宇宙にも生命はいると思いますか? 生命研究で世界をリードする超先鋭研究開発部門、部門長の高井研さんならなんと答えるでしょうか。そもそも生命とは? そして、現在行われている生命研究の最先端までを聞いてみました。(取材・文:岡田仁志)
あなたの考える宇宙生命の姿は?
地球以外にも生命がいるかどうかを考えるときは、その前に、まず「生命とは何か」をよく考えなければいけません。それがはっきりしないと、「いる」か「いない」かもはっきりしないからです。
もし「宇宙生命」がいるとしたら、それはどんな姿をしていると思いますか?
実際、小学生に「きみの考える宇宙生命の絵を描いてごらん」というと、タコに似た生き物を描く子がよくいます。SF映画などで描かれる宇宙人やエイリアンみたいな地球外生命体も、変わった形はしているものの、目鼻や手足など、基本的な仕組みは地球生命とだいたい同じです。
ほとんどの人が、いまの地球にいる生き物をもとにした、似たようなものをイメージするでしょう。私たち地球人は、いまのところ地球生命しか見たことがありません。だから「宇宙生命」を考えるときも、それと似たようなものをイメージしがちです。
でも、いまの地球にいる生命だけが「生命」とはかぎりません。ですから、もっと広い意味で「生命とは何か」を考える必要があるのです。宇宙には、地球とはまったくちがう形の生命がいるかもしれません。
地球と同じ仕組みの生命がいる惑星の条件
しかし「生命とは何か」という問題には、まだはっきりした答えが出ていないのもたしかです。実験室では、地球の生命とはまったくルールの違う「人工生命」がいくつもつくられていますが、本当にそれを生命と呼べるのか、あるいは本当にそれを生命と認識できるのか、考えれば考えるほどよくわからなくなります。
ですからここでは、「宇宙にも地球と同じような生命がいるかどうか」という問題に絞りましょう。私は、地球にいる生命は、決して地球だけの特別なものではないと思っています。どこの星であれ、そこに海さえあれば、地球と同じような生命が生まれるはずです。
ここでいう「海」とは、ただの大きな水溜(みずた)まりのことではありません。地球の海は、深海の熱水噴出孔(ねっすいふんしゅつこう)から湧(わ)き出す熱い水と岩石が反応することで、さまざまな物質が溶けた「ダシの効(き)いたスープ」のようなものになりました。それこそが「海」です。
地球で最初の生命は、およそ40億年前に、海底の深海熱水噴出孔で生まれたと思われます。もし地球以外の星に地球と同じような海があれば、そこには必ず地球のような熱水噴出孔があるでしょう。ならば、地球で最初に生まれたのと同じような生命ができあがるはずです。
それが、地球生命のように何十億年も生き続け、植物や動物などさまざまな形に進化するかどうかはわかりません。そうなるかどうかは、その星の環境によるでしょう。でも海さえあれば、地球生命の共通祖先(きょうつうそせん/LUCA:ルカと呼ばれます)と同じものが生まれる可能性が高いのではないでしょうか。
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海のある惑星を調べてみれば!
そして、「海」のある星は、すでに太陽系の中で見つかっています。木星の衛星(えいせい)「エウロパ」と土星の衛星「エンケラドス」は、どちらも表面を厚い氷が覆(おお)っていますが、その下には海があることがわかりました。とくにエンケラドスの海は、溶けている物質が地球とよく似ていると思われます。
ですから、「宇宙生命」がいるかどうかを探しに行くなら、まずはエンケラドスに探査機を送り込んで地下の海を調べ、そこからサンプルを持ち帰りたいところです。
生命という現象をもっと知るために
日本の「はやぶさ」や「はやぶさ2」をはじめとして、太陽系の天体からサンプルを持ち帰る計画はいくつも行われてきました。その目的の中には、「生命の痕跡(こんせき)を探す」ことも含まれています。
しかし、これまでの宇宙探査は「生命そのもの」を探すものではありませんでした。生命の材料になる有機物や遺伝子の部品はすでにこれまでの小惑星探査でも見つかっています。もし、エンケラドスを本格的に調べることができれば、まさに「生命そのもの」が地球の外で見つかるかもしれません。
もちろん、そのためには時間もお金もたくさんかかります。土星は地球から遠いので、地球を出発した探査機がエンケラドスに到着するまでに、5~10年くらいかかります。明日、探査機を打ち上げても、エンケラドスのサンプルを分析できるのは20年後ぐらいになるでしょう。
でも、その探査が実現すれば、たとえそこに生命がいてもいなくても、私たち地球生命の起源に関する研究は大きく前進するはずです。「そもそも生命とは何か」という問題についても、いまよりもっと深く考えられるようになるのではないでしょうか。
もちろん海のない場所でも、地球とはまったくちがうタイプの生命が生まれるかもしれません。それを見つけたとき「これは生命だ」といえるようになるためにも、私たちは生命という現象についてさらに研究を深めていく必要があるのです。
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取材協力:超先鋭研究開発部門 高井 研 部門長
撮影:市谷明美(講談社写真部)