12月8日までの黒潮「長期」予測(2020年10月7日発表)

黒潮大蛇行は、2017年の8月に始まってから期間が約3年2か月を越え、史上2番目の長さです。大蛇行から大きく渦がちぎれて大蛇行の特徴を失う可能性がありますが、まだ様子を見る必要があります。小蛇行の動きも注目点です。

高分解能予測JCOPE-T DAの開始にともない、

を行っています。

ここでは12月8日までのJCOPE2Mによる長期予測を解説します[1]。長期予測では、黒潮大蛇行の予測がテーマです。

予測

図1は2020年9月29日の状態の推測値、図2・3は11月8日・12月8日の予測です。黒潮大蛇行の期間は約3年2か月を越え、記録が確かな1960年代後半以降の史上2番目の長さの黒潮大蛇行になっています(最長は1975-80年の4年8か月。「黒潮大蛇行の歴史」参照。)。

東海沖の典型的な黒潮大蛇行が続いています。典型的な黒潮大蛇行には(1)蛇行が大きい(2)紀伊半島・潮岬での離岸(3)八丈島の北を流れるといった特徴があります。

蛇行が大きいというのは北緯32度以南まで蛇行するというのが目安です[2]。黒潮は北緯32度を越えて大きく蛇行しています(図1)。黒潮大蛇行から大きく渦が既にちぎれているか、これからちぎれる可能性があります(図1,2)[3]。ちぎれた渦は先週の予測よりも遠くに離れるという予測になっています。実際にこのようにちぎれると黒潮は大蛇行ではなくなりますが(図2,3)、渦のちぎれは過大に予測される場合があり(例えば「2020年6月の予測を検証します 」)、まだ様子を見る必要があります。より高分解能のJCOPE-T DAを使っている短期予測のほうでは、10月16日の時点ではまだ渦がちぎれるとは予測していません。

黒潮は潮岬で離岸しています(B)。串本と浦神の日平均潮位差(気象庁)も小さいままであることから、離岸が継続していることがわかります[4]。渦が予想どおりちぎれると、黒潮が潮岬に接岸します(図2,3)。短期予測でも黒潮が潮岬に近づくと予測しており、潮岬の状況がこれからのチェックポイントになります。

黒潮は八丈島の北を通過する流路が続くと予測しています(C)[5]。八丈島の南を流れる流路が長期化、つまり大蛇行を作る反時計回りの渦が八丈島を越えて東に移動するのが黒潮大蛇行の通常の終わり方ですが、いまのところ予測されていません。

小蛇行(D)の影響で、四国の室戸岬・足摺岬で大きな黒潮の離岸が続きすが、室戸岬に近づく時期があると予測しています(図1~3)。小蛇行が発達して次の大きな蛇行になる可能性もあります。

図4は、2020年9月29日から12月8日までの予測をアニメーションにしたものです。

Fig1

図1: 2020年9月29日の推測値。矢印(ベクトル)は海面近くの流れの向き(メートル毎秒, 長いほど速い流れ)、色は海面高度(メートル, 相対値)。赤丸()が八丈島の位置。海面高度が低いところは海面水温が低いおおまかな関係があります。

 

Fig2

図2: 図1に同じ。ただし11月8日の予測値。

 

Fig3

図3: 図1に同じ。ただし2020年12月8日の予測値。

 


図4: 2020年9月29日から12月8日までの予測のアニメーション。クリックして操作してください。途中で停止もできます。

黒潮大蛇行を作る渦の強さ

図5は、黒潮大蛇行を作る冷水渦の強さの指標です[6]。東海沖水深1000mの冷水の面積の指標を3℃以下から、3.3℃以下に変更しています。

黒潮大蛇行を作る渦は弱まっています(黒太線)。最新の予測(赤線)は、先週(黒点線)よりもさらに弱くなる予測になっています。

Fig5

図5: JCOPE2Mで推定と予測した冷水面積(東海沖水深1000mで水温3.3℃以下の海域の面積)の1日ごとの時系列。黒潮大蛇行を作る冷水渦の強さの指標。単位は104平方キロメートル。黒線は観測を取り入れつつ推定した値。赤線が最新の予測。


  1. [1]2020/4/15日号の予測より、予測モデルへの海面高度観測のデータの入れ方を変更しています。
  2. [2]海上保安庁の用語の説明参照。http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/KAIYO/qboc/exp/yougo.html
  3. [3]この原稿を書いている時点で、海上保安庁は既にちぎれているとし、水産系の研究所の診断ではまだちぎれていないと診断しています。
  4. [4]串本・浦神潮位差については、2016/4/1号「潮岬への黒潮接岸判定法は?: 串本・浦神の潮位差」で解説したように、紀伊半島・潮岬で黒潮が接岸→潮位差大黒潮が離岸→潮位差小という関係があります。過去の串本・浦神潮位差の解説一覧はこちら
  5. [5]東京大学大気海洋研究所の「潮位データを用いた黒潮モニタリング」のグラフで見ると、潮位が高い位置を保っており、黒潮が八丈島の北を流れていることを示唆しています。八丈島の潮位については、「黒潮が八丈島の南を流れているのをどうやって観測で確認するの?」で解説しています。八丈島の潮位の持つ意味は、解説「黒潮大蛇行が終わる時: 2005年の場合」でもとりあげています。
  6. [6]図の見方は「深海から黒潮大蛇行のこれからを予測する」を参照


JCOPE2Mは4日毎に更新を行っています(解説参照)。JCOPE2Mの他の予測図についてはJCOPE のweb pageでご参照ください。図の見方は連載: JCOPE2解析・予測画像の見方で解説しています。