黒潮はからく、親潮はあまい (親潮ウォッチ2017/05)

黒潮に由来する暖水渦は弱まり、親潮の勢力が強まっています。黒潮の影響は塩分の高い(“からい”)水、親潮の影響は塩分の低い(“あまい”)水としても区別できます。

全体的な状況

まず、日本周辺の水温状況を見てみましょう。図1は、2017年4月7日(親潮ウォッチ2017/04で解説)と、2017年5月5日の、海面水温の平年との差を見たものです[1]。平年は1993から2012年の20年間の平均で、それより高い場所が赤っぽい色、低い場所では青っぽい色になっています。

日本海(図中C)では平年より高温の状態が続いています。日本海の高水温については2017/2/8号「対馬暖流が強く大雪?」で解説しました。

日本南岸では、黒潮の離岸流路(図中D)や小蛇行(図中E)が発達するにつれて、それらの影響で低温が目立っています。最新の黒潮予測を参照してください。

東北沖と北関東沖の高水温(図中のAとB)は、4月7日(図1上段)の段階で弱まりつつあることを親潮ウォッチ2017/04で解説しました。5月5日には(図1下段)、さらに弱まっています。以下でくわしく見ることにします。

Fig1

図1: 海面温度の平年(1993年から2012年の平均)との差(℃)。[上段]2017年3月5日。[下段] 2017年4月7日。

 

暖水渦弱まる

図2左は、2017年4月7日の親潮付近での海面水温(色)と流速(矢印)を見た図です。図3左は、2017年5月5日の図です。東北沖に位置していた暖水渦(図中A)は、先月から今月にかけて南下し、弱まっています。黒潮続流域にある渦(図中B)も、やや規模が小さくなっています。つまり、黒潮から来た水である暖水渦の影響は弱まり、かわりに冷たい親潮の影響が強まっています。ただ、4月から5月にかけて夏に近づいたため、海面水温自体は上昇しており、冷たい水である親潮の影響は少しわかりにくくなっています。そこで、次に塩分を見てみることにします。

Fig1

図2: (左)JCOPE2Mによる2017年4月7日の親潮から黒潮続流域の海面水温(色、℃)と流速(矢印、メートル毎秒)。(右)同じく塩分(色)と流速(矢印、メートル毎秒)。塩分34は3.4%の塩水に対応。

 

Fig3

図3:図2の2017年5月5日に対応する図。

 

黒潮はからく、親潮はあまい

黒潮と親潮の影響は、水温だけでなく、塩分の違いによっても見れます。黒潮から流れてきた水は塩分が高く[2]、親潮から流れてきた水は塩分が低い[3]という特徴があるからです。これらを指して、黒潮の水は”からい”、親潮の水は”あまい”と表現することがあります。黒潮の塩分が高いのは、黒潮が、雨が相対的に少なく蒸発が多い亜熱帯から流れてくるためです。親潮の塩分が低いのは、親潮の源流である亜寒帯が低気圧が通りやすい海域で雨が多く、塩分が薄まるからです。また、大陸からの河川水が流れこむことで特に塩分が低くなっているオホーツク海の水が親潮に入っていることも、塩分の低下に寄与しています。

図2右の色は4月7日の塩分を、図3右の色は5月5日の塩分をしめしています。赤っぽい色が塩分が高く、青っぽい色が塩分の低い水です。南の黒潮に近い水は塩分が高く、北の親潮域の塩分は低くなっています。暖水渦は黒潮域から来ている水なので、塩分が高くなっています。図2右と図3右を比較することで、先月から今月にかけて塩分の高い黒潮系の暖水渦が南に後退し、代わりに塩分の低い親潮系の水が勢力を広げていることがわかります。

図4は水温(左)と塩分(右)の比較の図を2017年1月1日から5月5日までアニメーションにしたものです。黒潮系の水である高塩分の暖水渦が南に後退し、低塩分の冷たい親潮系の水が広がる様子に注目して見てください。


図4: 親潮から黒潮続流域の海面水温(左)と海面塩分(右)を2017年1月1日から5月5日まで見たアニメーション。左右ともJCOPE2Mの解析値から(1日平均)。JCOPE2Mの流速も矢印でしめしている。クリックして操作してください。途中で停止もできます。

 

5月5日からの予測

図5は、JCOPE2Mによる親潮域の水深100mの水温(左図)と平年(1993から2012年の平均、右図)を比較しています。水温5度の等値線が親潮の勢力の指標になっています。暖水渦の影響が消え、東北沖の沿岸近くで親潮が入りやすくなっています(親潮第一分枝[4]; 図5右の矢印)。

図6は、図5に対応する5月5日から7月6日までの予測をアニメーションにしたものです。親潮域の水深100mの水温(左図)と平年(1993から2012年の平均、右図)を比較しています。暖水渦や、親潮の勢力の指標である水温5度の等値線に注目して見てみてください。親潮第一分枝が例年よりも南下すると予測しています。

Fig4

図5: 親潮域の水深100mでの2017年5月5日の水温のJCOPE2Mによる推測値(左図)と、平年(1993から2012年のJCOPE2再解析の平均、右図)の比較。親潮域の指標として水温5度に黒太線で等値線をひいてあります。

 


図6: 親潮域の水深100mでの2017年5月5日から7月6日までの水温のJCOPE2Mによる予測(左図)と、平年(1993から2012年のJCOPE2再解析の平均、右図)の比較のアニメーション。親潮域の指標として水温5度に黒太線で等値線をひいてあります。クリックして操作してください。途中で停止もできます。

 

JCOPE2Mによる推定によれば、親潮の勢力の指標である親潮面積(図5の点線領域での水深100メートルの水温5度以下の水の広がり)[5]は、5月初頭の現在の値(図7の青線)が、平年(黒細線)よりも大きくなっています。親潮面積が大きいということは、親潮の勢力が強く、水温が冷たいことを意味します。

予測(図7の青点線)を見ると、沿岸寄りの親潮(親潮第一分枝)が南下する一方で沖合の親潮(親潮第二分枝)の南下が弱まるので(図6)、いったん平年並み(黒細線)に近づくと予測しています。

Fig7

図7: 親潮面積の時系列(単位104 km2)。赤線が2015年1月から現在までのJCOPE2再解析から計算した時系列。黒細線は平年(1993-2012年)の季節変化。灰色の範囲は平均からプラスマイナス標準偏差の範囲。2016年10月からは、JCOPE2再解析の代わりに、新モデルであるJCOPE2Mによる値(青実線)を使用。青点線は2017年5月5日からのJCOPE2Mによる予測。

  1. [1]今年の値はJCOPE2Mを、平年の値はJCOPE2再解析を使用しています。
  2. [2]取材協力した「池内博之の漂流アドベンチャー 黒潮に乗って奇跡の島へ」で、黒潮の塩分が高いという描写がありました。
  3. [3]親潮が塩分が低いことについては、2015/08/07号「親潮は甘い」で解説しました。
  4. [4]親潮第一分枝・第二分枝については、親潮はどんな流路になっているの?(親潮ウォッチ2015/7)で解説しています。
  5. [5]親潮面積については、「親潮が記録的なあたたかさ(親潮ウォッチ2015/9)」で解説しています。

oyashio-mini2

黒潮親潮ウォッチでは、親潮の現状について月に一回程度お知らせします。親潮に関する解説一覧はこちらです。 JCOPE-T-DAによる短期予測はJAXAのサイトで見ることができます。 4日毎に更新されるJCOPE2Mによる親潮の長期解析・予測図はJCOPE のweb pageで見られます。親潮関係の図の見方は2017年1月18日号2017年2月1日号で解説しています。