hotspot2研究プロジェクトがスタート

アプリケーションラボの野中正見・グループリーダーを代表とする通称「hotspot2」(正式名称: 文部科学省科学研究費補助金プロジェクト・新学術領域研究「変わりゆく気候系における中緯度大気海洋相互作用hotspot」)という研究プロジェクトが今年度からスタートしました(2019~2023年度)。

hotspot2は、以前に実施されたhotspot研究プロジェクト(2010~2014年度、正式名称: 熱帯と寒帯が近接するモンスーンアジアの大気海洋結合、代表: 中村尚・東京大学教授)を継ぐものです。

従来、エルニーニョに代表されるように、熱帯の海が日本の異常気象などの大気現象に大きな影響があることは知られていました。しかし、黒潮・親潮など中緯度の海流が気象・気候現象にどんな影響を与えているかはほとんど知られていませんでした。むしろ、ほとんど影響ないのではないかという考えが以前の見方でした。

hotspot研究プロジェクトでは、この見方に挑戦し、中緯度海洋の役割に光を当てました。特に、黒潮・親潮の強い熱輸送による熱帯と寒帯とのせめぎ合いの下で、海洋から大気への莫大な熱・水蒸気の放出をもたらす日本周辺海域をhot spot(ホット スポット)として注目しました。

hotspot研究プロジェクトで生まれた多くの成果は、黒潮親潮ウォッチでも一部を紹介しています。

例えば、東シナ海の海水温が梅雨末期の豪雨に重要だということがわかりました(「豪雨の鍵をにぎる東シナ海」)

黒潮大蛇行が始まってから、しばしば紹介していますが、黒潮大蛇行が東京で雪が降らせやすくするなどの研究(「【コラム】2017年と2018年の冬季前半における日本付近の寒さと雪」「2018/1/21放送・サイエンスZERO「巨大海流 黒潮」」「2017/8/1放送・テレビ朝日「報道ステーション」」)も成果です。

hotspot研究プロジェクトの成果から「黒潮が爆弾低気圧を呼ぶ」という研究も生まれました。

海流についても新たに発見がありました。前回の2004~2005年の事例の研究から、黒潮大蛇行のメカニズムがわかってきました(碓氷 典久, 「研究成果:黒潮大蛇行の謎に迫る」hotspotホームページ)。その成果は、2017年に始まった今回の大蛇行の理解に役立っています(「黒潮大蛇行が12年ぶりに発生 —最新の理論で確かめてみると—」、「黒潮大蛇行2017の発生を振り返る」。

微細な渦(「JAMSTECが渦について新発見をしたと聞いたけど?」)や、黒潮続流の年々変動(「黒潮はどれくらい先まで予測できるのでしょう?」)の研究も行われています。

hotspot2ではhotspot研究の視点はそのままに、地球温暖化で変わりつつある気候の中での中緯度海洋の果たす役割について注目していきます。日本周辺の海面水温は他の海域よりも急速に温暖化しています[1]。近年、豪雨や豪雪が毎年のように日本列島を襲っているのは、こうした海洋の変化による可能性があります。豪雨に影響があるとされる東シナ海や、豪雨や豪雪に影響があるとされる対馬暖流(豪雪については「対馬暖流が強く大雪?」)の観測も計画されています。

黒潮親潮ウォッチではhotspot2研究プロジェクトの結果を今後も紹介していく予定です[2]。成果にご期待ください。

  1. [1]気象庁「海面水温の長期変化傾向(日本近海)
  2. [2]筆者(美山)はhotspot2に研究分担者として参加しています。