黒潮親潮ウォッチでは2020年も様々なトピックを扱ってきました。黒潮親潮ウォッチの過去の記事一覧はこちら(リンク)で見ることができます。2020年の話題を5大ニュースとして振り返ります。
1) 黒潮大蛇行が3年を超え、史上2番目の長さに
2017年8月に始まった黒潮大蛇行は今年も続き、1981-1984年の2年7か月の記録を越え、観測史上2番目の長さになりました。次項で述べる一時的な中断期間を含めると、12月時点で約3年5か月になっています。これより長い黒潮大蛇行は、約40年前の1975-1980年の4年8か月までさかのぼります。黒潮大蛇行の歴史については「黒潮大蛇行の歴史」をご覧ください。
2) 黒潮大蛇行がいったん中断
3年を越えて続き安定していた黒潮大蛇行でしたが、夏頃から渦がちぎれるなど不安定になりはじめました(2020/7/3「黒潮大蛇行から渦がちぎれました」)。10月には渦が大きくちぎれ、黒潮大蛇行が終わっているとも言える状態になりました(2020/10/22「コラム 黒潮大蛇行が終わる!?」)
現在は別の渦と入れ替わる形で大蛇行が再開しています。蛇行は不安定な状態がまだ続いているようですが、予測の度に結果が変わり予測が難しくなっています。今後の変化については最新の予測にご注目ください。
3) 親潮域で暖水渦の影響が続く
親潮の記事は月に一度、親潮ウォッチとして書いてきました。
昨年親潮域にに現れた暖水渦(2020/2/5「2019年の親潮をアニメーションで振り返る」)は、弱まると予測していた時期もありましたが(2020/7/15「暖水渦の影響弱まる? 」)、消えないまま今年も影響が続きました。
仙台管区気象台によれば、北海道から東北沿岸にかけて親潮が影響する面積(親潮面積)の3月から4月の値は、暖水渦の影響で1982 年の統計開始以降で最も小さくなっています[1]。
この暖水渦が2019年台風19号による東北の大雨に関わっていたという研究を行いました[2]。後日紹介する予定です。
4) 夏に日本南方の水温が史上最高
日本周辺の水温の状態を、月1回の「最近の水温の状況」記事で1年間見てきました。
黒潮大蛇行や親潮の影響のため、状況は場所や時期によってまちまちですが、全体的には高い水温が目立ちました。特に8月に入って暑い日が続き、海面では日本南方を中心に平年よりかなり水温が高くなりました(2020/9/23「史上最高の水温、そして台風通過」)。気象庁によれば、関東南東方、四国・東海沖、沖縄の東では、8月の平均海面水温が解析値のある1982年以降で最も高くなりました[3]。わたしたちの海洋モデルJCOPE2Mも一部解析に使われた研究(Hayashi et al. 2020[4])によれば、地球温暖化がこのような記録的な水温の確率を高めています。
他にも、7月の豪雨(2020/7/22「大雨の後」)、台風(2020/9/9「台風9号・10号による海面水温低下」や、JAXAの記事「地球が見える・衛星から台風通過時の海面水温低下を測る」)、12月の豪雪(高い日本海の水温、「最近の水温の状況(2020/12)」)などに水温が関わっていたと考えられます。昨年から始まった、中緯度海洋が気候に果たす役割を明らかにするhotspot2研究プロジェクト(2019/10/23「hotspot2研究プロジェクトがスタート」)の研究も進んでいます[5]。
水温の状況と予測については、姉妹サイトの「季節ウォッチ」もご覧ください。
5) より高い分解能のモデルの開発進む
現在公開している私たちの海洋予測モデルで最も水平分解能が高いモデルは、黒潮短期予測で用いている1/36度(約3km)のJCOPE-T DAですが、より高い分解能の1/120度(約1km)のモデルや、さらに高い分解能の1/500度(約200m)のモデルの開発も進めています。その一端は「2020/6/30掲載: 静岡新聞朝刊「サクラエビ異変/駿河湾の海洋予測モデル構築」で紹介しています。来年から結果をご紹介できるよう開発を進めていますので、ご期待ください。
- [1]「3~4月の親潮面積が最小を記録しました」(pdf, 仙台管区気象台, 2020年5月28日)↩
- [2]Iizuka, S., R. Kawamura, H. Nakamura, and T. Miyama (2021), Influence of Warm SST in the Oyashio Region on Rainfall Distribution of Typhoon Hagibis (2019), SOLA, doi:10.2151/sola.17a-004.
私(美山)も共著者に加わっています。↩ - [3]「臨時診断表 日本の南を中心に海面水温が過去最高を記録」(気象庁, 2020/9/1)↩
- [4]Hayashi, M., H. Shiogama, S. Emori, T. Ogura, and N. Hirota, 2020: The Northwestern Pacific Warming Record in August 2020 Occurred under Anthropogenic Forcing. Geophys. Res. Lett., doi:10.1029/2020gl090956.
↩ - [5]hotspot2研究成果紹介・用語解説・業績一覧。↩