気象衛星「ひまわり8号」で見た親潮 (親潮ウォッチ2016/06)

2016/5/13号「親潮のこの一年をアニメーションで」でも報告したように、親潮域の高温が続いています。今回もその様子を見てみましょう。

図1は、5月7日の海面水温が平年(1993から2012年の20年平均)より高いか(赤っぽい色)、低いか(青っぽい色)、をJCOPE2のデータを用いて見たものです。親潮域の高温(黒矢印でしめした場所)は引き続き見られます。東北沖(図青矢印でしめした場所)でも平年よりかなり温度が高くなっています。

それ以外の場所でも、日本周辺はほとんどの場所で平年よりも温度が高くなっています。これから真夏に向けてどうなっていくか、姉妹サイト「季節ウォッチ」で天候の様子を見ながら、注目です。

Fig1

図1: JCOPE2再解析による海面温度の平年(1993年から2012年の平均)との差(ºC)。2016年 6月11日。

 

親潮域の海面水温の様子を詳細に見るために、図2左には、6月11日の北海道・東北沖の、気象衛星「ひまわり8号」による海面水温(※1)をしめしました。「気象衛星「ひまわり8号」で見た黒潮」(2015/10/09号2016/05/20号)で見たように、気象衛星「ひまわり8号」により、高分解能で高頻度の海面水温の観測が可能になっています。

6月11日の画像を見ると、親潮域の高温の原因になっている暖水渦(黒矢印)や、黒潮続流(北緯35N付近を東西に伸びる高温の帯)から東北沖に伸びて東北沖の高温の原因になっている暖水とその渦(青矢印)が鮮やかにとらえられています。黒潮続流から北へ切離される暖水渦は、気候の変動に影響を与える熱源として、最近の研究で注目されています(※2)。

図2右には、比較のため、JCOPE2の海面水温推定値をしめしました。JCOPE2は、分解能(分解能約9km)が低いので、「ひまわり」(分解能約2km)ほど鮮やかには海面水温をとらえられていませんが、「ひまわり8号」のデータを取り込んでいることもあり、おおよその特徴が再現できています。雲のために「ひまわり8号」が観測できない場所でも推定できること、流速も推定できることがJCOPE2の強みです。「ひまわり8号」の良さと、モデルの良さを、最大限に発揮するデータを作成するために、JAXAと共同研究を実施しています。

2017/3/16追記: 親潮ウォッチ2017/03「気象衛星「ひまわり8号」で見た親潮2」では、改良されたJCOPE2Mと「ひまわり」のデータを比較しています。

図3は、図2の温度比較を4月1日から6月11日までのアニメーションにしたものです。

Fig2

図2: 親潮から黒潮続流域の海面水温。左図が「ひまわり8号」の観測した海面水温(1日平均)。右図はJCOPE2再解析から(1日平均)。右図にはJCOPE2の流速もベクトルでしめしている。

 

 


図3: 図2と同じ温度比較の、2016年4月1日から6月11日までのアニメーション。クリックして操作して下さい。途中で停止することもできます。

 


2015/9/4号で紹介した、親潮の勢力の指標である親潮の面積(図2の点線領域での水深100メートルの水温5度以下の水の広がり)の時間変化を見ると(図4の赤線)、親潮域の高温について触れ始めた昨年2015年の5月頃(2015/5/22号「親潮域があったかくなっているって聞いたけど?」)から、平年(黒細線)のはるか下、通常の範囲(灰色の範囲)を超えてさらに小さい面積になっています。今年の6月になって、平年との差がやや縮まってますが、まだ小さいです。親潮面積が小さいということは、冷たい水(5度以下)の範囲が狭い、すなわち、親潮域があたたかいことを意味します。

Fig4

図4: JCOPE2再解析データから計算した親潮面積の時系列(単位104 km2)。赤線が2014年11月から現在までの時系列。黒細線は平年(1993-2012年)の季節変化。灰色の範囲は平均からプラスマイナス標準偏差の範囲。

 

親潮面積の5月の月間平均は、昨年2015年に次いで、1993年以降、過去2番めに小さい値です。

図5: 親潮の5月平均面積の各年の比較。単位は104 km2

 


※1 本稿にて使用したひまわり8号から作成したプロダクトは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の分野横断型プロダクト提供サービス(P-Tree)より提供を受けました。JAXA作成の1時間平均のデータを使い、24時間のうち各地点毎に観測できたデータを時間平均して、1日平均の海面水温を作成しました。例えば夜だけ晴れていれば、夜だけのデータを使って平均していることになり、値が偏っている可能性があります。過去の「ひまわり8号」の水温データを使った解説一覧はこちら。気象庁も「ひまわり8号」海面水温画像の公開を開始しています。気象庁「静止気象衛星ひまわり8号による海面水温画像の公開について」(2016/5/24)

※2 参考:気候系のHOTSPOT研究成果:日本東岸沖の海と大気は10年で変わる 〜その原因は黒潮続流にあり!?〜 杉本 周作 (東北大学)
2016/06/03号で紹介した書籍「天気と海の関係についてわかっていることいないこと」にも、同著者による解説があります。


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黒潮親潮ウォッチでは、親潮の現状について月に一回程度お知らせします。親潮に関する解説一覧はこちらです。 JCOPE-T-DAによる短期予測はJAXAのサイトで見ることができます。 4日毎に更新されるJCOPE2Mによる親潮の長期解析・予測図はJCOPE のweb pageで見られます。親潮関係の図の見方は2017年1月18日号2017年2月1日号で解説しています。