最近の水温の状況
最近の日本周辺の海面の水温の状況を見てみます。
図1は、今年11月18日と12月16日の海面の水温の平年との差を見たものです[1]。平年より高い場所が赤っぽい色、低い場所では青っぽい色になっています。図2は、同じく水深100mの図です。水深100mでも海面と同じ変化が見られれば、水温の平年との差が天気だけでなく海流の影響を受けている可能性が高くなります。
日本周辺のほとんどの海域で平年より高い水温になっています。
特に暖水渦の影響を受けている東北沖・北海道南東(C)や黒潮続流の影響を受けている海域(E)では、海面も海面下も平年より高い水温になっています(「記録的な高水温」(親潮ウォッチ2022/12)参照)。
日本海では海面も海面下も平年より海面水温が高くなっています。海面下まで水温が高いことで、海面の水温が低下しにくくなっています。日本海の水温が高いことは大気の要因と共に日本海側の大雪の一因になっている可能性があります(「対馬暖流が強く大雪?」参照)。
日本海の水温が高い原因として対馬暖流が強いことが考えられます。実際、今年の対馬暖流は平年より強くなっています(図3)。
日本海の水温と雪や対馬暖流についてはhotspot2研究プロジェクトで研究が進んでいます(「hotspot2研究プロジェクトがスタート」参照)。
- 立花 義裕, 柏野祐二, 本田明治, 西川はつみ (2022/02/21): 豪雪をもたらすJPCZを日本海洋上観測で初めて捉えた―1時間毎の気球観測に成功―.
- 西川はつみ 2022年冬期日本海観測
- 山崎哲, 山中晴名, 春日 悟, 川瀬 宏明, 気象庁気象研究所: 用語解説「JPCZ」
- 木田新一郎 対馬海流の流量が増加している
気象庁の資料でも水深100m水深の温度は平年より高く推移しています(対馬暖流の勢力)。また、日本海南部の海面水温が1982年以降で11月としては最も高くなったと発表しています[2]。
黒潮大蛇行の冷水渦(A)で平年よりかなり冷たい水が存在します(図1, 2)。また、黒潮大蛇行の影響で黒潮が関東・東海沖近くを流れ、沿岸で平年より温度が高くなっています(図1,2 B)[3]。
今後の日本周辺の水温については、「季節ウォッチ」も参考にしてください。
海洋熱波・海洋寒波
海洋熱波とは、数日から数年にわたり急激に海水温が上昇する現象です。その発生頻度は過去100年間で大幅に増加しており、海洋生態系に与える影響が危惧されています([プレスリリース] 北海道・東北沖で海洋熱波が頻発していることが明らかに)。
図4は、海洋熱波でよく用いられている基準[4]を使って日本周辺の海面での海洋熱波・寒波の発生状況を見たものです。同じく、図5は水深100mでの海洋熱波・寒波の発生状況です。
数字が1以上になっている所が統計的に10%以下しか発生しない高い温度である海洋熱波が発生している所です。数字が大きいほど強い海洋熱波であることをしめしています。図1,2(b)が平年よりどれだけ水温が高いのかを温度差でしめしているのに対し、図3,4はその中でもまれな温度変化をしめしています。
日本周辺の海面(図4)では、北日本東方、日本海、北関東沖、東海沿岸、東シナ海などが海洋熱波になっています。黒潮大蛇行による冷水渦では厳しい海洋寒波になっています。
水深100m(図5)では、北日本東方、日本海、北関東沖、東海沿岸、東シナ海などが海洋熱波になっています。特に日本海北方では厳しいから極端な海洋熱波です。黒潮大蛇行による冷水渦では極端な海洋寒波になっています。
- [1]この記事では、今年の値はJCOPE2Mを使っています。平年の値はJCOPE2M再解析の1993~2020年の平均を使っています。JCOPE2M再解析データは学術研究利用では無償で公開しています。↩
- [2]「臨時診断表 北海道南東方、本州東方、日本海南部の海面水温が11月として過去最高」(2022年12月2日 気象庁発表)↩
- [3]「黒潮大蛇行で夏の関東蒸し暑く」(杉本周作、新学術研究領域・気候系のHOTSPOT2研究成果紹介)↩
- [4]JCOPE2Mの1993~2020年のデータを使い、統計的に10%以下(90パーセンタイル)の高温が5日以上続いた場合に海洋熱波としています。平年との差が海洋熱波の基準(90%タイルと気候平均の差)の2倍以上である場合は2,3倍以上である場合は3とカテゴリー化しています。逆に統計的に10%以下(10パーセンタイル)の低温が5日以上続いた場合には海洋寒波としています。↩