【目次】
▶ 日本海ができたのは、なぜ?
▶ 青ヶ島リフト、明神リフト、スミスリフトの海底は、現在拡大中
▶ ドレッジャーで、玄武岩を採取
▶ 従来の考えでは説明がつかないジルコニウム量を含んだ玄武岩を発見
▶ 研究が楽しくて仕方ない!
まず化学組成の分析から、ジルコニウム(Zr)を多く含んだ玄武岩(高Zr玄武岩)と、ジルコニウムに乏しい玄武岩(低Zr玄武岩)の2種類があるとわかりました(図6)。ジルコニウムは通常玄武岩にある程度含まれている元素ですが、量に差のある2種類がこの地域に存在するとわかったのは初めてです。中でも高Zr玄武岩(写真3)は、スミスリフトにしかありませんでした。
従来は、玄武岩中のジルコニウム量の違いは、その源であるマントルの溶け具合によると考えられていました。マントルが少し溶けてできたマグマからの玄武岩はジルコニウムが多く、反対にマントルが多く溶けてできたマグマからの玄武岩はジルコニウムが少ないことが知られています。
ところが今回の高Zr玄武岩のジルコニウム量は、ほかの様々な分析結果を鑑みても、マントルの溶け具合だけではどうしても説明ができませんでした。
考えられたのはスラブの影響です。そこで、スラブ由来の物質がどれだけマグマに入り込んでいるのか知るために、プレートの沈み込みがない中央海嶺の玄武岩と、高Zr玄武岩、低Zr玄武岩に含まれるそれぞれの微量成分を比較しました。
その結果、低Zr玄武岩のジルコニウムはマントル由来のみ、高Zr玄武岩のジルコニウムはマントル由来とスラブ由来両方を含んでいる可能性が考えられました(図7)。
しかしながら、スラブからジルコニウムが溶け出るには、スラブが通常よりも高い900℃以上であることが必要です。
その通りです。「高温アセノスフェアによる影響がこの高Zr玄武岩に出ているかもしれない」、そう考えました。そこで、本当にスラブからジルコニウムが溶け出ているのかを確かめるために、ネオジム(Nd)とハフニウム(Hf)の同位体比の割合を分析しました。ネオジムは銀白色の金属、ハフニウムはジルコニウムと化学的性質が似た金属です。Nd:Hfの同位体の割合は物質によって変わり、先行研究からスラブ由来の水とマントルの値はわかっています(図8)。
スラブ由来の水でマントルが溶けてできたマグマから玄武岩ができるので、玄武岩のNd:Hfの同位体の割合はスラブ由来の水とマントルの間に入ることになります。このとき、スラブ由来の水にジルコニウムが溶け出ているか否かで、玄武岩のNd:Hfの同位体の割合の傾向が分かれます。ですからスラブ由来の水にジルコニウムが含まれる場合、つまり「スラブが高温の場合」と、スラブ由来の水にジルコニウムが含まれない場合、つまり「スラブが低温の場合」で、Nd:Hfの同位体の割合がどのように変化するのかを推定しました(図9)。
低Zr玄武岩はスラブが低温の場合の青線付近に、高Zr玄武岩はスラブが高温の場合の赤線付近に集まりました(図10)。
やはり高Zr玄武岩には、スラブから高温で溶け出たジルコニウムが含まれていると、Nd:Hf同位体の割合からも示されたのです。
さらに地震波速度構造で一帯の海底下構造を調べたところ、高Zr玄武岩がとれたスミスリフトの下では地震波速度が遅くなっていました(図11)。地震波速度が遅いことは、高温場や液体があることを意味します。
一連の結果から、この地震波速度の遅い部分は高温のアセノスフェアであると考えられました。つまりスミスリフトの下では熱いマントル、アセノスフェアが流入している、スラブが溶けていることがわかりました(図12)。
今回の結果は高温アセノスフェアの存在でスラブが溶けていることを突き止めたものの、これだけで日本海の全容解明になるわけではありません。しかし、高温アセノスフェアの流入が背弧海盆の成因に寄与する、ということは言えるようになりました。日本海を始め背弧海盆は世界中にあります。それらの成因を考える時に、本成果が重要な材料になると考えています。