気象衛星「ひまわり8号」で見た親潮2 (親潮ウォッチ2017/03)

東北沖に暖水渦が存在するため、平年よりかなり水温の高いが引き続き見られます。暖水渦を回り込むようにして冷たい水温が南に伸びています。気象衛星ひまわり8号で得られた海面水温と比較しながら、暖水渦が変化する様子を見てみました。暖水渦は次第に弱まると予測しています。

全体的な状況

まず、日本周辺の水温状況を見てみましょう。図1は、2017年2月4日(親潮ウォッチ2007/02で解説)と2016年3月5日の海面水温の、平年との差を見たものです[1]。平年は1993から2012年の20年間の平均で、それより高い場所が赤っぽい色、低い場所では青っぽい色になっています。

日本海(図中D)と沖縄周辺(図中E)[2]では、先月(図1上段)より面積は減ったものの、3月(図1下段)にも引き続き水温が高い場所が見られます。日本海の高水温については2017/2/8号「対馬暖流が強く大雪?」で解説しました。

東北沖と北関東沖の高水温(図中のAとB)と、その間の低水温(図中C)については、以下でくわしく見ます。

図1: 海面温度の平年(1993年から2012年の平均)との差(℃)。[上段]2017年2月4日。[下段] 2017年3月4日。

 

気象衛星「ひまわり8号」で見た親潮

黒潮続流から親潮域の海面水温の変化を見るために、今年1月1日から3月5日までのJCOPE2Mによる推定海面水温(左)と気象衛星「ひまわり8号」による海面水温[3]を並べてアニメーションにしてみました。JCOPE2Mの図には海面流速の推定値も加えてあります。

図2を見ると、時計回りの暖水渦は、1月頃には北海道近くにありましたが、ゆっくりと弱まりながら南下しているようです。

JCOPEと「ひまわり」の海面水温の比較は親潮ウォッチ2016/06「気象衛星「ひまわり8号」で見た親潮」でも見ました。当時もJCOPEは「ひまわり」の観測値を取り入れていたのですが、「ひまわり」ほど鮮やかに水温の様子をとらえられていませんでした。しかし、先月号「JCOPE2とJCOPE2Mの違い」で見たように、新しく開発されたJCOPE2Mでは「ひまわり」の海面水温の情報をより良く取り入れています。また、「ひまわり」の水温データ自体も、当時のバージョン1.1では冷たい海面水温を雲がかかっていると誤判定する傾向がありましたが、現在のバージョン1.2ではそれが改善されています。私たちのグループと宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、「ひまわり」の良さとモデルの良さを最大限に発揮するデータを作成するための共同研究を実施しており、さらに高分解能の海面水温データの作成にも取り組んでいます。


図2: 親潮から黒潮続流域の海面水温を2017年1月1日から3月5日まで見たアニメーション。左図はJCOPE2Mの解析値から(1日平均)。右図がひまわり8号の観測から作成された海面水温。左図にはJCOPE2Mの流速も矢印でしめしている。

図3は、図2の最後の3月5日の海面水温です。東北沖には暖水渦(図中A)がまだ存在しており、それが図1(A)の平年より高い海面水温の原因です。その暖水渦を回り込むようにして南に親潮の水が入り込んでおり(図3の青矢印、C)、そのために平年より水温が低くなっています(図1C)。黒潮続流には、時計回りの渦状になった循環が存在していて(図3中のB)、平年より高い水温につながっています(図1B)。

Fig3

図3: 図2の3月5日に対応する図。

最近の親潮の勢力

図4は、3月5日の水深100メートルでの水温と流速を、新しいモデルであるJCOPE2M(左)と、従来のモデルであるJCOPE2再解析(右)で比較しています。親潮の勢力の指標である親潮の面積(図4の点線領域での水深100メートルの水温5度以下の水の広がり)の時間変化を見ると(図5)、JCOPE2Mで計算した場合(青実線)、暖水をまわりこむようにして入ってくる親潮のために(図4の青矢印)、平年より(黒細線)大きな値になっています(親潮の勢力が強い)。一方、従来のモデルを使っているJCOPE2再解析で計算する(図5赤線)と、冷水がそれほど入り込んでいないので平年よりちいさな値になっています。先月号「JCOPE2とJCOPE2Mの違い」で見たように、新しいモデルであるJCOPE2Mのほうが現実に近いと思われます。

Fig4

図4: 2017年3月5日の水深100メートルでの温度(色, ℃)と流れ(矢印, メートル毎秒)。(左)JCOPE2M。(右)JCOPE2再解析。

 

図5: 親潮面積の時系列(単位104 km2)。赤線が2015年1月から現在までのJCOPE2再解析から計算した時系列。黒細線は平年(1993-2012年)の季節変化。灰色の範囲は平均からプラスマイナス標準偏差の範囲。青実線は2016年10月から計算を始めたJCOPE2Mによる値。青天線は2017年3月10日からのJCOPE2Mによる予測。

3月10日からの予測

図6は、JCOPE2Mによる3月10日から5月11日までの予測をアニメーションにしたものです。親潮域の水深100mの水温(左図)と平年(1993から2012年の平均、右図)を比較しています。暖水渦や、親潮の勢力の指標である水温5度線に注目して見てみてください。東北沖に現在ある暖水渦は弱まって消えていきそうです。

親潮面積で見ると(図5の青点線)、暖水渦を回り込んで南に入ってくる冷水も弱まるので、しだいに平年値に近づくと予測しています。

親潮と黒潮続流の周辺の最新の予測は、JCOPE のweb pageで週2回更新されているので、参照してください。親潮・黒潮続流関係の図の見方は2017年1月18日号2017年2月1日号で解説しています。


図6: 親潮域の水深100mでの2017年3月10日から5月11日までの水温(左図)の、JCOPE2Mによる予測と、平年(1993から2012年のJCOPE2再解析の平均、右図)の比較のアニメーション。親潮域の指標として水温5度に黒太線で等値線をひいてあります。クリックして操作して下さい。途中で停止することもできます。


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黒潮親潮ウォッチでは、親潮の現状について月に一回程度お知らせします。親潮に関する解説一覧はこちらです。 JCOPE-T-DAによる短期予測はJAXAのサイトで見ることができます。 4日毎に更新されるJCOPE2Mによる親潮の長期解析・予測図はJCOPE のweb pageで見られます。親潮関係の図の見方は2017年1月18日号2017年2月1日号で解説しています。


  1. [1]今年の値はJCOPE2Mを、平年の値はJCOPE2再解析を使用しています。
  2. [2]沖縄周辺の高温については、沖縄周辺海域の 12 月~2 月の海面水温は、3 か月間の平均海面水温が解析値の存在する 1983 年以降で最も高くなったことを沖縄気象台が発表しています。「この冬の沖縄地方の平均気温と沖縄周辺海域の海面水温が過去最高」(報道発表資料, pdf, 2017年3月1日)
  3. [3]ひまわり8号」の海面水温については、2015/10/9号・気象衛星「ひまわり8号」で見た黒潮を参照。JAXA提供の「ひまわり8号」海面水温データは、2016年8月31日からバージョン1.2にバージョンアップしています。過去の「ひまわり8号」の水温データを使った解説一覧はこちら