すべての生命に共通する祖先が誕生したのは、38億年以上前だと考えられています。その生命は、自ら有機物をつくれる「独立栄養生命」だったのか、ほかから有機物を利用して生きる「従属栄養生命」だったのか。その議論が世界中の研究者の間で続く中、このたび、この2つの説を統合してそれぞれの弱点を解決した「混合栄養生命説」が発表されました。
生命誕生に迫る始原的代謝系の発見
~多元的オミクス研究による新奇TCA回路(クエン酸回路)の証明~
論文タイトル:A primordial and reversible TCA cycle in a facultatively chemolithoautotrophic thermophile .
この論文をScienceに発表した、布浦 拓郎海洋生命理工学研究開発センター長代理に聞きます。今回の内容はちょっと難しいですよ! がんばって一緒に謎解きしましょう!
【目次】
▶ 最初の生命は、従属栄養か独立栄養か?
▶ 始原的な微生物Thermosulfidibacter
▶ 全ゲノム解析から出てきた謎
▶ どのようにして炭素固定をしている?
▶ 混合栄養生命説
小さい時から生き物を不思議に思い、なんとなく好きで興味がありました。生物を扱う仕事がしたいと京都大学農学部に進学しました。講義を受けたり本を読んだりするうちに、生物の一番根源的な問題である“生命の起源”に興味を抱くようになりました。そして海洋微生物学の研究室に入り、現在に至ります。ただ、実際に海洋微生物が研究対象になったのはJAMSTECに来てからです。
初期生命については、現在2つの説があります(図1)。1つは、「独立栄養生命起源説」です。たとえば鉱物などの表面で水素などの化学エネルギーを得て、炭素固定をして有機物をつくり生きるものが誕生したという説です。
もう1つは、「従属栄養生命起源説」です。有機物のプールで、その有機物を利用して生きるものが誕生したという説です。
しかし、従属栄養生命起源説だと、プールの中の有機物を生物自身が使いきったら生命が途絶えることになります。だからといって独立栄養生命起源説でも謎が残ります。有機物をどのように濃集させて細胞をつくるのか、また、生命が誕生するには有機物が濃くなることが必要ですが、それだけ濃い有機物を何故使わなかったのかわからないのです。
議論の決着がつかない中、このたび我々が発表したのが、2つの説を統合してそれぞれの弱点を解決した「混合栄養生命説」です。