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話題の研究 謎解き解説

極限環境の強アルカリ性の泉から、常識外れな微生物を発見!

【目次】
極限環境を生き抜く生存戦略を知りたい
強アルカリ性の水が湧き出し極限環境をつくる「ザ・シダーズ」の泉
メタゲノム解析で、徹底解析!
あの遺伝子もこの遺伝子もない、どうやって生きてるの?
常識外れな微生物が持つ、人間の想像を越えた機能を明らかにしたい

あの遺伝子もこの遺伝子もない、どうやって生きてるの?

微生物がどのように常識外れなのか聞かせてください。

発見した微生物は、私たちが思う“生命には絶対に必要な遺伝子”が欠落していました(図3)。


図3 多くの生命が持つ機能を持っていない、今回の常識外れな微生物

たとえば、呼吸をつかさどる遺伝子がありません。何もないということは呼吸をしないということです。また、“ATP”合成酵素の遺伝子もありませんでした。ATPとはエネルギーの通貨のようなもので、人間でいうお金です。微生物は、栄養を取り込むなどエネルギーを使わないとできないすべての作業にこのATPを使います。だからATPを体内で作る遺伝子をこれまではすべての生物が持っていました。しかしこの常識外れな微生物にはそのATPを作る遺伝子が無いのです。けれど、ややこしいのですがATPは “別の形” では作られていると思っています。それがどのようにかはまだわかりません。また、正確には、細胞壁(ペプチドグリカン)は作れるのですが、内側の膜(リン脂質)を作る遺伝子はありませんでした。

生命ならばあるはずの遺伝子がことごとく無い、と。

そして、ゲノムのサイズが小さい。バクテリアにおいて最小だと思われます。一般的に、生命が必要な遺伝子を全セット持つには1,000個必要だと言われています。しかし今回の微生物の遺伝子は約400個しかありませんでした。

ゲノムサイズが小さいことは、何を意味するのですか。

ゲノムサイズが大きいほど、DNAの材料(リンや炭素)が多く必要です。しかし、ザ・シダーズはそれらがほとんどありません。追い込まれたこの常識外れな微生物は、どんどん遺伝子を落としてゲノムを小さくすることで、生き残ったのだと考えます。

そうなのですね。

微生物があまりに変なので、どこにいたのかも調べました。自分だけでは何もできないから、別の微生物の中で共生しているのかと思ったのです。分析結果から、かんらん岩の表面にかたまって付着していたことを確認しました(写真7)。蛇紋岩化作用に依存するのかもしれません。


写真7 顕微鏡でみた、微小鉱物に付着する微生物

写真8 顕微鏡でみた、微生物が付着している物質。かんらん岩の成分である鉄、シリカ、マグネシウムに付着している。

この微生物は、本当に生きているのでしょうか。

ゲノム解析の結果から水中で増殖(自己複製)していることを確認したので、生きていると思います。ただ、色々解析しましたがどうやって生きているのかはまだわかりません。従来の微生物とは異なる形でエネルギーを獲得する機能を持っている可能性があります。