外国の管轄水域での調査・観測がある場合
外国の管轄水域における海洋の科学的調査の同意申請(MSR申請)に関して
1.概要
外国の管轄水域(領海、排他的経済水域(EEZ)又は大陸棚(延長大陸棚含む))において海洋の科学的調査(Marine Scientific Research: MSR)を実施する場合、国連海洋法条約に基づき、沿岸国に対して、調査開始予定日の少なくとも6か月前までに外交ルートを通じて申請し、同意・許可(クリアランス)を得なくてはなりません(以下、「MSR申請」)。なお、国連海洋法条約を批准していない米国に対しても同様の手続きが必要です。
2.申請からクリアランス発給までの流れ
JAMSTECでは、条約で求められている6か月前までに沿岸国政府へ申請書を提出するため、各組織内での決裁・調整の時間を考慮し、出港日の9か月前を目処に首席・主席研究者と申請書原案の打合せを実施し、8か月前までに文部科学省へ申請書及び乗船者の暫定版名簿を提出しています(乗船研究者の最終版名簿は3か月前までに提出)。
3.首席・主席研究者が作成する書類
2.で説明しているように、出港日の9か月前を目処に申請書原案の打合せをすることから、10か月前を目処に、申請国(海域)及び調査時期について研究プラットフォーム運用開発部門企画調整部総括グループ(zeejamstec.go.jp)(以下、 「当グループ」)まで連絡頂くようお願いします。その際、申請書のフォーマット含め、首席・主席研究者で作成頂く必要がある書類一式をお渡しします。
(1)申請書一式
MSR申請は、原則、英語で、所定の書式を用いて申請をします。ただし、沿岸国によっては、独自の申請書類及び英語以外の言語で申請をしなければならないこともあります。
申請書には、調査目的や使用する調査方法及び手段(科学的機材を含む。)、調査海域(緯度経度範囲、観測点、航路等)、調査予定日等を記載しなければなりません。
申請書含め、首席・主席研究者が作成する書類は以下の通りです。
- 調査航海概要(和文)
- 乗船研究者名簿(和・英)
- MSRの同意申請書(英文)
- 【該当する場合】乗船研究者のCV(英文)
- 【該当する場合】主な使用機材の説明書(英文)
なお、MSRの同意申請書以外にも、調査方法やサンプルの種類、調査海域によっては、沿岸国の国内法等で別途申請及び同意・許可の取得が必要な場合があります。
(例)
- 海洋保護区における調査の特別許可申請
- 環境影響評価報告
- 特別採捕許可申請
- 遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)に関する許可申請
これらは、国連海洋法条約に基づくMSR申請とは異なり、沿岸国の国内法に基づく手続きであることから、原則、JAMSTECを通じてではなく、首席・主席研究者本人で書類の作成と提出をしてもらうことになりますので、ご注意ください。ただし、沿岸国によっては外交ルートによるMSR同意申請書と同時の提出を求められることがあります。
これらの申請の有無が、クリアランス発給に影響することもありますので、沿岸国の共同研究者を立てるなどして、必要な情報を収集し、出港日までに許可・同意を得るようにしてください。
(2)申請書の変更(追加、修正含む)
上記に説明したような手続上の背景から、原則、8か月前の文部科学省へ提出後に、申請書の内容の変更(追加、修正含む)は認めておりません。
沿岸国に提出した申請書の内容と異なる調査方法や調査海域であることが判明した場合、沿岸国から調査の停止・終了が要求される可能性があり、また、それによって取得した調査結果やデータは利用できません。研究者の独断で申請書の内容を変更することは、厳に慎んでください。
やむを得ない事情で変更が必要であることが判明した場合には、例外として、変更の可否に関して文部科学省及び外務省へ照会しますので、直ちに当グループまで連絡・相談ください。
なお、沿岸国へ申請書が渡った後の申請書内容の変更は、沿岸国によっては「新しい申請」と見なされることがあり、その場合、海洋法条約でいう6か月前申請の定めに従い、調査開始日を遅らせる必要がある可能性がありますのでご注意ください。
(3)乗船研究者名簿(最終版)の提出
乗船研究者名簿の最終版は、出港日の3か月前に提出しております。やむを得ない事情による首席・主席研究者の交代の場合を除き、この期日を過ぎた後の乗船研究者の交代及び追加は認められません。
なお、旅券(パスポート)の更新も記載内容の変更に該当しますので、残存有効期限に注意して、出港日の3か月前までに更新を終了してください。査証(ビザ)に関しては、入国予定日との関係上、出港日の3か月前までに確定させることは難しい場合があることから、出港日までに取得するようにしてください。
また、沿岸国の政府から要請のあった乗船者(監視員を含むオブザーバーや、政府から承認・依頼を受けて乗船してくる研究者等)に関しては、外交ルートでの要請・通知(クリアランスに明記されていた等)があった場合には、事前に名簿に記載する必要はありません。それ以外の、共同研究者としての乗船者は、全て出港日の3か月前までに確定させるようお願いします。
4.沿岸国からの付帯条件への対応
(1)乗船要求
クリアランスの付帯条件として、特に沿岸途上国からは、政府関係者(オブザーバー)や研究者の乗船要求がされる可能性があります。またこの際、旅費や日当などの費用負担を要請されることがあります。
基本的に、外交ルートでの要請やクリアランスに記載があった場合には、これらの乗船要求は拒否できません。乗船要求は、クリアランス発給の前提条件となることが多いことから、首席・主席研究者は乗船要求の可能性を十分考慮した上で、乗船者人数の調整や寄港地の選定をしてください。
なお、JAMSTECから文部科学省へ申請書を提出した後は、外交ルートに基づく手続きが開始されるため、これ以降にMSRの同意申請に関して、沿岸国の政府当局及び研究者と独自に調整をするのは控えてください。
調整の必要が生じた場合には、外交ルートを通じて照会をしますので、速やかに当グループまで連絡してください。なお、首席・主席研究者個人で申請が必要なものは、随時、調整を進めながら、当グループにも情報を共有してください。(3.(1)参照)。
外交ルートを通さず独自に調整をした結果、沿岸国政府等から別途質問や要求があった場合、既存の申請との間で混乱が生じ、結果的に、クリアランス発給が遅れる又は発給されない可能性がありますのでご注意ください。
沿岸国政府から首席・主席研究者宛に直接照会があった場合は、必ず、当グループにそのことを共有してください。必要に応じ、外交ルートを通じて沿岸国政府に回答をしてもらいます。
(2)海域調査要請
沿岸国から、沿岸国の海域の調査依頼が要請されることがあります(例:海底地形調査など)。これらは任意の「協力依頼」であることが多いですが、当該沿岸国との良好な関係を維持継続するため、可能な範囲で、協力することを検討してください。
(3)報告書提出義務
沿岸国からは、研究航海完了後に、「予備報告書」(preliminary report)及び「最終報告書」(final/full report)並びに「航海概要報告書」(ROSCOP-CSR)又は採取したサンプルリストの提出を求められることがあります(基本的に英語だが、指定言語のこともある。)。これらはあくまでも海洋調査(航海)の事実に関する報告であり、取得したデータやサンプルの学術的分析に関する最終結果を意味するものではありません。
報告書の書式は、沿岸国から指定があった場合を除き、国連標準書式“Preliminary Cruise Report”を「予備報告書」として、クルーズレポートを沿岸国提出用に整えたものを「最終報告書」として沿岸国に提出します。「航海概要報告書」に関しては、国際的なROSCOP-CSRフォーマットに基づき作成してもらいます。「サンプルリスト」に関しては、メタデータシートの英語版であることが望ましいですが、書式はそれに限りません。
いずれも提出期限が比較的短い(予備報告書や航海概要報告書、サンプルリストは1~3か月以内、最終報告書は6か月~1年以内であることが多く、また、沿岸国によっては管轄水域出域日からカウントする場合もある)ことから、首席・主席研究者は、これら報告書を作成し、遅くとも指定期限の1か月前までに、当グループまで提出するようお願いします。
5.注意事項
(1)計画段階
- MSRの同意申請以外の、沿岸国の国内法令等に基づく、独自の申請手続の有無を念頭において、申請書を作成してください。
- 沿岸国の共同研究機関や共同研究者を探し、共同研究の打診をしておくことは、クリアランス発給審査の際に有利に働くことがあります。
- 円滑なクリアランス発給のため、沿岸国からの外交ルートでの質問・要求に迅速に対応できるよう、連絡体制を整えておいてください。
- 機構船舶による航海において、海外機関からアルゴフロート等の観測機器の投入依頼を受けることがあります。その場合、沿岸国からの事前同意取得等含め、それらの観測機器の投入に係る必要な諸手続きを依頼元機関の責任において実施することを誓約いただくレターを機構宛に提出いただいております。該当する場合にはお早めに当グループにご連絡ください。
(2)調査開始後(出港~下船まで)
- 申請内容と異なる海域や期間を大きく外れる調査、申請していないデータ及びサンプルの採取、観測機器等の設置は認められません。申請内容と異なる活動をした場合、当該データの使用・公開は認められません。調査中にそれが判明した場合は、沿岸国から、調査活動の停止又は終了が要求される場合があります。
(3)調査終了後
- 研究航海の終了後、収集・採取したデータ及びサンプルの提供が求められることがあります。
問い合わせ先
国立研究開発法人海洋研究開発機構
研究プラットフォーム運用部門企画調整部総括グループ