台風通過する (親潮ウォッチ2016/09)

水温の全体的な状況と台風

姉妹サイト「季節ウォッチ」が「2016年6月号:負のインド洋ダイポール現象が発生」で予測していたように、今年の夏は暑い日が続き、日本周辺の水温は高い状態でした。水温の全体的な状況を見てみましょう。図1は、8月6日と9月3日の海面水温が平年(1993から2012年の20年平均)より高いか(赤っぽい色)、低いか(青っぽい色)をJCOPE2のデータを用いて見たものです。#

8月12日号で見たように、8月6日(図1上段)の段階で、日本の周辺のほとんどの場所で平年より水温が高い状態でした。8月12日号では特に東北沿岸(図のB周辺)や北海道沿岸(図のA周辺)について解説しましたが、沖縄周辺や日本海でも高い水温が見られました(※1)。

日本周辺の海がこのような状態の中、8月には複数の台風が日本に上陸または接近し、各地に多くの被害をもたらしました(※2)。図1の下段には8月に日本に近づいた台風5,6,7,10,11号の経路をしめしています(※3)。

図1の下段には、9月3日の水温の状態もしめしています。日本南方(図1上段のC周辺)では、後述するように台風10号の通過した領域では海が台風の風の影響により水温が低下しています(※4)。

一方で、東北沿岸(図のA周辺)や北海道沿岸(図のB周辺)では、台風がいくつも通過したにも関わらず、引き続き平年よりも水温がかなり高い状態が続いています(図1下段)。先月の2016/8/12号「今年のサンマは?(親潮ウォッチ2016/08)」でも解説したように、これらの海域の高い水温は海流の影響を受けて海の深いところまで広がっており、台風が少々かき混ぜたくらいでは水温が下がりにくいに状態になっているためです。このように高い水温が維持されたことが、北海道や東北に上陸した台風が勢力を保つ原因にもなりました(NHKクローズアップ現代+ 「台風“異変” 迫る脅威」)。

図1上段Dの領域も、平年よりかなり温度が上昇しました(図1下段)。北海道や東北に近づく経路の台風が多くなった原因である大気の停滞する高気圧(ブロッキング高気圧 ※5)の存在により、日射が多かったことと関係しています。

日本周辺には海水温が平年より高い所がまだ残っており、引き続き台風には注意が必要です(NHKクローズアップ現代+ 「“常識”が通用しない!?~徹底検証・台風“異変”~」)。

図1: JCOPE2再解析による海面温度の平年(1993年から2012年の平均)との差(℃)。[上段]2016年 8月6日。[下段] 2016年9月3日。色線は8月に日本に近づいた台風5,6,7,9,10,11号の経路。台風の経路のデータはデジタル台風から入手した。


台風の通過と海面水温

図2に、8月5日午前9時から9月1日午前8時までの台風の位置と水温をアニメーションにしました(※6)。台風がどのような水温の上を通ったかがわかります。


図2: 台風の号の5・6・7・9・10・11号の中心位置と海面水温のアニメーション。2016年8月5日午前9時から­9月1日午前8時(日本時間)。色がJCOPE-T(※7)による海面水温(ºC)の推定値­。★印が台風の中心位置。数字は台風の号数(たとえば5は台風5号)。台風の経路のデータはデジタル台風から入手した。クリックして操作して下さい。途中で停止することもできます。

 

特に台風10号について見てみましょう。台風10号は、東北に近づいて上陸する前に、西進して日本南方で停滞しました(図4)。温度の高い場所で停滞したことが、台風10号が強い台風に発達することにつながりました。一方で、台風が発達することで、その強い風の影響を受けて水温が低下しました(台風による水温低下については、2015/7/24号「台風の通ってきた海」参照)。この水温低下は台風の発達をある程度抑制したと考えられます。このような天気と海の複雑な関係が、台風の発達の予測を難しくします(2016/06/03号「書籍紹介「天気と海の関係についてわかっていることいないこと」参照)。

図4:

図4: 図3のアニメーションから8月26日午前10時を抜き出した図。

 


最近の黒潮続流と親潮

東北沖(図1のA周辺)の高温には黒潮続流の状態が、北海道南東(図1のB周辺)の高温に親潮の状態が反映されています。海流の影響をよく見るために、2016年9月3日の水深100メートルでの水温と流速を図4左にしめします。比較のために、図4右には、平年(1993から2012年の20年平均)の値をしめします。

2016/07/22号「暴れる黒潮続流」で解説したように、今年の黒潮続流(図4左)は平年より(図4右)大きく蛇行しながら流れています。この蛇行とそこから切り離される暖水渦(図4左のW1やW2やW3)のために、黒潮から流れてきた水が東北沖に入りやすくなっており、水温が高くなる原因となっています。

次に親潮を見ると、暖水渦が居座っているために(図4左のW4)、沿岸で親潮が南下しておらず、平年(図4右)の親潮第一分枝(OY1 ※8)にあたるものが小さい、またはほとんどありません。これが親潮域で平年より水温が高くなっていることに貢献しています。

Fig4

図4: a) JCOPE2による2016年9月3日の水深100メートルでの温度(色, ℃)と流れ(矢印, メートル毎秒)。b) 平年(1993年から2012年の平均)の9月3日の温度と流れ。

 

親潮の勢力の指標である親潮の面積(図4の点線領域での水深100メートルの水温5度以下の水の広がり)の時間変化を見ると(図5の赤線)、親潮域の高温について触れ始めた昨年2015年の5月頃(2015/5/22号「親潮域があったかくなっているって聞いたけど?」)から、平年(黒細線)のはるか下、通常の範囲(灰色の範囲)を超えてさらに小さい面積になっています。親潮面積が小さいということは、冷たい水(5度以下)の範囲が狭い、すなわち、親潮域があたたかいことを意味します。今年の6月には平年との差がやや縮まっていましたが(7/22号)、7月以降は再び平年との差が開いています(8/12号)。今後2カ月の予測(図5の青線)でも、平年よりかなり小さい値が続きそうです。

Fig5

図3: JCOPE2再解析データから計算した親潮面積の時系列(単位104 km2)。赤線が2014年11月から現在までの時系列。黒細線は平年(1993-2012年)の季節変化。灰色の範囲は平均からプラスマイナス標準偏差の範囲。

 

親潮面積の8月の月間平均(図6)は、断トツで最小であった昨年よりも小さい、過去1番めに小さい値です。2番目であった7月(8/12号)に比べて順位が上がっています。

Fig6

図4: 親潮の7月平均面積を各年で比較。単位は104 km2。棒グラフの上の数字は1993年以降の小ささの順番。

 


※1 参照:気象庁「臨時診断表 東シナ海、日本海南部などで記録的に高い海面水温」(2016/8/24日発表)。

※2 参照:気象庁「台風第7号、第11号、第9号、第10号及び前線による大雨・暴風 平成28(2016)年8月16日~8月31日(速報)」(2016/9/6日発表)

※3 その後、9月に台風12号、13号が発生しています。

※4 台風の風によって冷やされたのと同時に、台風10号が停滞したことにより日射が少なかった影響もあります。

※5 今年8月のブロッキング高気圧については気象庁資料「平成28年(2016年)8月の顕著な天候と海面水温について」(2016/8/24)、ブロッキング高気圧一般についてはAPLコラム「ブロッキング現象:巨大で静かな「嵐」」(山崎哲)参照。

※6 海面水温と海面気圧による別バージョンのアニメーションをAPL YouTbueチャネルまたは黒潮親潮ウォッチ英語版で見ることができます。

※7 過去のJCOPE-Tを使った解説一覧はこちら

※8 親潮第一分枝、第二分枝については2015/07/03号「親潮はどんな流路になっているの?」で解説しています。

 


黒潮親潮ウォッチでは、親潮の現状について月に一回程度お知らせします。親潮に関する解説一覧はこちらです。週に2回更新される最新の親潮の解析・予測図はJCOPE のweb pageで見られます。親潮関係の図の見方は2017年1月18日号2017年2月1日号で解説しています。

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美山 透

海の変化は、漁業海運エネルギー天候など様々なことに影響します。海洋予測がもっと身近なものになるように、頭をしぼって書いています。