2018年9月13日から11月15日の黒潮予測(9月19日発表)

黒潮は、東海沖で大きく蛇行しています(黒潮大蛇行)。東海沖の蛇行のために、紀伊半島・潮岬でも離岸しています。黒潮は八丈島の北を流れる流路に戻っています。四国・室戸岬では黒潮が離岸し、足摺岬では接岸しています。房総半島には黒潮が近づいています。黒潮大蛇行は継続するでしょう。黒潮大蛇行を作っている冷水渦の強さは先週より強くなっています。

JCOPE2の改良版であるJCOPE2M週2回の予測を行っています。ここでは2018年9月13日から11月15日までの予測を解説します。

現状

図1と図2はJCOPE2Mで計算した2018年9月13日と9月19日の黒潮の状態です。

黒潮は東海沖で非常に大きく離岸しており、黒潮大蛇行と呼ばれる状態になっています[1](図1,2)。大蛇行にともない、紀伊半島・潮岬でも離岸しています通常の大蛇行時には、蛇行を作っている反時計回りの大冷水渦の北側では東海沿岸で西向きに暖水が入りやすくなります[2]。図8も参照してください。

房総半島沖には黒潮が近づいています(接岸傾向u[3]、図1,2)。

少なくとも黒潮の一部が八丈島()の南を流れる流路になっていましたが(図1、離岸傾向v)、八丈島の北を流れる流路に戻っています(図2)。

四国・室戸岬では、黒潮が離岸しています。足摺岬では接岸しています(接岸傾向a、図1,2)。

FIg1

図1: 観測値を取り入れて作成した2018年9月13日の推測値。矢印(ベクトル)は海面近くの流れの向き(メートル毎秒, 長いほど速い流れ)、色は海面高度(メートル, 相対値)。赤丸()が八丈島の位置。海面高度が低いところは海面水温が低いおおまかな関係があります。

 

Fig2

図2: 9月19日の予測値。

 

予測

図3・図4・図5・図6は9月26日・10月3日・10月16日・11月15日の予測です。

東海沖の黒潮大蛇行は続くでしょう(図3~6)。紀伊半島・潮岬での離岸も継続するでしょう(図3~6)。黒潮大蛇行については次の節で詳しく見ています。

四国・室戸岬は黒潮の離岸が続くと予測しています。足摺岬では接岸かやや離岸を予測しています(図3~5)。これらの傾向は10月末から変化する可能性があります(図6)。房総半島沖では、離岸傾向の通過にともない、離岸が拡大する時期がありそうです(図3, 4)。

図7は、9月13日から11月15日までの予測をアニメーションにしたものです。

Fig3

図3: 9月26日の予測値。

 

Fig4

図4: 10月3日の予測値。

 

Fig5

図5: 10月16日の予測値。接岸・離岸の記号は略。

 

Fig6

図6: 11月15日の予測値。接岸・離岸の記号は略。

 


図7: 2018年9月13日から11月15日までの予測のアニメーション。クリックして操作してください。途中で停止もできます。

黒潮の大蛇行は今後どうなるか?

この欄では黒潮大蛇行の今後を検討します。図8下段にしめした図が典型的な黒潮大蛇行になった場合のイメージです。典型的な黒潮大蛇行には(1)蛇行が大きい(2)紀伊半島・潮岬での離岸(3)八丈島の北を流れるといった特徴があります。特徴をひとつずつ見てみましょう。

蛇行が大きいというのは北緯32度以南(図8の赤点線)まで蛇行するというのが目安です[4]。図8上段と中段の色は、「ひまわり8号」が観測した海面水温[5]です(9月14日と9月17日)。冷水が北緯32度よりも南に広がっていることから、蛇行が大きいことがわかります。流れを見ると、北緯32度を越えて黒潮が大きく蛇行しています。予測では、大きな蛇行はまだ続きます(図3~6)。予測では、大蛇行から冷水渦の一部が切離する可能性があります(図6)。

黒潮は潮岬で離岸しています(図8上段・中段、黒潮の高水温が潮岬から離れている)。串本と浦神の日平均潮位差(気象庁)も小さいままであることから、離岸が継続していることがわかります[6]

黒潮は少なくとも一部が八丈島の南を流れる流路でしたが、八丈島の北を流れる流路に戻っています。東京大学大気海洋研究所の「潮位データを用いた黒潮モニタリング」のグラフで見ると、八丈島の潮位は上昇しており、[7]、黒潮が八丈島の北を流れるようになっていることを示唆しています。八丈島の潮位の持つ意味は、解説「黒潮大蛇行が終わる時: 2005年の場合」でもとりあげています。八丈島の南を流れる流路(八丈島の水位が低下)が長期化すれば黒潮大蛇行が終息に向かう可能性がありますが、先週の予測通り離岸傾向vの通過にともなう一時的なものでした(三宅島では離岸傾向vの接近によって水位が低下し、黒潮の流路は島の南に移っています)。今後は八丈島の北を流れる流路が続くと予測しています(図3~6)。

Fig8

図8:[上段] 色は、9月14日に「ひまわり8号」が観測した海面水温(℃)。★は八丈島の位置。白くなっているところは雲がかかって観測できなかった所。矢印(ベクトル)は、JCOPE2Mで計算した海面近くの流れの向き(メートル毎秒, 長いほど速い流れ)。[中段] 同じく9月17日。[下段]典型的大蛇行になった場合の流れのイメージ。

 

図9は、水深1000mの水温3℃以下の海域の面積(冷水面積)による、黒潮大蛇行を作る冷水渦の強さの指標です(図の見方は「深海から黒潮大蛇行のこれからを予測する」を参照)。黒太線は解析値(観測を取り入れて実際に近いと考えられる値)で、先週の予測(黒点線)よりも大幅に上昇しています。最新の予測(赤線)では、先週の予測(黒点線)よりも大きな値が続くと予測しています。冷水渦の強さがかなり回復したので、大蛇行が仮にこれから次第に弱まったとしても、黒潮大蛇行は当分続きそうです。

Fig9

図9: JCOPE2Mで推定と予測した冷水面積(東海沖水深1000mで水温3℃以下の海域の面積)の1日毎の時系列。黒潮大蛇行を作る冷水渦の強さの指標。単位は104平方キロメートル。黒線は観測を取り入れつつ推定した値。赤線が最新の予測で、青線が一つ前、黒点線が2つ前の予測(先週の予測)。参考のために、8月に大蛇行が終了した2005年の大蛇行の時の時間変化を薄い線で重ねた。


  1. [1]黒潮大蛇行の記事のまとめはこちら
  2. [2]黒潮大蛇行時の東海沿岸への暖水進入については2017/9/13号「黒潮大蛇行で浸水被害?」を参照。
  3. [3]接岸と離岸の傾向を上流から一連のアルファベットで図示しています。赤字u,w,,が接岸傾向で、青字t,v,,が離岸傾向です。黒潮上に接岸・離岸傾向は交互にあらわれており、黒潮が波うっている様子をあらわしています。接岸・離岸傾向は黒潮の流れで下流に流されます。アルファベットは図1から図4まで共通で(前号とも共通ですが、あらためて記号を振り直したところもあります)、同じアルファベット、たとえば離岸傾向vが、上流から下流に位置が動いていることをしめしています。
  4. [4]海上保安庁の用語の説明参照。http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/KAIYO/qboc/exp/yougo.html
  5. [5]「ひまわり8号」の海面水温はJAXA提供のデータです。2015/10/9号・気象衛星「ひまわり8号」で見た黒潮を参照してください。鹿児島県水産技術開発センター和歌山県水産試験場三重県水産研究所からも「ひまわり」の画像が公開されています。過去の「ひまわり8号」の水温データを使った解説一覧はこちら
  6. [6]串本・浦神潮位差については、2016/4/1号「潮岬への黒潮接岸判定法は?: 串本・浦神の潮位差」で解説したように、紀伊半島・潮岬で黒潮が接岸→潮位差大黒潮が離岸→潮位差小という関係があります。過去の串本・浦神潮位差の解説一覧はこちら
  7. [7]八丈島の潮位については、「黒潮が八丈島の南を流れているのをどうやって観測で確認するの?」で解説しています。


JCOPE2Mは4日毎に更新を行っています(解説参照)。JCOPE2Mの他の予測図についてはJCOPE のweb pageでご参照ください。図の見方は連載: JCOPE2解析・予測画像の見方で解説しています。