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世界水準の科学研究が、次々に生まれるヒミツは? 高知コア研究所の異分野研究者たちが語る「独創的な研究ができる理由」

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取材・文:岡田 仁志

創立20周年を迎えたJAMSTEC高知コア研究所には、世界に3ヵ所しかない海底下地質試料・コアの保管庫があります。その保管庫に研究施設が併設されているのは世界でもここだけ。地震研究、微生物学、岩石学や鉱物学、さらには小惑星「リュウグウ」の試料分析など、世界水準の科学研究が行われていることでも知られています。さまざまな分野の研究者たちが集まり、そこから、どのように独創的な研究が生まれるのか? その秘密を、高知コア研究所の研究員、菊池早希子さん、奥田花也さん、佐藤侑人さん、そして、高精度な実験機器を維持するための技術支援グループから有本岳史さんの4名に語ってもらいました。(取材・文:岡田仁志)

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(漫画製作:酒井 春)

──今日は、さまざまな分野の方に集まっていただきましたので、最初にいまの研究テーマや業務の内容を含めて、それぞれ自己紹介をお願いします。

微生物を使って海水中のレアメタルを採取する!?

菊池早希子:私は4年半ほど前に高知コア研究所に着任しました。それまでもJAMSTECの横須賀本部でポストドクトラル研究員(以下、ポスドク研究員)として7年ぐらい過ごしましたので、このメンバーの中ではJAMSTEC歴は長い方だと思います。

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菊池早希子さん(撮影:市谷明美/講談社写真映像部)
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(漫画:酒井 春)

断層の下で何が起きている? 実験岩石力学で地震を解明する

奥田花也:僕は東京大学の大気海洋研究所で学位を取得しました。高知コア研究所に来て4年目に入ったところです。

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奥田花也さん(撮影:市谷明美/講談社写真映像部)
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(漫画:酒井 春)

プレートの底の境界面はどこに? 地球になぜプレートがあるのか

佐藤侑人:自分は早稲田大学で修士、東京大学で博士号を取得してから、中国の広州地球学研究所でポスドク研究員をやっていました。こちらに来たのは2024年6月ですから、いまは3年目になります。

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佐藤侑人さん(撮影:市谷明美/講談社写真映像部)
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地下30~60キロメートルの深さから来た「マントルかんらん岩捕獲岩」(撮影:市谷明美/講談社写真映像部)

人間が手に入れられる地球でいちばん深いところの石が、これなんです。

専門は岩石学と地球化学、あとは物質の変形と流動を扱うレオロジーもかじっています。中学2年ぐらいから鉱物収集が趣味で、研究は趣味から進化した実益になってます。研究対象は、地球のマントルにあるリソスフェアとアセノスフェアの境界、略して「LAB」と呼ばれる領域です。

リソスフェアは岩石圏という意味の言葉で、地質学的なタイムスケールで弾性的なふるまいをする領域をさしますが、アセノスフェアはより深い粘弾性を示す軟らかい領域のことを言います。リソスフェアはいわゆるプレートのことなので、LABは「プレートの底」にもあたりますね。

この境界領域を調べる研究には、マグマがマントル物質の断片を取り込んで火山で噴出した「マントル捕獲岩」という岩石を使うんですが、じつはこれが、ロマンたっぷりの石なんです。

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(漫画:酒井 春)

コア試料からリュウグウの試料まで。高知コア研の技術力の秘密

有本岳史:私も以前は研究者でした。ポスドク研究員のときにやっていたのは、地球の下部マントルの圧力と温度を実験装置で再現して、鉱物の結晶構造の変化を調べる研究です。

続けているうちに、実験施設の整備や保守の仕事に興味が出てきたため、方向転換しました。別の大学に移って技術職員として1年半ほど経験を積み、5年前に高知コア研究所の技術支援グループに入りました。

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有本岳史さん(撮影:市谷明美/講談社写真映像部)
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(漫画:酒井 春)

試薬や高圧ガスの安全管理、設備の不具合や機器の修理など、仕事は多岐にわたります。

研究者からの要望も多く、試料を-80℃で保管するディープフリーザーの耐震用金具を設置しました。300kgくらいある装置なので、地震で倒れたら大変なことになります。

また、温度が保たれていることをクラウド上で監視する遠隔システムも構築しました。自宅でもチェックできるので、研究者の負担が軽減できたと思います。

分野の違う研究者同士は、ふだんどんな会話をしている?

──研究の幅広さがよくわかりました。みなさん、分野はかなり違いますが、お互いの研究内容などはご存知なんですか?

菊池:ここでは自身の今の研究や今後の研究ビジョンについて話す機会が度々あるため、そういった機会を通じて皆の研究を理解しています。

奥田:細かいところまで把握できているわけではないですが、普段から話もよくするので、何をやっているのかは知っています。わからないことを質問することもあります。

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(撮影:市谷明美/講談社写真映像部)
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(漫画:酒井 春)

──佐藤さんは、この話わかります?

佐藤:自分の分野だと、地表に噴出したときにはドロドロのマグマは二酸化ケイ素に富んでいますが、深いところでは水や二酸化炭素が主成分の流体と混ざって超臨界状態になると言われていますね。「セカンド・クリティカル・エンドポイント」と呼ばれているものです。

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(撮影:市谷明美/講談社写真映像部)

奥田:知らない単語が出てきました。

菊池:日常的にも、こんなふうに色々な研究トピックに触れられる距離感でいられます。人数も多くないので、アットホームな雰囲気になります。

佐藤:居室も分野ごとに分かれていないですからね。いろんな分野の人が、すぐ近くにいるんです。自分の隣の席は菊池さんですし。

菊池:佐藤さんは鉱物マニアだから、よく「週末にこんな石を採ってきたんですよ」と嬉しそうに見せてくれます。おかげで私も、知っている鉱物が少しずつ増えてきました。

有本:私は技術職ですが、隣の席は研究者ですね。実験器具や設備に関する相談も気楽にできます。ふらっと私の席に来て、「こういうことをやりたいんだけど、どうしたらいいかな」などと声をかけられることもよくあります。

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(漫画:酒井 春)

高い実験精度を実現するために

──研究者のみなさんは、これまで有本さんにお願いしてやってもらったことは何かありますか?

菊池:実験室の電源を増やしていただきました。

有本:はい、コンセントをつくりました。そういう要望は多いです。

奥田:僕も来年、コンセントをつくりたいです。電源は大事で、たとえば2ヵ所のコンセントを同時に使った場合、電源が共有されていると、片方のコンセントにつないでいる装置からのノイズがもう片方のコンセントにつないでいる装置に伝わってしまうことがあります。

なので装置に使う電源は独立させたいですし、圧縮空気の配管の位置を変えたいときもあります。

──実験室には、そういう配管もあるんですね。

有本:そういう実験の環境を整えるのが私たちの仕事です。ほかの実験に支障が出ると困るので、必要に応じて全体と調整を行います。

研究者が実験機器の設計をすることも

──別の分野の研究者同士でいっしょに何かやることはあるんですか?

奥田:僕自身はまだ経験がありませんが、そういう話は聞いたことがあります。実験岩石力学分野とバイオ分野の先輩たちがコラボして、微生物の影響で断層が固くなる現象の実験をやったことがあるそうです。

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(撮影:市谷明美/講談社写真映像部)

佐藤:実験に使う試料の準備段階では、共同作業になることもよくありますよね。

奥田:僕も、佐藤さんのグループの装置を使って試料準備をすることがあります。そういうときも、距離が近いと相談しやすくていいですね。

──この研究所には最先端の実験装置がいくつもありますが、高知で仕事をすることを選んだのは、それも大きな理由なんでしょうか?

奥田:そうですね。僕は学生のときに3ヵ月ほどここに滞在して実験をやらせてもらったので、装置の重要性がよくわかりました。

僕の研究は装置がないと成り立たないのですが、摩擦試験機などは既製品ではないので、自分たちで設計します。たとえば産総研(産業技術総合研究所)にも摩擦試験機がありますが、ここと同じものではありません。どの装置も一点モノで、それぞれ特性が違います。

地震時に断層が高速で滑る現象を再現した実験

ふつう、水は100℃を超えると気体になりますが、地下深くの高圧状態では100℃を超えても液体のままです。気体と液体ではまったく違う物理現象が発生するので、地震を再現するには圧力をかけた状態での実験が欠かせません。

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(漫画:酒井 春)

さらに、2017年に導入した試験機は、高圧状態だけでなく、高温状態の超臨界流体の中での地震を再現でき、より震源に近い環境での摩擦特性を調べることができるようになりました。

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超臨界流体を再現できる摩擦試験機(撮影:市谷明美/講談社写真映像部)

──佐藤さんが使う実験装置も、ここにしかないものなんですか?

佐藤:自分の研究では、鉱物に含まれる水の量をppm単位で正確に測らなければいけないのですが、それができる装置は多くはありません。以前からFTIR(フーリエ変換赤外分光計)という機械を主に使って分析を行ってきましたが、コア研に来てSIMS(二次イオン質量分析計)を使わせてもらえるようになりました。この機械は世界トップクラスの精度で分析ができる装置なんです。

ポスドク時代に他の研究所でもSIMSを使う機会はありましたが、精度がそこまで高くありませんでした。同じ鉱物を測定しても、昨日500ppmだったのが、翌日にその隣のポイントを測ると400ppmだったりするんですね。100ppmもの差が出るようでは、研究の信頼性が損なわれかねません。それに対して、コア研のSIMSはせいぜい数ppm程度のズレしか出ないんです。

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二次イオン質量分析装置:SIMS(撮影:市谷明美/講談社写真映像部)
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(漫画:酒井 春)

研究所が高知にある意味とは

──高知は東京から離れていますが、それは研究者にとって大きな問題ではないんですか?

奥田:たしかに東京は研究者の集まりや大学も多いですが、この研究所は高知龍馬空港まで歩いて行けるほどの距離ですし、飛行機を使えば1時間半で東京に行けるので、地理的なデメリットはそれほど感じていません。

佐藤:正直、自分は電車通勤がないのですごく助かっています。とにかく都会の満員電車が辛かったので。車で15分ぐらいのところに住んでいて、通勤は本当に楽です。

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(撮影:市谷明美/講談社写真映像部)

菊池:たしかに、高知は東京やJAMSTEC横須賀本部から物理的な距離はありますが、それがマイナスだとは感じていません。むしろ、地方拠点だからこそできる研究を展開するチャンスと考えています。高知は、海洋深層水が湧昇する全国でも数少ない場所の一つです。私の場合は、高知に着任してから深層水を使った研究を始めました。

──深層水は何に使うんですか?

菊池:深海微生物の培養に使っています。私の研究対象としているバイオミネラルの一つにマンガン酸化物があります。

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マンガン酸化細菌の培養器(撮影:市谷明美/講談社写真映像部)
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(漫画:酒井 春)

コア試料研究の先にあるもの

──コア研には当然ながらコア試料がたくさん保管されていますが、みなさんの研究は、かならずしもコア試料を使うわけではないんですね。

菊池:そうですね。私はいまの研究には使っていませんが、世界でも稀なコア保管庫のある研究所に所属しているからには、いつか研究で扱ってみたいという気持ちはあります。

ここにはコア試料や実験機器を使うために、世界中から研究者がやって来ます。そうした様子を間近で見ていると、コア試料を通して研究が広がっていくのを実感しますし、「いいなぁ」と素直に感じます。

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世界の海域を3つに分け、それぞれにコア(海底下地質試料)が保管されている(撮影:市谷明美/講談社写真映像部)

佐藤:自分もいまのところコア試料は使っていませんが、ここにいるとコア試料を扱う機会はあるんです。先日も、保管しているコア試料を再記載するプロジェクトに参加させてもらいました。

保管庫で 300〜400メートル分の斑れい岩(はんれいがん)のコア試料の状態をチェックして、記録・サンプリングしました。自分の研究と直接的には関係しないお手伝いですが、新鮮な海洋下部地殻が見られるという滅多にない機会でしたし、なにしろ石が好きなのでとても楽しかったです。

奥田:僕は学生時代にも南海トラフの掘削コア試料を使った実験をやりましたし、いまでもコア試料を使う機会が多いです。2024年の「JTRACK」という研究航海にも参加しました。科学掘削航海には世界各国のさまざまな分野の研究者が参加しますから、コア試料を通した研究の広がりは本当に実感します。

ここにはコア試料に加えて、それを分析するための装置も集約されているので、年間で1000人を超える方が来所します。これだけ交流が活発だと情報も集まります。コア試料を使った研究に限らず、研究をするにはこの研究所は最適な場所だと思います。

コア試料からわかるのは掘削した地点の局所的な情報なので、それが地球を代表する一般的なものなのか、その場所だけの特殊なものなのかはわかりません。それを調べるために、僕らは再現実験をします。

実験はさまざまな条件をコントロールして比較できるので、その現象の背後にある物理や化学を明らかにできます。今後も、コア試料を使いながら、地震のメカニズムに迫る研究ができたらいいと思っています。

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(漫画:酒井 春)

佐藤:自分が研究しているLABは、陸については先行研究がたくさんあります。でも海洋のLABは、まだ物質的な研究がほとんどされていないフロンティアなんですよ。そこはJAMSTECの領分ですから、コア試料のある研究所にいるあいだに自分の研究を深めていきたいと思っています。

──意欲的な研究者の仕事を支える技術部門の役割もますます大きくなりそうですね。

有本:この研究所も創立20年を迎えて、建物の老朽化も少し気になるようになってきました。その対応をしっかりやっていこうと思います。

また、JAMSTECは7年ごとに中長期計画を立てていて、今年度から、新たな目標が設定されます。その計画に沿って、研究者のみなさんがうまく実験を進めていけるよう、基盤の整備をしていきたいと思います。

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左から佐藤侑人さん、菊池早希子さん、有本岳史さん、奥田花也さん(撮影:市谷明 美/講談社写真映像部)

取材・文:岡田 仁志
漫画製作:酒井 春
撮影:市谷 明美(講談社写真映像部)
取材・図版協力:物質地球科学研究部門 高知コア研究所
   地球微生物学研究グループ 菊池 早希子 副主任研究員
   岩石物性研究グループ 奥田 花也 研究員
   鉱物・地球化学研究グループ 佐藤 侑人 研究員
   技術支援グループ 有本 岳史 技術主任

<高知コア研究所について続けて読む>

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