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話題の研究 謎解き解説

東北地方太平洋沖地震の余震発生域に、段差や割れ目

無人探査機「ハイパードルフィン」で福島沖の海底を潜航調査したところ、たくさんの段差や割れ目を発見しました。2016年11月22日に福島沖で発生したM7.4の地震の影響でできた可能性があります。今回はこちらを紹介します。

三陸沖での東北海洋生態系調査研究船「新青丸」による海底観察等の結果について(速報)

  • 2011年の東北地方太平洋沖地震の余震とされる地震が、福島沖で2011年11月22日に発生した。東北マリンサイエンス拠点形成事業()の研究航海の一部で、その福島沖の地震の震源域を調査した。
  • 「ハイパードルフィン」による潜航調査で、比較的最近できたと考えられる1~2mの段差や割れ目などを発見した。
  • サブボトムプロファイラーによる地層探査で複数の地層のずれ(断層)を確認した。

研究航海に乗船した笠谷貴史主任技術研究員と土田真二技術副主幹にお話を聞きました(写真1)。

研究航海、お疲れ様でした。

笠谷:ありがとうございます。東北マリンサイエンス拠点形成事業の一環として福島沖から三陸沖にかけて研究航海を行いました(写真1)。

写真1 土田真二技術副主幹(左)と笠谷貴史主任技術研究員(右)。後ろは整備中の無人探査機「ハイパードルフィン」

今回のプレスリリースは、その研究航海の中でも福島沖の調査にあたるのですね。

笠谷:福島沖では、2011年の東北地方太平洋沖地震の余震とされるM7.4の地震が2016年11月22日に発生しました。その震源は海底下約10㎞。陸のプレートの地殻内で発生し(図1)、最大で高さ1.4mの津波を引き起こしました。


図1 陸のプレートの地殻内で発生する地震

笠谷:津波が発生するということは、海底に何らかの異変があったことを意味します。それを調べるため我々は東北海洋生態系調査研究船「新青丸」(写真2)に乗船し、2017年2月12日から14日に福島沖を調査しました。


写真2 東北海洋生態系調査研究船「新青丸」

どんな調査をしたのですか?

土田:海底で段差や割れ目などを“追うように”見るために、無人探査機「ハイパードルフィン」(写真3、図2)による潜航調査を行いました。


写真3 無人探査機「ハイパードルフィン」

図2 潜航イメージ

これに加えて、音響装置による海底地形と地質構造の精密調査を行いました。

研究航海でお二人はどんな役割だったのですか?

土田:私はこの研究航海の指揮を執る首席研究者でした。「ハイパードルフィン」による生物観察やサンプリング、その後の分析など生物分野を担当しました。

笠谷:私は、この研究航海で唯一の固体地球系の研究者でした。「ハイパードルフィン」による海底観察、音響機器を使った海底地形や地層探査を担当しました。

どんな場所を調べたのですか?

笠谷:福島沖地震の震源から約20㎞と約30㎞の海域を中心としました(図3)。約20km離れた海域は、地震直後に行われた調査で明瞭な海底変異が報告されていた場所です。

図3 調査海域(赤三角がハイパードルフィンの潜航ポイント。星が2016年11月22日に発生した地震の震源)


写真4 「ハイパードルフィン」を船尾から海に降ろす様子

海底の様子はいかがでしたか?

笠谷:「ハイパードルフィン」による1回目の潜航(#1999)では、北東南西方向に延びる幅1~2mの割れ目、高さ2mほどの小さな崖を発見しました(図4)。ほかに、白い変色域や、割れ目の壁面から貝殻が密集している層などを観察しました。


図4 第1,999潜航の航跡と観察したものの一部

笠谷:翌日の潜航(#2000)では、幅が狭くなったり広くなったり、浅くなったり深くなったりしながら続く割れ目や、角が立ってあまり時間が経っていないと思われる亀裂を観察しました(図5)。割れ目の底で大量に群がるヨコエビも発見しました。


図5 航第2,000潜航の航跡と観察したもの

土田:福島沖の2回の潜航調査をまとめたものがこちらです。


映像 福島沖の海底の様子など

福島沖の海底はこんなにも荒々しい地形が広がっているのですね。。

笠谷:その通りです。ただ、今回の1回の地震だけで、この2mの崖や付近の地形ができたとは考えていません。おそらく、過去の地震活動により変位地形が形成されており、そこに2016年11月22日の地震の影響が加わったのではないかと考えています。割れ目や段差などは北北東-南南西に延びていて、今回の地震の余震分布や震源メカニズムとおおよそ一致しているようです。

海底はどこもこんなにデコボコしているのですか?

土田:私は20年近い乗船経験がありますが、こんなに起伏の激しい段差を、浅い海底で見たのは初めてです。今回の航海では三陸沖も調査しましたが、泥が堆積したフラットな地形が主で、浅い場所では最近の地震の影響を受けたような地形は見られませんでした。それに対して福島沖の海底で見られた多くの段差は比較的最近できたと思われるものや少し古そうなものなどがあり、過去に同様な地震があったことが想像できるものでした。

福島沖の海底は、研究者も驚く光景だったのですね。マグニチュードいくつ以上だと海底に亀裂ができる、といったことは言えるのですか?

笠谷:それはわかりません。地震の震源の深さや構造によって、海底に変異が現れるかどうかも変わります。

そうなのですね。白い変色域は、何ですか?

土田:バクテリアが増殖して塊状になったバクテリアマットだと考えています(写真5)。


写真5 白い変色域

土田:断層活動などによって海底の中に大量に含まれていたメタンが湧き出ると、そのメタンと海水中の硫酸イオンが反応して硫化水素を作ります。その硫化水素をエネルギー源にバクテリアが増殖してマット状になることがあります。こうしたバクテリアマットは、2011年の東北地方太平洋沖地震直後に行われた調査でも規模の大きなものが発見されました。

断層活動などでメタンが湧き出ることでバクテリアマットができた可能性があるのですね。ならば、バクテリアマット=地震でできたもの、とみなすのですか?

土田:それはわかりません。まずバクテリアの種類やどういう栄養源で増えるものなのかなどを明らかにする必要があります。

ヨコエビの密集も見られたようですね。

土田:これはフトヒゲソコエビの仲間です(写真6)。ヨコエビという甲殻類の一種なのですが、こんなに大量に密集しているのを見るのは私も初めてでした。何か食べ物に群がっていると思いますが、ふつうは有機物がたまるとヨコエビ以外の他の生物も集まるはずです。今回はそれが見られなかったので、単なる有機物ではないのかもしれません。くぼ地に密集していたために「ハイパードルフィン」のマニピュレータが届かず、サンプリングはできませんでした。


写真6 ヨコエビの群集

土田:このほか、貝殻が大量にたまっている層を発見しました(図6)。


図6 貝殻の密集した層

土田:写真では一部分しか見えませんが、離れた場所にもあったので、かなり広範囲に広がっている可能性があります。採集した試料を軟体動物の専門家に見てもらうと、水深50mくらいに生息する種類にあたると言われました。なぜ大量にたまった層ができたのか理由はわかりません。

笠谷:もしかしたら海水準が下がって陸地が広がった時代(海退時)に、たまってできた可能性がありますが詳細な検討が必要です。

このほか、海底地形や海底下構造の調査をしました。

どのように海底地形や海底下構造を調べるのですか?

笠谷:「マルチビーム音響測深機」と「サブボトムプロファイラ」という観測機器を使いました。

マルチビーム音響測深機(図7)は、海底地形を調べる手法です。水深を測る基本的な原理は、船底から音波を送信して海底からの反射波を受信し、音波の往復にかかった時間と海中での音波速度をかけて水深を算出するというものです。マルチビーム音響測深機はその音波を扇状に送信することで、一定幅の範囲の詳細な水深データを一度に得ることができます。今回は200kHzの音波を用いているので微細な地形情報を得ることが出来ます。


図7 海底地形を調べるマルチビーム音響測深機

笠谷:そして、サブボトムプロファイラは、海底下数十mの地層を精密に調べる手法です。低周波数の音波を船底から送信すると海底下に入り、地層面などで反射します。その反射をとらえて海底下の地層断面図ができあがり、過去の堆積の様子や断層の分布を明らかにすることが出来ます。

海底地形や地質構造の調査結果はいかがでしたか?

笠谷:海底地形図上(図8上)に筋状に見える部分が海底地形のズレと思われる場所になります。第1999潜航付近の地層の様子を示したのが図8の下の図です。堆積物は基本的にほぼ水平に溜まっていきます。しかし、この図から分かるように、地層のズレがあちこちに見て取ることが出来ます。特に赤矢印の付近では、地表で見られた変位地形に加え、その地下では地層のズレが確認できます。また、地表に近いところの地層もずれているので、比較的最近にも何らかの変位を生じさせる活動があったと推測されます。


図8 調査で明らかになった海底地形と地質構造

今後はどのような研究をする予定ですか?

笠谷:潜航映像を見直して、観察された事象をまとめたルートマップを作成したいと考えています。作成したルートマップに、サブボトムプロファイラの解析から得られる地層変異の情報も合わせて検討することで、その場所の活動の履歴の理解にも結び付くと期待されます。

分析結果の報告もお待ちしています。ありがとうございました。

※2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震とそれに伴う津波による海洋生態系への影響を研究し、被災地漁業の復興へ貢献することを目指した東北大学、東京大学等と協力したプロジェクト。文部科学省の海洋生態系研究開発拠点機能形成事業費補助金にて実施。