トカラ列島の悪石島(あくせきじま)から宝島にかけての領域では、2025年6月21日から地震活動が活発になり、7月7日01時までに震度1以上を観測した地震が1,555 回発生し、このうち、震度5弱以上を観測する地震が8回、震度3以上を観測する地震が161回発生するなど、活発な地震活動が継続している(気象庁のホームページより)。この地震活動が火山活動と関係するのかはわかっておらず、令和6年能登半島地震のように何らかの流体プロセスで群発活動が起こっている可能性も否定できない。一方、この地震活動が、火山活動によって活発化していると仮定すると、火山学の視点からはどのような可能性が考えられるだろうか。
十島村はトカラと呼ばれ、屋久島と奄美大島の間に挟まれた有人島(7島)と無人島(5島)からなる。小宝島と宝島は隆起石灰岩からなる島である(鹿児島県十島村のホームページより)が、変質した火砕岩類も見られる(横瀬他2010)。口之島、中之島、諏訪之瀬島は活火山(概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山)(気象庁ホームページより)であり、悪石島は約10万年前以降、横当島は数万年前以降の新しい火山とされている(産業技術総合研究所ホームページより)。
新しい火山である諏訪之瀬島と横当島間の距離は約117㎞であり、その間に悪石島、小宝島、宝島がある(図1)。現在、この周辺は、トカラ列島の火山フロントにおける異常に長い火山空白域である。たとえば伊豆諸島の火山列島の青ヶ島と須美寿島の間の距離は115kmであるが、その間の海底には明神礁(ベヨネーズ列岩)や明神海丘などの海底カルデラ火山が存在し、100㎞を越えるような火山空白域はない。一方、海底には火山性の海丘が点在し(Arai et al., 2018; 横瀬ほか、2010)、マグマ活動に伴う貫入構造が地震波をもちいた探査(反射断面)でとらえられている(Arai et al., 2018)。
火山は地下のマントルにおける高温領域(ホットフィンガー)に対応して生成し、ホットフィンガーの間は火山の空白域となる(Tamura et al., 2002)。しかし、東北地方の火山で見てみると火山の空白域は30㎞から広くても80㎞にすぎない(図2)。
トカラ列島の場合、ユーラシアプレートにフィリピン海プレートが沈み込むという同じ環境において、活火山ととても広い火山の空白域が共存するということは考えづらく、諏訪之瀬島と横当島の間の地下深部(マントル)においてもマグマを生成するホットフィンガーが存在することが十分予想される。
マグマはホットフィンガーと呼ばれる、熱いマントルが部分融解することによって生成する。ここで生成したマントル由来のマグマを一次マグマと呼ぼう。一次マグマが何らかの理由によって、地表まで噴出することができない場合、一次マグマは地殻内に貫入し、結晶化し、固結する。結晶化するマグマからは大量の潜熱とガス(ほぼ水と二酸化炭素)が放出される。トカラ列島の地殻は、約25kmの厚さを持つ大陸地殻である(Arai et al., 2018)。マントル由来の一次マグマが固まるときの潜熱によって大陸地殻が融解し、二次マグマを生成し、ガスは地殻が融解した二次マグマ(シリカの多い珪長質マグマ)に溶け込み、一部はマグマと共存するガスとなる。この二次マグマは爆発的な噴火をする軽石や火山灰となる(図は福徳岡ノ場の例『大陸の誕生』p210)。
福徳岡ノ場はこのしくみで定期的に軽石噴火を起こしている。もし定常的な噴火を起こすことができない場合、ホットフィンガーから一次マグマと熱とガスが供給され続け、地殻の中には膨大な二次マグマとガスが蓄積されていくことになる。
詳しく調査を行わないと現時点ではわからないが、もし諏訪之瀬島と横当島の間のマントルにホットフィンガーが存在しているならば、数万年、または10万年以上マントルから一次マグマとガスが供給され続けていたことになる。このマグマが地殻を溶かし続けて膨大な量の珪長質な二次マグマとガスが蓄積している可能性もある。この二次マグマが一気に噴出した場合、膨大な量の軽石と火山灰が爆発的に噴出し、大きな陥没地形(カルデラ)を形成するような巨大噴火となることも考えられる。
トカラ列島で起こっている地震は地殻内に震源があり、これまで記録されたことのない頻度と強度の地震である。地殻内に蓄積したマグマとガスを起因とした地震活動であれば、噴火に備える対応も必要かもしれない。しかし、あくまで現時点での一つの考察であるため、今後の総合的な調査観測が不可欠である。
一日も早く原因の究明がおこなわれ、島民のみなさまが平穏な日常を取り戻されるように願う。
(文責 田村芳彦)
Arai, R., Kodaira, S., Takahashi, T. et al. (2018). Seismic evidence for arc segmentation, active magmatic intrusions and syn-rift fault system in the northern Ryukyu volcanic arc. Earth, Planets and Space 70:61 https://doi.org/10.1186/s40623-018-0830-8
Tamura, Y., Tatsumi, Y., Zhao, D. et al. (2002). Hot fingers in the mantle wedge: new insights into magma genesis in subduction zones. Earth and Planetary Science Letters 197, 105-116.
田村芳彦(2024)大陸の誕生:地球進化の謎を解くマグマ研究最前線 講談社ブルーバックス
横瀬久芳、佐藤創、藤本悠太ほか(2010)トカラ列島における中期更新世の酸性海底火山活動. 地学雑誌 119, 46-68.