8月18日までの黒潮「長期」予測(2020年6月17日発表)

Author: 2020-06-17

黒潮予測

黒潮大蛇行は、典型的な流路が続いており、期間が史上2番目の長さになっています。小蛇行が近づくことで、大蛇行が一時的に不安定になりそうですが、継続すると予測しています。

高分解能予測JCOPE-T DAの開始にともない、

を行っています。

ここでは8月18日までのJCOPE2Mによる長期予測を解説します[1]。長期予測では、黒潮大蛇行の予測がテーマです。

 

予測

図1は2020年6月9日の状態の推測値、図2・3は7月18日・8月18日の予測です。黒潮大蛇行の期間は約2年10か月を越え、記録が確かな1960年代後半以降の史上2番目の長さの黒潮大蛇行になっています(最長は1975-80年の4年8か月。「黒潮大蛇行の歴史」参照。)。

東海沖の典型的な黒潮大蛇行が続いています。典型的な黒潮大蛇行には(1)蛇行が大きい、(2)紀伊半島・潮岬での離岸、(3)八丈島の北を流れるといった特徴があります。

蛇行が大きいというのは北緯32度以南まで蛇行するというのが目安です[2]。流れを見ると、北緯32度を越えて黒潮が大きく蛇行しています(A, 図1)。予測でも蛇行は続きます(図2～3)。しかし、小蛇行(D)が近づくことで蛇行が不安定になり、部分的に渦がちぎれるなど(A’, 図2)、蛇行が弱くなる可能性があります(図2～3)。ただ昨年も夏に小蛇行が近づくことで大蛇行が一時的に弱くなりましたが、小蛇行が加わることで大蛇行は強さを取り戻しました(「2019年の黒潮をアニメーションで振り返る」参照)。

黒潮は潮岬で離岸しています(B)。串本と浦神の日平均潮位差(気象庁)も小さいままであることから、離岸が継続していることがわかります[3]。予測でも潮岬での離岸は継続すると予測しています。

黒潮は八丈島の北を通過する流路が続くと予測しています(C)[4]。八丈島の南を流れる流路が長期化、つまり大蛇行を作る反時計回りの渦が八丈島を越えて東に移動するのが黒潮大蛇行の通常の終わり方ですが、いまのところ予測されていません。むしろ大蛇行の中心は西に移動するという予測になっています(図3)。

四国・室戸岬で離岸が続きます。小蛇行(D)のため、足摺岬でも大きな離岸が続くと予測しています(図1～3)。

図4は、2020年6月9日から8月18日までの予測をアニメーションにしたものです。

Fig1

図1: 2020年6月9日の推測値。矢印(ベクトル)は海面近くの流れの向き(メートル毎秒, 長いほど速い流れ)、色は海面高度(メートル, 相対値)。赤丸(●)が八丈島の位置。海面高度が低いところは海面水温が低いおおまかな関係があります。

 

Fig2

図2： 図1に同じ。ただし7月18日の予測値。

 

Fig3

図3： 図1に同じ。ただし2020年8月18日の予測値。

 


図4： 2020年6月9日から8月18日までの予測のアニメーション。クリックして操作してください。途中で停止もできます。

黒潮大蛇行を作る渦の強さ

図5は、黒潮大蛇行を作る冷水渦の強さの指標です[5]。東海沖水深1000mの冷水の面積の指標を3℃以下から、3.3℃以下に変更しています。

黒太線が現在の推定値で、昨年8月になってから弱くなりましたが、9月以降は強さを回復しています。最新の予測(赤線)は先週の予測(点線)より下方修正になっており、昨年の8月程度まで下がる可能性があります。昨年8月程度であれば、まだ大蛇行は続くと予測されます[6]。

Fig5

図5: JCOPE2Mで推定と予測した冷水面積(東海沖水深1000mで水温3.3℃以下の海域の面積)の1日ごとの時系列。黒潮大蛇行を作る冷水渦の強さの指標。単位は104平方キロメートル。黒線は観測を取り入れつつ推定した値。赤線が最新の予測。

  1. [1](注：2020/4/15日号の予測より、予測モデルへの海面高度観測のデータの入れ方を変更しています。）↩
  2. [2]海上保安庁の用語の説明参照。http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/KAIYO/qboc/exp/yougo.html↩
  3. [3]串本・浦神潮位差については、2016/4/1号「潮岬への黒潮接岸判定法は？: 串本・浦神の潮位差」で解説したように、紀伊半島・潮岬で黒潮が接岸→潮位差大、黒潮が離岸→潮位差小という関係があります。過去の串本・浦神潮位差の解説一覧はこちら。↩
  4. [4]東京大学大気海洋研究所の「潮位データを用いた黒潮モニタリング」のグラフで見ると、潮位が高い位置を保っており、黒潮が八丈島の北を流れていることを示唆しています。八丈島の潮位については、「黒潮が八丈島の南を流れているのをどうやって観測で確認するの？」で解説しています。八丈島の潮位の持つ意味は、解説「黒潮大蛇行が終わる時: 2005年の場合」でもとりあげています。↩
  5. [5]図の見方は「深海から黒潮大蛇行のこれからを予測する」を参照↩
  6. [6]東海沖水深1000mの冷水の面積は134°-140°E 30°-34.5°Nの範囲で計算していますが、図1の段階で南にはみ出し、図3の段階で西にはみ出しているので、大蛇行の渦の強さを完全にはとらえられていません。↩

JCOPE2Mは4日毎に更新を行っています(解説参照)。JCOPE2Mの他の予測図についてはJCOPE のweb pageでご参照ください。図の見方は連載: JCOPE2解析・予測画像の見方で解説しています。