がっつり深める

東日本大震災から10年

<第2回>断層のすべりは海溝軸にまで達した

「ドローン」を使っての観測を目指す

観測点は少ないけれど確実な数値を出せる木戸さんのGPS-Aや海底水圧計、そして誤差は大きいけれど広範囲をカバーできる冨士原さんの海底地形調査、双方が補い合って巨大地震の驚くべき特徴が明らかになりました。これらの手法を、二人はさらに磨いていきたいと考えています。

「地形の変化が確実にとらえられることがわかったので、私の希望としては、今後は定期的に重要な場所のデータをとり続けて(毎年比べるということを)やりたい。あわよくば地震と地震の間の変動もとれると、うれしいんですけどね」と冨士原さんは言います。誤差を減らすために、観測の方法なども工夫していくようです。

木戸さんらは東北沖地震の後、GPS-Aの観測点を大幅に増やしました。現在は日本海溝沿いに20ヵ所設置されています。海上保安庁が新設したものを合わせると、全部で29ヵ所になります。水深が深いため設置が難しかった海溝軸のすぐ近くにも、技術的な課題を克服していくつか並べました。

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本記事掲載時点で、東北沖に設置されているGPS-Aの観測点。黒い丸が東北大学、灰色の丸が海上保安庁によって設置された観測点。 提供/木戸元之 氏

しかし木戸さんは、それで満足していません。やはり冨士原さんと同じように、できれば地震と地震の間に起きている変化も調べたいのです。それによって東北沖地震の性質についてはもちろん、次に起きるかもしれない地震についても、より多くのことがわかるかもしれないからです(これについては次回以降に触れる予定です)。しかし地震間の動きの変化を細かく見るには、もっと観測頻度を上げなければなりません。

とはいえ資金的にも人員的にも、今より頻繁に観測するのは難しくなっています。そこで人が船で行くのではなく、無人ボートのようなもの(一種の海上ドローン)を使って、自動的に観測させていけるシステムを、JAMSTECと共同で開発しようとしています。それが完成すれば1年中、海を走らせて観測させることもできるでしょう。

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木戸さんらが自動観測システムで用いようとしている、ドローンのようなもの。JAMSTECと共同で開発を進めており、無人海上観測機「ウェーブグライダー」と呼ばれている。波の力で進むため燃料を必要とせず、1年中、海上を走らせることができる。2020年6月から7月にかけての約40日間、東北大学が設置したGPS-Aの観測点を単独で自動的に巡回し、14の観測点でそれぞれの位置を測定することに成功した。暫定的な解析結果によれば、その精度は有人の船で測定した場合と同程度だった。 提供/木戸元之 氏

「将来的にそういったものを大量に投入できるような状態にもっていきたいなと。そうすると今まで船で測ってきたときに比べたら、ぜんぜん次元のちがう頻度で観測ができますので、全く種類の異なるデータがとれるのではないかと期待しています」と木戸さんは胸を膨らませていました。(次回に続く)

藤崎慎吾(ふじさき・しんご)

1962年、東京都生まれ。米メリーランド大学海洋・河口部環境科学専攻修士課程修了。科学雑誌の編集者や記者、映像ソフトのプロデューサーなどを経て、99年『クリスタルサイレンス』(朝日ソノラマ)でデビュー。同書は早川書房「ベストSF1999」国内篇第1位となる。現在はフリーランスの立場で、小説のほか科学関係の記事やノンフィクションなどを執筆している。近著に《深海大戦 Abyssal Wars》シリーズ(KADOKAWA)、『風待町医院 異星人科』(光文社)、『我々は生命を創れるのか』(講談社ブルーバックス)など。ノンフィクションには他に『深海のパイロット』、『辺境生物探訪記』(いずれも共著、光文社)などがある。

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