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海と地球の“深”知識

マントルは、溶岩ではなく、宝石。

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阿部 なつ江

研究プラットフォーム運用開発部門 マントル掘削プロモーション室  主任研究員
地球の深部を探求し続け、「マントル岩石学者」と自称する研究者 。海洋地球研究船「みらい」、地球深部探査船「ちきゅう」を用いた世界的な研究航海にも赴き、数々の研究成果を発表している。

マントルは、キレイな緑色の石でできている。

地球の断面図では、マントルはよく赤色に塗られています。そのせいか、マントルと聞くと、ドロドロに溶けたマグマのような赤色をイメージする人が多いようです。

しかし、実際は違うということが解ってきました。地球の体積の実に約83%を占めるマントルは、かんらん岩という重い岩石でできていると考えられています。かんらん岩を構成する主な鉱物は、「かんらん石」と呼ばれ、透き通った宝石でもある緑色の石。つまり、マントルは赤色ではなくキレイな緑色なのです。

マントルは高温・高圧の状態にあり、溶けてはいないものの、柔らかく変形します。このため、地球の表面を作っている硬い岩石プレートがその上で動くことができます。マントルは、プレートテクトニクスや、生命の誕生と進化など、科学分野の最も根本的な疑問を解き明かすカギを握っているのです。

地球の断面図
地球は、地殻・マントル・核からできており、マントルは、地球の体積の83%、質量の67%を占めています。
写真
マントルを構成する主要な鉱物「かんらん石」(左)と「かんらん岩」(右)。
地表にキレイな結晶で現れたものは、8月の誕生石「ペリドット」となります。

人類初のマントルへの到達を目指して。

マントルへ到達することは、地球科学で最も挑戦的な課題の一つです。マントルまでの深さは、大陸の地表からは約40km、海底からは約6kmと考えられており、海底を掘る方が近道です。そこで、1961年にはアメリカが世界で初めて、海底を掘ってマントル到達に挑戦。到達はできなかったものの多くの成果を持ち帰り、地球科学の新しい扉を開きました。

より高性能な探査船を求める機運が高まる中、2005年に建造されたのが、地球深部探査船「ちきゅう」です。「ちきゅう」は、世界各地で海底下の探査を行い、 地球科学の最先端で活躍を続けています。

将来、 「ちきゅう」によって人類初のマントル到達を達成して、さまざまな観測データを得ることができれば、海洋・生物・大気・宇宙の観測データと統合することにより、地球システムを統合的に理解することができます。私たち研究者は、その日が来ることを夢見ながら、日々、さまざまな研究活動を進めています。

写真:地球深部探査船「ちきゅう」
「ちきゅう」は、ライザー掘削システムによってマントルまで到達する能力を備えた地球深部探査船。
2018年には、和歌山県沖での南海トラフの調査中に、科学掘削の世界最深記録を更新(海底下3262.5m)しました。

ここが深知識!

マントルは、かんらん岩という、宝石を含む岩石でできている。
日本は、マントルへ到達する能力を持つ探査船「ちきゅう」を擁し、世界各国と協力して、地球深部の研究活動を進めている。

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