く前に、爪楊枝やハサミで小さな穴をたくさん開けたラップを泥の表面に敷くとよいでしょう。
マイナスの電子が1つ導線を通ってプラス電極に移動すると、プラスイオンが1つバケツの泥の中を通ってマイナス極からプラス極へと移動しなければならないので、ラップには泥から水中へと物質が移動するための穴が必要です。
そこに静かに水を入れたら、ラップの上にプラス電極を置きます。
この工夫をしても、小さな穴から出てきた泥がプラス電極に付着しますが、少しぐらいは気にしなくていいでしょう。また、実験しているうちにプラス電極が泥でおおわれてしまったと思ったら、いったん取り外して水洗いしてもいいかもしれません。水洗いの前後で電流、電圧を比べてみるのもおもしろいと思います。
プラス極とマイナス極の間に抵抗器をつなぐ
マイナス極から伸ばした導線とプラス極から伸ばした導線の間に電気抵抗を接続します。雨風にあたる場所で実験する場合は、電気抵抗のまわりをエポキシで固めて防水加工するとよいかもしれません。写真では絶縁樹脂で固めているため、黒いものが抵抗器です。
このとき、導線と抵抗器を直接つながなくても、ワニ口クリップ付きの導線があると、あとで抵抗器を外しやすくなり便利です。
1~2週間で「バケツ電池」ができる!
これでバケツ電池の回路が完成しました。
このバケツ電池では、泥の中のマイナス電極の近くの電気微生物が、泥の中の有機物を食べて取り出した電子をマイナス電極に捨ててくれます。マイナス電極にたまった電子は、導線を通って電子の少ないプラス電極へと移動し、プラス極近くにある酸素に渡されます。
泥の中のマイナス電極から水の中のプラス電極への自発的継続的な電子の流れがバケツ電池で作られる電気の正体です。
電気微生物は電極に電子を捨てることで生きるためのエネルギーを得て増殖していきます。電気微生物が増えた分だけより多くの電子が電極に入ってくるため作られる電気の量が大きくなっていきます。
そのまま1〜2週間ほどかけて、泥の中の微生物が増えるのを待ちます。バケツを揺らしたりすると空気が入ってしまうので、人がぶつかったりしない静かな場所に置きましょう。また、表面が乾かないように、ときどき水を足してください。
バケツ電池はできたかな?
バケツ電池を作ったら、この後に紹介する方法で電圧を測定して、バケツ電池で電気ができているか確かめてみましょう。
泥の中で電気微生物が増えて安定して電気が作られるようになるまで1~2週間ほどかかりますが、この間も定期的に電圧を測定(たとえば毎日同じくらいの時刻に電圧測定するとか)して記録をつけていくことをおススメします。
バケツ電池を作った直後は、電圧がほぼゼロだったりマイナスの電圧(プラス電極の方がマイナス電極より電子が豊富な状態)を示したりしますが、数日たつとだんだんと電圧が大きくなってくるのが確認できると思います。
そこで役に立つのがテスター(回路計)という測定器です。これを電極や導線にあてることで、そこを流れる電気の量を測ることができます。バケツの中の電極は、泥の中がマイナス極(黒)、その上にある水の中がプラス極(赤)でした。
電気を測るには?
マイナス極とプラス極のあいだを流れる電気を測る前に、電気の量をあらわす言葉を知っておきましょう。
まず、電子の豊富さのことを「電位」といいます。マイナスの電荷である電子がたくさんあるところは「低電位」、電子が少ないところを「高電位」と呼んでいます。電子は、電子の豊富な(多い)ところから少ない(乏しい)ところに向かって流れます。これは水が高いところから低いところに流れるのをイメージするとわかりやすいでしょう。
2つの場所の電位の差のことを「電位差」といいます。この電位差が大きいほど、移動する電子を押し出す力が大きくなります。その力の大きさのことを「電圧」といいます。また、「電流」は電気が流れる量のことです。
電圧は「ボルト(V)」、電流は「アンペア(A)」という単位で表されますが、どちらもテスター(回路計)で計測することができます。
前にも言ったように、電気微生物が捨てた電子がたくさんある泥中の電極がマイナスに、泥中の電極と比較して電子が少ない(電子がやってきても酸素と出会って出ていってしまう)水中の電極がプラスになります。
【実験1】バケツ電池
今回は、少しずつ条件を変えたバケツ電池を作りました。それでは、「バケツ電池」の中で「電気微生物」が電気を作っているのかを調べてみましょう。
今回の実験では、「電圧」を測ります。また、2種類の方法で電圧測定をしています。
1:抵抗を取り外した状態(つまり回路が切れて電気が流れていない状態)で電圧測定をする方法。赤をプラス極側導線に、黒をマイナス極側導線に当てる。
2:抵抗をつないだままマイナス電極プラス電極がつながった状態(つまり電気が流れている状態)で電圧測定する方法。赤を抵抗器のプラス極側の導線に、黒を抵抗器のマイナス極側の導線に当てる。
テスターの赤いプラグ(プラス)を水の中の電極から延びる導線、黒いプラグ(マイナス)を泥の中の電極から延びる導線とつなぎます。
また、今回は5種類のバケツ電池を作ってみました。
バケツ1:イネなし 電極はグラファイトフェルト(大きめのバケツ)
バケツ2:イネあり 電極はグラファイトフェルト(大きめのバケツ)
バケツ3:イネなし 電極はグラファイトフェルト(小さめのバケツ)
バケツ4:イネあり 電極はグラファイトフェルト(小さめのバケツ)
バケツ5:イネなし 電極は備長炭
まず、イネを植えた大きめのバケツ電池(バケツ1)の電圧を測ってみると「0.689V」でした。このバケツは抵抗をつないだまま電圧を測っているので、抵抗を外して電圧を測った場合よりも小さい値になります。
もう一方の、イネを植えていない大きめのバケツ電池(バケツ2)の電圧「0.726V」はでした。
この結果から、バケツ電池がしっかりできたことがわかりました!
【考察】イネのある・なしで電圧はどう変わる?
前にもお話ししたとおり、イネなどの植物は、光合成によって作った有機物の一部を根から放出します。それが微生物のエサになるので、バケツ電池にイネを植えてその根がマイナス電極の近くまで伸びれば、「電気を作る微生物」がより元気になるのではないかと予想していました。
イネを植えたバケツと植えていないバケツを比べると結果は逆でしたが、実験が予想とは違う結果になるのはよくあることです。本当のことは、一度だけの実験ではたしかめられません。
実際、今回の実験では、もう少し小さなバケツでも、イネのないバケツ電池とイネのあるバケツ電池をつくりました。この2つの電圧を比べると、イネのない小さめのバケツ(バケツ3)が0.695V、イネを植えた小さめのバケツ(バケツ4)が0.733Vと、イネを植えたほうが大きくなりました。
もともと泥の中に微生物が食やすい有機物がたくさんふくまれていたとしたら、イネから供給される有機物が有るか無いかで、電気微生物の活動にそれほど違いが出ないかもしれません。
また、イネを植えると微生物のエサは多くなると考えられますが、その一方で、イネの体を通して空気中の酸素が泥の中に入っていきます。すると、電気微生物が電子を渡す相手が電極ではなく、酸素になってしまうかもしれません。
つまり、バケツ電池にイネを植えることによって、イネのないバケツ電池よりも電気が増える原因と、電気が減る原因の両方が生じてしまうわけです。科学の実験は、学校の授業のように、あらかじめ答えが決まっているわけではありません。失敗もよくあることですし、むしろ、失敗こそが次の実験のアイデアを与えてくれます。
いろいろな条件を変えながら、さまざまな形で比較して、自分の考えをたしかめていくことが大事です。
電極を備長炭にすると
バケツ1〜4は、どれもグラファイトフェルトを電極にしていました。いずれも、電圧はおよそ0.7Vです。では、電極として備長炭を使ったバケツ5はどうでしょう。
測ってみると、電圧は0.432Vでした。
グラファイトフェルトのバケツ電池よりも小さい値ですが、こちらもたしかに電気が作られています。備長炭も電極として働くということです。
直列と並列をためしてみよう!
では次に、この2つのバケツ電池をつなげると、電圧がどうなるかを調べてみましょう。電気製品に使う乾電池も、2本以上をつなげて使うことがあります。電池のつなげ方には「直列」と「並列」の2パターンがあります。
直列とは、複数の電池の「プラス極」と「マイナス極」をつないだつなぎ方です。並列とは、複数の電池の「プラス極」どうし、「マイナス極」どうしをつなぐつなぎ方です。
では、直列につないだときと並列につないだときでは、バケツ電池の電圧はどのように変わるのか調べてみました。
まず、イネのないバケツ(バケツ1)とイネのあるバケツ(バケツ2)を「直列」でつないで測ってみると、電圧は1.498Vになりました。それぞれの電圧はおよそ0.7Vですから、これは、2つのバケツ電池の電圧を足したぐらいの値になっています。
次に、バケツ1と2を並列でつないで測ってみると、電圧は0.745Vでした。それぞれのバケツ電池を1つずつ測ったときと、だいたい同じです。こうして並列でつないだ場合、電圧は変わりませんが、電気の量は2つ分になるので、バケツ電池1つのときよりも大きな電流が流れます。
5つのバケツ電池を全部「直列」につないだら
さらに、5つのバケツ電池をすべて直列でつないでみたら、どうなるでしょうか。
その結果、電圧は3.262V。
備長炭を使ったバケツ5の電圧はおよそ0.4V、それ以外の4つはおよそ0.7Vでしたから、ちょうど5つバケツ電池の電圧を足し合わせたぐらいの値になりました。一般的な乾電池の電圧が1.5Vなので、微生物がつくる電圧もけっこう大きな値になります。
オームの法則を使って電流を計算してみよう!
今回の実験では電圧だけを測りましたが、電圧と電気抵抗がわかっていれば、電流は計算で求めることができます。その計算に利用する法則が「オームの法則」です。
電圧(V)=電流(A)×電極間の電気抵抗(Ω:オーム)
今回の実験では、電極と電極の間に750Ωの抵抗器をつなげました。750オームの抵抗器をつないだ状態でテスターの赤端子を抵抗器のプラス電極側、黒端子を抵抗器のマイナス電極側にそれぞれあてて電圧を測りました。
イネのあるバケツ電池(バケツ1)を、750Ωの抵抗器をつなげた状態で電圧を測ると「0.638V」となりました。この結果から、このバケツ電池の電流の値を求めてみましょう。
上の式はこうなります。
0.638V=電流(A)×750(Ω)
ですから電流(A)は「0.638÷750」となり、答えはおよそ0.000851(A)、つまり0.851(mA:ミリアンペア、ミリは1000分の1)です。
田んぼの泥と海底の泥ではどう違う?
ところで今回は、5つのバケツ電池のほかに、ガラス製の小さな「ビーカー電池」も2つ作りました。
ビーカー1には「田んぼの土からつくった泥」、ビーカー2には、JAMSTECが採取した「海底の泥」を入れています。海底の泥は、神奈川県の三崎沖の水深およそ800メートルの海底から取ってきたものです。
電圧を測ってみると、田んぼの泥が276.9(mV:ミリボルト)でした。ミリボルトは「1000分の1ボルト」ですから、これまでのバケツ電池と同じボルトにすると「0.2769V」です。
一方の海底の泥は、248.3(mV:ミリボルト)で「0.2483V」でした。
今回の実験では、田んぼの泥のほうが少し多くの電圧が作られています。このように、土の種類が違えば、実験の結果にも違いが出ます。また、淡水を使うか、海水を使うかでも違う結果になるでしょう。
泥や水の条件をいろいろと変えて実験をしてみると、その違いからおもしろい発見ができるかもしれません。
微生物に食べ物をあげると
イネのような植物を植える以外にも、バケツ電池に電気微生物のエサを与えることはできます。身のまわりにあるものなら、「お酢」や「清涼飲料水」、あるいは「クエン酸」などがいいでしょう。電気微生物がとくに好むのは「糖」を多く含む物質です。
ただし、バケツ電池を作ってすぐに糖を入れるのはやめてください。糖は電気微生物以外の微生物もエサとして食べるので、電気を作らない微生物が一気に増えて、電極の周りの環境を独占してしまう可能性があります。
バケツ電池を作ったら、まずは1〜2週間後に糖を入れない状態で電圧を測り、電気ができていることをたしかめてから、糖や有機酸を含む液体(砂糖水、お酢、清涼飲料水)を入れるようにしてください。それから再び定期的に電圧を測れば、糖の「ある/なし」で作られる電気の大きさがどれぐらい違うかを調べられるでしょう。
バケツ電池の電気で電子オルゴールは鳴るかな?
ここまでの実験で、電気微生物を使った「バケツ電池」では、電気が作られることがわかりました。でも、この電気はふつうの電気と同じように使えるのでしょうか?
これも、実験でたしかめました。まず試したのは、電子オルゴールです。これを鳴らすためには、直流で1.2~3.6Vの電圧が必要です。ですから、電圧およそ0.7Vのバケツ電池を2つ直列でつなぎました。
さきほど見たように、このバケツ電池の電圧はおよそ1.4Vになるので、電子オルゴールを鳴らすには十分なはずです。
実際、電子オルゴールをつなげると、きれいなメロディが流れました。
プロペラ付きのモーターをまわしてみよう
次に試したのは、プロペラ付きのモーターです。
これを動かすのに必要な電圧は、直流で直流0.4~1.5V、消費電流は16~20mA(ミリアンペア:1000分の1アンペア)です。こちらは、2つのバケツ電池を並列につないで接続しました。
見事にプロペラが回転しました! 電圧・電流が小さいので、ふつうの電気製品は動かせませんが、バケツ電池はちゃんと「使える」電池なのです。
電気を「食べる」微生物も!
今回のバケツ実験では、「電気を作る微生物」が大活躍してくれました。でもじつは、電気微生物はそれだけではありません。「電子を食べる微生物」もいることがわかっています。
最初にお話ししたとおり、電気を作る微生物は「延長コード」を使って、体の外にある物質に電子を渡すのです。
一方の「電子を食べる微生物」は、人間は食べたものから電子をもらうように、「延長コード」を使って、体の外にある物質から電子をもらうのです。
今回の実験では、JAMSTECが海底から採取した泥も使った比較をしました。
深い海の底には、「熱水噴出孔」という熱い水が海底下から噴き出す場所があり、そこにはチムニーという構造体(こうぞうたい)が作られます。このチムニーには電気が流れていることが最近になってわかりました。
ですから、「電気を食べる微生物」もそこにはたくさんいるのかもしれません。その研究が進めば、電気微生物という不思議な生き物のことがよりくわしくわかるようになるでしょう。
鹿島研究員の電気微生物の研究について詳しくりたい方はこちら
電子を食べる・捨てる「電気微生物」がいる!地球には第3の生態系「電気合成生態系」が存在しているのか?
取材・文:岡田仁志
撮影:神谷美寛/講談社写真部
取材協力:超先鋭研究開発部門 鹿島 裕之 研究員